烈風「真田幸村戦記」(真田助村編)4
四
信幸は悩んだ。
天才的な頭脳である。
農業国である南アメリカの豊穣な穀物類を畑に成っているうちから、現金で買い取って言った業者がいると言う話が武蔵の耳に飛び込んできたのである。
それも、コロンビア、ブラジル、アルゼンチン、三箇国の穀物を全て買い取っていったというのである
「何と言うことをするんだ?」
武蔵は、唖然と思った。
「ここに実っている穀物は、すでに我々のものあって、我々のものではないのです。全てを現金で買え上げられてしまったんです」
「相手は誰だ?」
「正直屋武吉と名乗っていかれました」
それを聞いて武蔵は、正直屋に向かった。
「あ、武吉さんはのれん分けされて、正直屋武吉商店で商売している人ですわ。世界中跳び回って居りますので、滅多に自分のお店にも戻って来ません」
というのをやっとの思いで捕まえた。
「正直屋武吉さんかな?」
といって、武蔵は腰が抜ける程、驚愕した。
紛れもなく、我が子、長男だったからである。
「どういうことなんだ?」
「どういうことって、そういうことです。ロシア、カザフスタン、西シベリア、中央シベリア、東シベリア、沿海州、豪州、東豪州、インドシナ半島の分、ボルネオ、スマトラ、カザフスタンの分、アラスカ、北カナダの分までとメキシコのユカタン半島と分と、トウモロコシをきつけました」
「鳳国の穀物全てを買い付けて居まったことになるんだぞ」
「豊作でした」
「そう言う問題ではない」
「では、どういう問題ですか? すべて、現金で買い取りました。今後、鳳国の穀物は、私どもの許可無しには、国と言えとも一切売買できません」
「ば、莫迦な・・・」
「マジです」
といったかどうかは知らない。
「ま、立ち話もなんですから、狭い店ですがどうぞ」
と店内に這入って、武蔵はまた驚いた。
店内には、雪、信幸、孫一、直江兼続、菅沼氏興もいた。
「そういうことだ?」
遅れて十兵衛もやってきた。
いまなら、コロナで、叱られる程の、密であった。
「アメリカにも行きました、南カナダにも行きました。ロシアにも行きました。この三個所は不作です。仕入れませんでした。アメリカはインディアン風につくっていました。南カナダは、奴隷出身の黒人だけではやりようがないようでした。機械類は、錆びて、長宗我部盛親事件を、思い出しました。戦争になったらどうなるんだろうと、要らんことを思い出しました。両国もです」
「で、なんで買ったのだ」
「私が買わなければ、穀物メジャーに買われたでしょう」
「穀物メジャー?」
「知らない方が居られるので、説明します。世界の七代財閥で、金は鳳国よりも持っています。謎です。そう言う団体が、世界に七家あります。武器を扱うメジャー、燃糧を扱うメジャー、何にでも手を出してきます来ます、きます、今は、食糧に手を出してきています。知ってしましたか?」
「はい」
と答えたのはケリーだけであった。
「高利貸しもやってます。国を相手に戦争資金を貸し付けるのです。だから、ヨーロッパは、軍資金にはこまりません。税金から回収できますから」
「そんな所があったのか
」
「少し調べたら出てきました」
「む・・・」
と武蔵が唸った。
「そちらに買われる前に、買い取ったのです」
「お前は、いつから商人に」
「いえ。信幸総統の下で三師団を預かっている中将です。鳳国を建て直します。まず、防衛線が長過ぎます。そこかを、縮めて、いかなくては、なりません。まず、北アメリカは、要りません。北カナダも不要です。アラスカと北カナダがあれば充分でしょう。さらに、ロシアは返却しましょう。ウラル山脈の六十度線とカザフスタンは、大金を払って、正式に購入したものですから、一ミリも譲れません。しかし、大きな犠牲を払ってまで、生産性のない土地は、必要ありません。北アメリカ、南カナダ、ロシアを手ばなすだけで、将兵の余裕(ゆとり)が出来る筈です。条約局で、詳細な条約を作って、平和条約と不平等通商条約も作って、各三国と貿易を再会する。ヨーロッパ各国とも、無条件講和条約の上、相合不可侵条約と、通商条約を結んで、交易の再開を行うとしたらいかがでしょう・・・戦争のための、戦争を止め、世界平和を期するとしたい」
「お前いつのまに。そんなことを・・・」
「ずっと前からですよ。父上は戦争で夢中、母上は・・・」
「あなたたちから、母上を取って申し訳なかった。しかし、私は、ケリーのお陰で、元気になれたのです。あの孫三人では、この国の切り盛りは、難儀であった。しかし、武蔵には、素晴らしい息子が・・・羨ましい限りじゃ」
雪が、両の眼に涙を溜めた。
