未奈美 3-2

 二時間もすれば朝倉くんも大阪に着く。場所は伝えてあるから、ここで待っていれば合流できるだろうが、しかしそれまで敬ちゃんたちが出てこないとも限らない。

 こんなことなら充電器を買っておけばよかった。いつかニノが購入していた時のことを思い出す。あの時は使わないとばかり思っていたけど、なるほど、こういう事態もあるわけだ。


 朝倉くんの言うとおり、遊園地に入るか、スマホの充電器を買いにコンビニエンスストアに行くか。

 散々悩んで、私はバイクに乗り、一旦遊園地を出た。コンビニの所在は分からないが、今の時世、大通りを走ればコンビニにぶつかる。

 すぐに見つかるはずと踏んで、私は遊園地から一旦離れた。辺りは倉庫が立ち並んでいて、とてもコンビニがありそうにはなく、私はこの場所より少し離れた市街地をまず目指した。

 大型トラックが数台、横を通り過ぎる。きっとその為なのだろう、道路の幅は随分と広く、景色は開けている。

 遊園地は随分交通の便の悪いところに建設されているが、観客の喚声や、アトラクションの出すけたたましい騒音を考えれば、あんなものを街中に建設するわけにはいかないのだろう。


 高速道路の高架を境界線に一気に風景はがらりと変わり、工業地帯に入った。大通りを少し入ったところで、すぐにコンビニが見つかった。

 ニノは確かコンビニで携帯電話の充電器を買っていた。どこでも売っている類のものなのだろう。バイクを止めて、私は急いでコンビニのガラス戸の自動扉をくぐった。


 充電器を購入してコンビニから出て、すぐに充電器をスマホに挿し、また遊園地へと引き返す。朝倉くんに連絡を取ろうかと考えたが、その間に、敬ちゃんたちが遊園地から出ては意味がないので、先に遊園地に戻ることが先決だと思い至った。

 来た道と同じ、高速道路の高架下をくぐり、開けた道を進んで、遊園地の前に戻ってきた。バイクを再度駐車場に停めて、一応変装用に持ってきておいた帽子をかぶった。帽子を被ったり、後ろで髪を括ったりすることなど滅多にない私は、これだけでも結構な変装になっていると自分でも思う。


 充電器を挿したまま、いつもより重く感じられるスマホで、朝倉くんに電話をかけた。

 しばらくのコール音が続いたが、朝倉くんは電話に出ない。高速道路を走っている最中なのだろう。私はかけ直して来るだろうと踏んで、スマホをジャケットの胸ポケットに入れて、遊園地の入場券を購入した。

 どうして恋人と別々に遊園地の門をくぐらなければならないのだろう、とほんの少し悲しくなったが、沈んでもいられないので、私は気を取り直して、園内に足を踏み入れた。


 ニノには服装を見られているから、特に見つからないように気をつけなければならない。

 そんなことを考えながら、広場を横断すると、親子連れがアイスクリームを食べているのが見えた。

 そろそろ、良い具合に空腹になっていた。私はとりあえず目の前の出店で、チョコレートのクレープを買い、一時の飢えに耐える。

 一時を過ぎた頃だった。今なら丁度昼食でも取っているだろうか。私は慎重に園内のレストランの集まる通りを目指して歩き始めた。


 コンビニを往復するだけで随分と時間がかかってしまった。駐車場にはまだ二人の車は停まっていたから、遊園地内にはいるのだろう。よくよく考えればニノも遊園地に親戚の子を連れてきたのだから一時間や二時間で帰るはずもない。

 入り口付近にはゲームセンターのような空間がぽつんとあった。大掛かりなアトラクションの中、それはどこか寂しげで、何だか私はその寂れた雰囲気が気になってつい目を奪われた。

 その中に、見覚えのあるゲーム機があった。

 それは赤いパンチングマシンだった。


「――懐かしいなぁ」


 ふと声が漏れていた。それは私が高校生の頃、まだ敬ちゃんと付き合う前によく行ったゲームセンターにあったものと同じ形をしていた。

 ストレス発散に、私は当時からゲームセンターの隅っこに打ち捨てられるようにあったあのパンチングマシンでよく遊んでいた。

 隅っこにあったそれは、男に振られて捨てられた自分にほんの少し似ているようでむかついていたのかもしれない。

 叩く度に軋んでいたのは、機械か私の心か、何てことも考えたっけ。

思い出に浸りながら、少しの名残惜しさを感じたが、歩みに任せて、そこを通り過ぎた。

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