「烈風真田幸村戦記(女帝編)」10

    十


 皇帝と幹部一同は、大阪城に帰ってきた。

いつしか、武蔵も中に這入って居た。

「こたびの大遠征は成功でした。いつかはやらなくてはならないことでしたから」

 と孫一が言った。

「見て来た感想だがな。立派な大農業国に成ると、ブラジルの密林は別にしても、相当に広大な農地、農園が出来るとみた。その意味では、第二の南洋以上の素晴らしい楽園が造れるな」

 と武蔵が、嬉しそうな顔になっていた。

「チリに関しては、鉱山以外の方法は無いだろうな」

 と言うのが一同の意見であったが、

「しかし、漁業というのも、無くはないでしょう。開きやスルメ、煮干しだとかの水産加工を教えて行けば、それなりの産業になります。堆肥の原料にもなる。魚の臓物は金肥と呼ばれているくらいです。これに、牛糞や腐葉土をませて行けば、立派な商品になります。彼らは、知らないだけなのです。農業にしても、土壌改良、その次に必要なのが堆肥であり、ミミズであり、科学肥料であり、追い肥だということが判って居ません。だから、あれだけの平原を持っていながら、食糧不足なのです。ここから先は、国土経営の分野です」

「拙者は、ずっと、厳寒の地専門のように国土運営をやって来たが、たまには、暖かい所での仕事もやって見たい気がするな。南米とシベリア、アラスカが離れ過ぎているとは、思うがな」

 武蔵がそう言うと、皇帝は、

「そうとも、思いませんよ。地球は、小さくなりました。平均三十ノットで走る戦艦です。何日も掛りません。武蔵殿でしたらば、両方の掛け持ちも可能でしょう。いやあ~!・・・武蔵殿の方からそう言って頂けるとは、幸運、幸運」

 と、皇帝の方が喜んだ。

「すでに、北の方は、永年に亘ってご苦労をお掛けしてきた故、下の者ものも育ってきていることであろう。武蔵殿の、お気に入りのものも居られよう、是非連れてゆかれるが良い。勿論、ケリー中将だが、女の身であるのとお子がおられる。いっそ、大阪城で、お子を育てられよ。男の子じゃ。自由に育てられる環境が、良い。ケリー中将が、行かれるときは、このばあばが、お預かりしましょうぞ。武蔵とケリーのお子だったら、このばあばのひ孫も同然じゃ。北と南の総統じゃ。何と呼ぶか『総裁』ではへんじゃな・・・さて、みなも、良い案をだしてくだされ」

「儂もメキシコ辺りを・・・」

と孫一が、言った途端に、

「だめです。孫一には、アフリカの後見があります」

 と、頭から叱られた。

「直江兼続殿なら、豪州と近いではないか」

「はっ。仰せとあれば、兼任仕ります」

 と頭を下げた。

「木村重成の部隊だけでは、アメリカとカナダの全ては無理だ。薄田隼人に、北アメリカの南部を任せたいが、どう思うか」

「適任でしょう」

 と、信幸が答えた。

「海兵からの、綿貫量之介にカリブ海の島々を任せたい」

「これも、適任でしょう」

 と、信幸が頷いた。

「以上で、大きいところは決した・・・疲れた。少し休む。ケリーは武蔵がおる。たまには、夫婦仲良くするが良い」

 と奥に退がった。

「はい」

 武蔵の側に寄った。

「む・・・」

 武蔵が照れた顔になった。

「こたびは、陸路をとったが、次回からは海路にしよう」

「その方が、ゆっくりできます」

 ケリーが答えた。

(私が居ない間、皇帝はどうするのかしら?)

 と案ずる気持ちがあった。

(他に誰か、私の代わりを作るのかしら?)

