他人に甘々な優しい天使が俺にだけ毒を吐いてくるんだが
本町かまくら
第1話 完璧なんてあるわけがない
「おぉ~確かにそれ可愛いね!」
「でしょでしょ~! 彼氏に選んでもらったんだけど、めっちゃお気に入りなの!」
「花の彼氏さんはほんとセンスある! それに花のことよく知ってるよね。いい彼氏さんだなぁ」
「苺だったら絶対私の彼氏よりもいい彼氏できるって!」
「えぇー? そんなことないよ~」
クラスのまさに中心で談笑する煌びやかなグループ。
全体的に個人のレベルが高く、まさにトップカーストと言っていいだろう。
そしてそのトップカーストの頂点に君臨する女子生徒の名は――甘蜜苺(かんみついちご)。
容姿端麗頭脳明晰。欠点を探そうと思ったら優れた点しか見えてこない才色兼備の完璧美少女。
クォーターらしく、明らかに日本人離れした長いブロンドの髪は違和感なく、むしろ彼女のために金髪美少女というカテゴリーがあるんじゃないかと思うほどに似合っていた。
スタイルも抜群で、普通にモデルをやっていてもおかしくないレベル。むしろ芸能界に進出していないのがおかしいほどだ。
どこまでも完璧な彼女は、加えて人望もあり、すべての人間から好かれている。彼女の浮いた話を、盗み聞きというスキルを持つ俺でも聞いたことがない。
まさに完璧すぎる美少女。俺はここまで何もかもが揃っている人物を見たことがない。いや、そもそも知ってる人物少ないんだけどね。
この世に完璧なんてないのだと誰かが言っていたが、正直昔の俺は彼女を見た時その言葉を疑った。
それほどに超がつくほどの完璧美少女である。
それに比べて俺、仁神夜(にがみよる)は人間と呼んでいいのかすら危ういほどに何もかも彼女に圧倒的に劣っていた。
容姿はこれと言って特筆することはないし、むしろ猫背でクマがすごくて人相が悪いとよく言われる。
もちろん運動は何もできない。ハンドボール投げ二メートルという大記録を打ち立てたのは俺のこと。もはや神童とは俺。
ただ強いて言うなら成績は悪くない。大体十位台。たぶん誇るべきところはそこくらいだけど、今学年一位を取り続けている甘蜜と比べるとやはり劣る。
この調子でもちろん人望もなく、素晴らしいことに友達はゼロ。……スタンディングオベーションするのはまだ早いぞ諸君。ってかするな。
まさに彼女と正反対と言っていい。
いっそのこと清々しいくらいだ。むしろいいことかもしれない。この若さにして自分の能力を見定めることができたのだから。エロく言うなら、「あなたが私を……大人にしたのよ……?」
うんキモいな、
でもまぁこれで「総理大臣になって俺のハーレムを作る!」とかいう無謀な夢を見ずに済んだ。ちなみにこれは小6の頃の俺の夢。
ほんとお礼を言いたいね。言ってしまおうどうもありがとう。
まぁこんな俺だから、当然のように彼女と関わりなんてあるはずもなく、話したことなんて一度もない……みたいなのが普通の現実なのだが……。
「ほらお前ら席につけ~。授業を始めるぞ~」
先ほどまで固まっていたグループが、「えぇ~」と不満の声を漏らしながらも席に戻っていく。
甘蜜はもともと自分の席の周りに人が集まっていたので、そのまま席に座る。
座った姿はまさに天使。
心なしか甘蜜の背後に雲が集まって、インスタ映えスポットの羽のようになっている。何この贔屓。先生に言うぞ。
「えぇーじゃあ前回の授業の復習から――」
授業がしれっと始まる。
『ブブ』
俺のポケットの中に入っていたスマホが振動した。
幸いにも俺の席は最後列なので授業中にスマホを触っていてもあまりバレず、いつものように机の下でスマホを起動し、通知をタップした。
『甘蜜苺:なんなのあの彼氏自慢。めっちゃムカつくんだけど。私彼氏いないっつーの。マウントウザ』
スマホに表示されたメッセージの送り主、甘蜜苺。
それは紛れもないあの甘蜜である。
この世の中に完璧なんてものは存在しない。
まさにその通りだと思う。
だって完璧だと思っていたあの甘蜜だって――
俺に毒を吐いてくるのだから。
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