「この、条約交渉は重要です。青柳千弥様、高梨内記様、他に、推薦致したい、お方が三人おられます。一人は、鈴木総統のご長男の鈴木孫丸殿、もう一人は、正直屋のご長男の正直屋本店で番頭をして居られる正直屋伝一殿ですが、この三人の押さえに、海兵隊提督の綿貫量之介様のご長男、綿貫数馬殿と私の弟で、目下、北方方面隊の部隊長ですが、東シベリア、アラスカ、北カナダで、ヨーロッパの、捕虜二十万人を預かって、二十師団の、欧州兵の部隊を編成して、タイガの針葉樹林の伐採、植林、炭田の採掘、北方の屯田、金鉱採掘と、みなの嫌がる仕事を好んで、自己を鍛錬してきました。自ら斧を持ち、鶴嘴を持ち、その背中で捕虜たちを感動させて、一糸乱れることのない、二十師団を造りあげました。宮本マッシー村智を推薦いたします。さらに、係数に明るく条約に目の届く、真田信幸の長男、信時と、菅沼氏興様の次男、氏兼殿、で大使節団を組み、団長を鈴木孫一総統。特使として宮本武蔵総統。真田信幸総統、真田十兵衛総統、直江兼続総統を考えました。さらに、総監として皇帝陛下、二名の枢機卿と、前の皇帝、竹林の宮雪陛下に随員として、宮本ケリー中将です。これに、特別お召し車を件の金箔司令車を用いたいと思います。以上です。ご用意もありましょう。先方への連絡も考えて、三月後の出発としたいと思います。ご無礼仕りました」
と平伏した。
「まて、武吉と、正直屋の名が抜けておるが・・・」
「はい。この間、私と正直屋の主人は、大切な物の買い付けに回らねばなりません」
「ん? 更に大切な物。武器、兵器、食糧以外に・・・」
「燃料です。豪州の石炭は、露天掘りが出来るほど豊富なもの。その上品質は極上です。メジャーが眼を付けておりますので、先に買い付けて参ります。他にシベリアの石炭、北蝦夷の石炭満州の石炭は、泥炭と申して、粗悪品です。他にチリの石炭と鉄、アフリカの石炭。これらは、先に買い付けて置きませんと。それと、石油も・・・シベリアの針葉樹林大木も買っておきます。南洋の木は柔らかいですから。でも、買って置きます。それから、メジャーが、スエズ運河を狙っています。エジプトと、話しをして置いた方が良いでしょう。最悪のことを考えますと、スーダンから運河を掘って、ナイル川の水を紅海に横流しすれば、ナイル運河の水は涸れます。水門一つで、運河の命運はきまります。早めに、松井善三郎様、内田勝之介様と、工事のお手配を。パナマと違って、エジプトはずるいです。エジプトの水を止めると、運河も空ですが、作物は全部枯れます」
「誰か、気が付いていた者はいるか?」
武蔵が訊いた。
誰もが、
「・・・」
と、答えながった。
「無理です。戦争に夢中でしたから」
「・・・直ぐに、ほらせる」
「奥の手です。スーダンが重要です。エジプトは必ず,文句をつけてきます。通行料の配分に文句を言ってきます。占領してしますという方法もあります。スエズ運河の部分を特別区にして、やがて独立させるのです。奥の手と両方で攻めることでしょう」
「ほかにないか?」
「今後は、インド洋です。ココス諸島、セイロン、モルディブ、チャゴス諸島、セイセェル諸島、モーリシャス、アムステルダム島、クロゼ諸島、プリンスエドワード諸島はすでに、アンダマン諸島とニコバル諸島は購入済みですから、他の島々の大切さが判ります。これは、海軍の眼落としでしょう。買うか、借りるか。イギリスかフランスが統治領にしていますから。ジブラルタル市とともに、講和の取り引きにしてください。少しでもごねだら、講和をやめますか? といってください。メジャーの財閥七家とは、何時でも話ができますよ。軍資金はでませんよ。武器、食糧、燃料、木材、鉄は、買い占めました。メジャーとも戦えますよ。メジャーの、どの財閥も、調べあげました。L家、R家、その他次第に判ってきました。鳳国に挑むのは無茶ですよ。ヨーク家の新しい土地だから、ニューヨークなんでしょ。むちゃくちゃに艦砲射撃しますよ。アメリカも返しませんよ。これで解決します」
すると、正直屋が、
「武吉や、出席してやれ。買い付けは他の番頭に頼む。それに、これたけの皆さんにお願いして、物資は、絶体に、商人隊筆頭の正直屋以外に売らないでくださいと、お頼みする。それで足りることだ」
と言った。
「判りました。役職は?」
「我々が知らないことばかりだ。皇帝執権職だ。今後は若い力で頼む。皇帝、いかがですか?」
と武蔵が訊いた。
と、後から来た、皇帝と枢機卿は、
「世界のことをここまで知っていて、最大の交渉に、出席しないのは、いかがなものか」
「会談場所は鳳凰城にします。出席いたします。」
執権職は総統の上である。
世代交代が見事に成功した瞬間であった。
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