 嫉妬に近いものが湧いたが、どうすることもできなかった。

 皇帝の雪も、心が疼いて仕方が無い。

しかし、こればかりは、どうすることも出来たかった。

武蔵は鳳国の重鎮中の重鎮である。

今の武蔵に逆らえる者はいない。

北方の全てと、今度は、南米を建て直すと言っているのである。

北と南に巨大な領土を領有(統括)しているのである。

いま、南米には留守部隊として五万の兵力があった。

武蔵は、これに、更に十万の実働部隊を用意した。

その中の半分は、混血児を引き取った。武蔵の子飼であった。

残りの半分も、入隊済みであっても、矢張り子飼であった。

更に武蔵は、現地でも兵員を募集して、教育するつもりであった。

一般兵士と屯田兵、工兵、それと、情報兵を集めるつもりであった。

言葉は、ブラジルが、ポルトガル語であったが、他は、殆どがスペイン語であった。

武蔵は、その両方に通じていた。

鉱山隊に稲垣継隆と一宮新三の両隊を連れ、工兵には、松井善三郎の十人衆の中から、三人を引き抜いた。

これに十五万の工兵を付けた。

南米の目途が付くまでは、東シベリアとアラスカの北部は、

「少し休むか・・・」

 と思ったが、スペイン兵とコロンビアのヤクザものたちを大量に入れていたので、これをビシビシと鍛えあげ、これが十万人近くになり、穴埋めになったので、事業を継続した。

金には触らせず、鉄や石灰など、他の鉱山と石炭を採取させた。

これらは、アラスカであったが、東シベリアでは石油が出た。

これは、武蔵には判らないので、孫一に応援を頼んだ。

孫一は、「機械に強い」というので、三男の孫行を同道させた。

すると、副皇帝の三男の真田助幸が、その班に加わった。

これには、武蔵が驚いた。

「幸村公の機械好きの血を引かれたか」

 と感心の手紙を出した。

本部との連絡は、一日に二度は交換をしていた。

ケリーは、誰が見ても判らない言葉づかいで、雪に心の内を吐露していた。

やるせない気持ちであったが、我慢する他はなかった。

雪からの手紙も、他の人に怪しまれない頻度で来ていた。

「ケリー。お前は、良くよく、皇帝に好かれているんだな」

「皇帝は、あのように、気丈に振る舞われていても、心の中は、お寂しいのです。なまじ、日本人では、噂が出たり、贔屓しているように見えてしまします。でも、私のような外国出身だと、そういう、奇妙な気の使い方をしないで済みます。私は、日本人と話しているように、自然に話ができます。そんな、人物は、他には居りませんから。私だと、何でも、気安くお話が出来るのでしょう。それと、まさか、こんなことが役にたつとは思いませんでしたが、手が大きいので、按摩、マッサージが気持ち良いそうです。揉みながら、お話をしていると、時に涙ぐまれます。亡くなられた、皇帝、幸村様のことを思い出されて・・・」

「さもあろう。儂でも、今生きていてくれたらと、何度思ったか知れない」

「皇帝は、ここだけの、話ですよ」

「む。判った」

「三人のお孫様をなんとしても、素晴らしい皇帝にしたい」

「む。で、あろう・・・」

「しかし、皇帝になれるのは、お一人です・・・」

「本来なら、嫡男の助村様だ・・・」

「残る二人を、どうするべきか、と・・・」

「それらしい、地位を用意しなくてはならない。しかし、肝心の次期皇帝を誰にするか、まだ、誰もなんの意見も持って居ない。ここからが、難しい。儂も内密で、信幸殿、孫一と真剣に話して置いた方が良さそうだな」

