第7話 やはり年上女性は魅力的

「……結構いいね」

「そりゃどうも」


 珍しく甘蜜に褒められた俺は、恥ずかしい気持ちを紛らわすためにセットされた前髪を撫でる程度に触る。

 

 今の流行を意識した、爽やかなヘアスタイル。

 髪はそこまで切らなかったのだが、その分セットで遊び甲斐があったらしく、ほとんどの時間をセットに充ててもらった。

 

 時間をかけた成果もあって、正直前の俺とは見違えるほどに好青年感が出た。

 鏡見た時、正直誰かと思った。


 そんな俺の隣にはドヤ顔をしている美容師のお姉さんがいて、セットしてもらっているときも思っていたが、年上のお姉さんは最高だなと思う。

 俺の青春ラブコメのヒロインはここにいたのか……。


「夜君意外と元が良かったみたいでぇ~、イメチェンしたら結構いい感じになっちゃった。てへっ」

「ちょっと意外ってなんですか? 聞こえちゃいけない言葉が聞こえた気がするんですけど」

「夜君、それは気のせいだよ?」

「上目遣いで隠蔽してきてる……」


 まぁその上目遣いの破壊力はえげつなかったので、もちろん隠蔽の片棒をルンルンで担がせていただきます。

 むしろお礼が言いたいぐらいだ。上目遣い感謝。アーメン。


「苺ちゃん結構満足そうだし、お姉さん頑張った甲斐があったかな?」

「まっ、まぁそうですね。私としては、さすが美容師の腕! って感じです」

「もぉ~苺ちゃんは素直じゃないなぁ」


 見たところ、意外にもお姉さんの言った通り甘蜜の評価はよさげな感じがする。

 天使モードだから感情の起伏がわかりやすい。だが、お姉さんに気を遣って演じているという可能性も捨てきれない。


 つまり結論。甘蜜の本音など分からん。ってか、なんか怖いから考えたくない。


「夜君は、今日教えた通りにワックスとかで髪セットしてみてね」

「あっはい。わかりました」

「じゃあデート、再開だ! 行ってこい若人よ!」

「新城さんもなかなか若人だと思いますけど⁈ っていうか、デートじゃないですから!」

「ほれほれ行った行った~」

「もぉ~」


 甘蜜は不満の声を漏らしながらも、最後は律儀に「ありがとうございました」とお辞儀をして店を出た。


「夜君また来てね~」


 お姉さんにひらひらと手を振られる。

 さらに満面の笑み付きという、もはやハッピーセットを超越した特大サービスがあって、俺は胸をずきゅんと撃ち抜かれた。


「はい! 絶対来ます!」


 気恥ずかしさなど忘れて俺も手を振り、甘蜜の背中を追う。

 隣に並んだ時、甘蜜の心底不機嫌そうな顔が目に入った。


「いつの間に下の名前呼びになったのね」


 唐突にそう言われる。

 

「確かに……全然気が付かなかった。まぁ仁神より夜の方が言いやすいもんな」

「ふ~ん……」


 自分で聞いておきながら、なんでそんな「興味ないわそんな話」みたいな顔されなあかんのですか。

 ほんとに悪魔モードに甘蜜は困るほどにわがままである。それに考えてることがわからん。


 まぁ女子の考えてることなんて、分かるはずもないのだけど。


「行くわよ下僕。まだ服がだっさださのままよ」

「なんか言い方きつくなってね?」

「気のせいよ」


 いや、間違いなくきつくなってる。

 学校で粘着質の男にしつこく絡まれた日の放課後並みに毒舌だ。

 ほんと、あの日は思い出したくないほどに毒を浴びたんだよな……。


 だからその経験から毒舌を受け流す技を習得した俺は、下僕だと言われようが気づくはずもなく。

 相変わらず口わりぃなぁと思いながら一歩下がって甘蜜の一歩後ろを歩くのだった。




   ***




「最近苺、全然私たちに構ってくれなくなっちゃったよねぇ」

「だねぇ。まぁ苺が用事あるならしょうがないことなんだけどさぁ」


 苺と夜のクラスのトップカーストに属す苺の友人、葉月と真由美。

 二人はトップカースト内でも目立つ存在であり、苺には及ばないとはいえ、街を歩けば数人に声を掛けられるほどの美少女である。


 また苺との付き合いも長く、学校では三人で行動することが多かった。


 そんな二人が現在いるのは、大型ショッピングモール、『るるぽーと』。

 これから訪れる冬に備えて、冬服を買いに来ていた。


「でもあの目撃情報がほんとならさ、苺彼氏いるってことだよね」

「そうなるね。でもだったらなんで私たちに言ってくれないんだろう」

「むぅ~……まぁでも、友達でも隠し事の一つや二つあるものなんじゃない?」

「そうだけどさぁ~」


 やはり女子高校生として、友達の恋路が気になる葉月。

 ただ苺に限って言わないということは何か理由があるので、実際に見たわけでもないので強引には聞けなかった。


「うぅ~もやもやするぅ~」

「まっ、そこは友達として苺が話してくれるのを待ってようよ」

「……そうだね。うん、そうしよう」


 その結論に至って、二人は買い物を再開した。

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