烈風「真田幸村戦記」(真田助村編)3

    三


 武蔵の長男の名を宮本アダム武吉といった。

正直屋は、単に、武吉と呼んでいた。

 正直屋武吉が、彼の名になった。

正直屋は、茶室で二人になった。

正直屋が亭主となって茶を点てた。

茶を喫してから、正直は武吉に、

「何で、恵まれた環境を捨ててまで、商人の道を志そうとしたのか? 私には合点が行かぬ。そこを今一度、話して貰いたい」

「話は、恐縮でございますが、繰り返しになろうがと存じます。けれども、違う話し方を致しますれば。どなたのお言葉がは存知あげませんが、経国済民という言葉がございます」

「平たく言えば、経済じゃな」

「はい。今後の国の成り立ちは、もう、武力ではございません。経済でございます。商いの道でございましょう。商いの道には、白い人も黒い人も黄色い人もございません。価値、つまりは、必要性でございますが、これの基準でございますが、これまでは武でございました。武として強い者が、王者でございました。王者にとって必要なのは、強兵と新式の武器、兵器でございました。鳳国は、今、その絶頂におりまする。しかし、どこかは判りませぬが、新式の兵器、武器を開発いたしましたらば、誠に不遜ではございますが、鳳国は、その立場を失います。武器、兵器は、化学の力でございまするが、その裏支えは、他でもございません。経済の力でございます。いくら、素晴らしい科学者が居りましても、先立つものがなくては、如何とも致し方なきことでございます。資金は、使えばなくなります。己が武を持つ必要は、ありません。鳳国は、目下、世界一の経済大国でありましょう。その、裏打ちは、農業と金鉱です。金鉱は掘りきればなくなります。となると農業一本です。農業は、自然の力で、何が起きるか。先行きを補償されではおりません。余れば売り、変調が来れば、飢饉でございます。この時に救えるのは、経済、商いの道です。鳳国の軍隊の数は、異常でございます。防衛戦が長いからです。これだけの防衛戦を維持するのには、どれほどの兵力、兵糧が必要で、掛かりがどれほど掛るか、ざっと数えただけでも、恐しい天文学的な数字です。今は好調ですが、ひとたびつまずいたら、攻め込みたかっている国は沢山ございます。そのときに、どこを切り捨てて、撤退していくのか? 初代、二代、三代の皇帝ときて、四代、五代となってきたら、現在の宿老たちは、もう動けません。それを救えるのが、経済力です。如何に無駄な兵力を切り、生産人口に回せるか。常日頃から、それを演算していく部門がありません。大きくするのは、誰にでも出来ます。戦線拡大ですから、しかし、難しいのは、広げた風呂敷を畳む役回りではないかと存じます。それが出来るのが『商人』ではと存じております」

黙って、聞いていた正直屋が、

「見事よな。武吉。そう、遅く無いうちに、色々な鼠が、逃げ出す用意を仕始めるだろうよ」

「はい」

「武吉。会わせたい人がいる。私も愚魯ではないぞ。武吉を単なる御用商人にしたてあげるつもりはない。そのお方には、武吉のことは話してある。武蔵の意思かとおっしゃるので、いえ、本人の意思でございますと申し上げたら、是非にも会ってみたいと」

「真田信幸さまで、ごさいますな」

「流石に見る目はあるな。佐官、少佐にまで、親のコネなしで昇進しているとまで、話してはある。そうしたら、そこの大志を抱いての退官は、退官とは認めぬ。むしろ、中将の価値があると。ここに、信幸総統の中将の任官状、肩章、胸の勲章、軍服、日本刀、大小と一指揮を下されて、真田信幸麾下に入るようにと。佐官と将校では、発言力が違うと申されてな。勿論、正直屋の商人のままであった方が好都合とのこと。私の方でも、他の店員との兼ね合いもある。正直屋の支店長になってもらう。何を扱うかは、器量に任せる。資金の心配は一切、無用。私と真田様で全て支援する。真田様は、武吉の腹蔵のない意見を欲しがっておられる。真田様の言葉だが、『儂は、一度、徳川に勝って、負けて居る。戦は、殿(殿)ほど、辛い者はない』と申された。そして、いま、真田十勇士と真田忍軍の活躍の場がないとな。武吉の麾下に、すべて加えよと。商人隊は、私のところから回す。五十人もいれば、相当のところまでは判る。真田様が三師団をあずけたいと。これは正規軍である。使い分けが難しいぞ。三宿老、あるいは五宿老はそれぞれに、個性が違う。真田信幸様、宮本武蔵様、鈴木孫一様に、真田十兵衛様、直江兼続様。どなたも一癖も二癖もある。さて、六宿老にどなたがはいるか。木村重成様は、武蔵様の番頭に過ぎぬ。突然、まさかという若手が現れても、可笑しくはない。これもな、皇帝がお飾りだからよ。幸村様では、こうはならぬ。『え? と、思わぬ人物が』力を握るかもな」

「どなたですか?」

「判らぬか? 同じ中将じゃ」

「え? 母者。ケリー中将・・・」

「前(さき)の皇帝・・・宿老たちは、子飼も同然」

「・・・」

「竹林宮雪様の力は隠然たるもの」

 武吉、信幸、正直屋の三者があった。

武吉は、若者らしく持論を述べた。

「相判った。武吉、いま危ないのは?」

「ご無礼を承知で申し上げます」

「こんな、話は無礼講と決まって居る」

「私見ですが、ヨーロッパも危ないですが、実はそこに目を引きつけておいて、一番影響力のある新大陸に来たのがアメリカ。イギリスは影響力がありそうに見えますが、カナダの東側のケベックはフランスです。アメリカにもフランスは相当に肩入れをしています。いまは、アメリカは身を縮めておりますが、東欧とロシアで事を起こしていて。アメリカで、決死の戦いを挑んで来たら、鳳軍の応援は、北と南からくるでしょうが、遠い」