「はい。順当では、嫡男の助村様だとは思いますけど」

「うむ。誰にも、話すではないぞ。下手に話すと、命とりになる。ケリーのだ」

「あ、は、はい。決して喋りません。あなただから、言ったのです」

「判って居る」

 とケリーを寝室で抱き寄せた。

「あ・・・だんだか、久し振りなので、恥ずかしい・・・」

 武蔵の手が、ケリーの豊かな乳房をゆっくりと揉みしだいた。

 雪の愛し方とは、違った。

官能への響きがあった。『本物』に抱かれている感覚があって、思わず声を漏らした。

我慢は、無理だという、うねりが、何時もの、あの場所を襲ってきた。

武蔵が、動物的に、ケリーの、外構を、食べてきた。

鋭敏な突起が、武蔵の口に入り、舌が微妙なくねり方で、ケリーの官能を翻弄してきた。

「come!・・・」

 と武蔵の耳元で叫んだ。

ケリーは、感度の素晴らしい女性であった。

器が呼び込んできた。

とても、蠱惑的な滑りが、武蔵の標準以上のものを銜えてきた。

いつもの通りの、女体の温度と柔らかさであった。

武蔵は、心を許して、挿入した。

納得のゆく、迎え方をケリーはした。

至福の瞬間であった。

これ以上の艶やかな瞬間は、他では得られなかった。

ケリーも、武蔵以上の、ボリュームのある、愛の形状は、得られないと、降伏であった。

やがて、抽送が開始された、

武蔵の形状の一部に、確実に、引っかかりの、あるところがあって、それが、ケリーを刺激して、独特の世界に送り込んでいった。

雪とのことは、障害には、ならなかった。

互いに、到達を、迎えた。


                    *


 孫一は、急遽大多忙になった。

東シベリアで石油が噴出したので、それの処置をしていた。

「タンクを大急ぎで作れ。二十個ではたりない、四階建てくらいのタンクを百個作れ」

 と命じた。

「この近くに、製油施設を造ろう。それを海辺までパイプラインで引くんだ。そこで、精製して、船に乗せる。船にはタンカーが必要だ。船ごと、造船した方が早い。数隻は必要だ」