「なるほど。しかし、海軍の輸送船いけば・・・」

「弾丸の届かぬ内陸で反乱されたら。木村重成様は、はじめての総統の地です。ほんしかも、本来、鳳軍は、海岸線に置いています。鳳兵は、内陸に入るのを嫌がっています。そこで、将兵から嫌われたくない、総統は、内陸に、奴隷から解放した黒人兵とインディアンを置いています。彼らの戦い方は、指揮官が、相当確りと手綱を握っていないと、戦略も戦術もありません。めいめいに、戦いに飛び出してしまします。一番、統制のとれない兵力です。ここを突かれるでしょう。長城があっても、決死で、火薬を詰めた投石機で投げ込まれたら、流石に破れます。それを数カ所でやられたら・・・」

「敵、味方が入り乱れ、戦車も自走砲も使えない。今のうちに、そこの戦力を厚くして、置かなくては」

「無理でしょう。初めての総統の地です。自分の策を押し通すでしょう。それに、いままで成功してきています。それだけに自信を持っていますから」

「しかし、八千キロ飛翔する弾丸あるというぞ」

「あれは、鈴木総統が試験のつもりで撃ったもので、標準の弾丸ではありません。本当は、メキシコの直江兼続軍が、応援に這入ってくれるとよいうのですが。木村重成の部隊の意地を見せたがるでしょう」

「う~ん・・・」

「これを、説得できるのは?」

「三宿老か、雪の宮様でしょう。皇帝には酷です。それと同時に夏場でしたら、ベーリング海峡からアラスカに入ります。さらにカナダが北上するでしょう。この両方とも、ともまともな戦力はありません。敵が来ないことを想定していますから。あとは、捕虜と見張りのタイだけです。東シベリアも同様です、西からの備えしかありません。ここは、カナダとロシアが正規の部隊をば、簡単にとれます。南カナダも、アメリカで手一杯ですから、寝返った捕虜とかも兵力になれます。二十万の捕虜が、東シベリア、カナダ、北カナダにいます。ヨーロッパとロシアに木を捉えていますから丸々手薄なのです。防衛線が長すぎるのです。早急に、平和裡に領土を返すべきです。ロシアも、ウラル山脈から西側返すことです。ウラル山脈から東側とカザフスタンは、幸村公の時代に購入した者ですから、返す必要はありません。パスピカ海と黒海の運河もです。そして、散らばった戦力を帰納していくことが大切だと思います。アメリカと南カナダを話し合って、返却するだけで、世界の見る目がかわります。中南米と南米は返却の要はありません。今、ロシアとアメリカと南カナダで、何の産業が興せますが。戦費を使うだけの浪費です。以上です」

「見事だ。冷静に考えれば、武吉の言うと通りである。実に理路整然としている」

「ありがとうございます」

「しかし、この論理をだ、一期の戦国武将たちに、どうやって理解させるのだ?それを考えると頭が痛くなる」

「しかし、これを理解させないと、鳳国は、今、申し上げた通りに、じわじわと崩壊してゆきます。実は、鳳国は、世界一の金持ちではないのです」

「ん?・・・」

「ヨーロッパは、負けても、負けても、金は湧いてきます」

「どういうことだ?」

「七家あります。武器、弾薬を作っている財閥。これは、弾丸を一発撃てば、一発分

の利益が這入って来ます。ですから、その財閥に、兵器、弾薬、武器、装備品をつくらせていない、鳳国との戦争は面白くないのです。スペインとイギリスとか、フランスとイギリスの戦争なら、どちらが勝っても大儲けです。両方の弾薬、武器、その他は、財閥の商品です。食糧は、我々が交易にいっても、今度は食糧財閥が買い占めます。そして、少しずつ売ります。交易船は、財閥のために船を動かし、汗を掻いて働いているようなものです。こうした、世界を股に掛けた財閥が、世界に七家あるのです。彼らには、国家という概念はありません。信じるのは、金だけです。いかも、世界色々な国の色々な場所に隠してありますから、一個所や二個所取られても、どうと言うことはありません。もの七つの財閥が世界を牛耳っているのです。幸村公が交易してきた金も、全て、彼らに儲けられているんです。鳳国の何倍もの経済力があります。彼らの最大の敵は平和なのです。しかし、必ず、どこかで戦争をさせます。正体は、絶体に、誰にも判りません。ユダヤだと言う説もありますが、証拠はありません」

「これは驚いた」

 信幸が首を振った。狐につままれたような顔になっていた。

「これを正体も判らないままにメジャーと呼んでいます。売ったり買ったりが仕事です」

 それまで、黙っていた正直屋が、

「武吉が,そこまでを知っているとは思いませんでした。いま、鳳国でこのことをしっているのは、かぞえる程でしょう。ですから、ヨーロッパは何度でも立ち上がってくるのです。幾ら、国の金庫を空にしても無駄です。戦争のためなら幾らでも金を高利で貸すのです。返すのは税金です」

「仕組みが読めてきた。つまり、鳳国が食糧を売っても、食糧メジャーが買い占めていくのだな。これでは、庶民の口には入らない」

「アメリカ、南カナダを返還する方法を考えよう。ロシアもだ。つまり生産的なところではない土地は、条約局を造って、それに添って返還し、商売の相手にした方が得だ。そして、防衛線を少しずつ短くして効率をよくする。相手は、メジャーでも構わない。金は払ってくれるのだ。割り切ろう」

「はい」


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