 と油だらけに成りながら叫んだ。

世界で孫一以外に、石油の扱いを知っている者は二人いた。

しかし、二人とも死んでしまったのである。

その時の研究者たちを大急ぎで招集した。

何とか五十人ぐらいがあつまった。

「スマトラのバンダ・アチェどころじゃないぞ。少し蓋をして、ガスだけパイプで抜いて燃やせ。そうしないと、危ないぞ」

 研究班には、そのときから研究に携わりつづけてきた者が、大隈研吾、間々田総一郎、島田沖行、太田純一郎、桃田百介、沖島多聞で六班しかいなかった。

「急いで、研究者と技術者を増やせ」

 と命令した。

が、こんなことの判る者は、そう簡単にはいなかった。

学校の、化学部門の生徒立ちを寄せ集めて、実地で仕込む他なかった。

 そんなときに、孫一の所に、

「天然ガスが、ウズベキスタンとトルクメニスタンの二個所で噴出した」

 と、十兵衛から、悲鳴のような声が、伝わる伝令が来た。

「今度は天然ガスだ!」

 と、大隅研吾と間々田総一郎を派遣した。

「これにはガスボンベがいる。火炎放射器で使う奴の大型の者だ。至急手配しろ」

 と、大汗を掻かされた。

 そこえ、孫介から、

「アフリカのナイジェリアの海岸から、石油が噴出した」

 と伝令が来た。

ここには、島田沖行と太田純一郎を行かせた。

 が、これだけでは終わらなかった。

武蔵から、ベネズエラの海岸近くで、

「石油が噴出して、止まらない」

 と言ってきた。

「儂を、殺す気か!」

 と叫んだ。

最期の二人を送った。

桃田百介と沖島多聞であった。

「これ以上は、どうにもならん」

 孫一の顔も体も油だらけであった。

「いや。何とか凌ぎましょう」

 といったのは、真田助幸であった。

矢張り、油まみれの顔と体であった、孫一の三男の孫行も同じ姿であった。

「樽でも、桶でも造らせて、防水紙で被って、この場を凌ぎましょう」

真田助幸は、若い分だけ、体力があった。

部下たちを指揮して、次々に溢れ出る原油と格闘していた。

「ともかく一時止めろ! ボロでも何でも良いから、詰め込んで止めろ」

 やっと止まった。

「ガス抜きを造って、燃やせ。ガス抜きをしないと危険だぞ。伝令で、同じ事を命令しろ!」

 困ったのはガスであった。

ガスボンベは簡単に造れない。

「ゴムにしましょう。ゴムに入れてためましょう。同じく栓をするまでは」

 助幸が行って、ゴムのチューブを運ばせた。

これが上手く行って、栓が出来た。

製油をして、精製する。

それで、石油、重油、軽油、ガソリン、オイル類の製品が出来るのであった。

これを知っている者を各地に飛ばした。

それぞれが油だらけの顔で、本部にかえってきて、会議を開くことになった。

「先ず、開栓、閉栓が自由になる管を通して、その周辺をコンクリートで固めることだ。

その際に、溜まったガスを燃焼しないと、大変に危険だ」

孫一が言った。

助幸が、

「脇から管を通して、ガスだけを抜き、燃焼する。ガスになったら軽いから、上向きに管をつける。鉄で大丈夫でしょうか?」

 ときいた。

「熱に強いものは?」

 と皇帝の雪が訊いた。

「耐熱陶器だと思います」

 助幸が答えた。

「それを円形に作れないものか? 炎の出口だけでも燃えにくくしたい」

「今、武蔵殿は、桃田百介殿、沖島多聞殿と共に、閉栓作業中なので、手が離せない。私に代理出席せよとのことで、戻って参りましたが、ガスを溜めては、危険であると」

「桃田も、沖島も知っているはずだ。念のため、伝令で伝えよ」

 孫一が伝えた。

「一番詳しいのは、幸村と大助じゃ。二人も死におって」

といって、ドタッと畳の上に大の字に倒れた。

「儂のこの歳では、もう、勘弁してくれ!」

「自分で、やろうとするからですよ」

 雪が、子供に言うように言った。

「だって、誰がやる?」

「言えば、やりますよ」

「もう一人、自分でやろうとしているのがいます」

「あっ!・・・武蔵の莫迦」

 孫一が言った。

「両方とも、莫迦です。二人とも、年齢を考えなさい」

「もう、一人居る・・・天然ガス。十兵衛」

「もう!」

 と、雪が地団駄を踏んだ。

「ガスで吹き飛ばされたら、どうすんの!」

 すると、信幸が真顔で、

「屁と同じじゃの。出るときは、立て続けに出る」

 茶を飲んでいた者が、「ぶわっ!」吹き出した。

「莫迦!」

 雪が、

「どうしようもない」

と怒った。

「怒るだけ若い」

と信幸が、涼しい顔でいった。


                   *


石油もガスも、取りあえず納まった。

 石油は、四回建て位のタンクを職人たちに命じた。

今度は、職人たちが頭を抱えた。

石油もガスも同じもが使えるのが判った。

 とそこへ、伝令が這入った。

「チベット高原で出ました」

「なに? 屁か?」

 信幸が訊いた。

「いえ。鉄、石灰、石英、雲母、銅、そして、金、銀です」

であった。「脅かすな」と、胸を撫でてから、

「大いに宜しい。ゆっくりやれ。今は、誰も手伝ってくれんぞ」

 といった。

まずは、世界一、裕福な金の、産出量の国であろう。

探すのも慣れているのである。

さらには、商業国でもあった。

世界中に、貿易の商船が行っていた。

殆どは、食糧であった。

どこの国も、世界中が、飢えていた。

本来ならば、農業国のはずの国までが、食糧飢饉に、喘いていた。

それは、明らかに、国の制度が悪いからなのであったが、地主と、農奴の関係を直そうとはしないのであった。

それで、農奴たちの集団離村が、未だに止まらないのであった。

多くが、鳳国に流れ込んできた。

鳳国は、それを歓迎はしていないが、禁止しようともしていなかった。

ただし、鳳国に住むとなったら、鳳国の法律とシステムに従う他はなかった。

酷いシステムではない。

一定の方式に従わなければ、鳳国に住むことは出来なかった。

それは、どんな分野の仕事であっても、徹底して、真面目に働くと言うことであった。

 あらゆる、差別の無い国であったから、あらゆる人種の者たちが、流れ込んできたが、仕事がないと言うことはなかった。

しかし、犯罪を犯した者には、厳しかった。

一番厳しいのは、国外追放ということであった。

鳳国を出たら、まず、住むところはないであろう。

一度追放されたら、二度と這入ることは出来ないのであった。

その意味では、決して甘い国ではなかった。

 ヨーロッパから一つの重要な情報が入ってきた。

武器に拘わる情報であった。

大砲の砲弾の距離が伸びたということと、威力が増したということであった。

絵図が、あった。

十兵衛の、東海党が動いていた。

イギリスのスコットランドの田舎で、隠れて研究しているようであった。

台車で運ぶ方式のようで、馬で運んで、組み立てるもののようであった。

弾丸は円錐形にはなっていたが、弾丸に火薬が仕込んである。大砲の円筒部分は、冶金でやったらしく、表面がデコボコしていた。

「これなら、ライフルが這入っているだろう。今までの倍は飛ぶな」

 と孫一が、分析した。

「しかし。発射するまでの手間が大変だ。発射すれば、場所が判る。直ぐには移動できないから、確実に反撃を喰らうな。小銃の情報はあるか?」

「はい。こちらです。これまでと違って、一発撃っては、筒を掃除しなくても良いようですが、元込めの単発です。撃針式ではありません。相変わらず、火薬と弾丸を込めて、撃つ方式ですが、筒が短くなりました」

「工場が判って居るのなら。手投げ弾を二十位、抛り込んでやれ。分解してしまうだろう」

 それで、雑賀も走った。

東海党と共に攻めて、手投げ弾を五十発程投げ込んで、試作品を破壊した。

「こちらも、武器に力をいれようぞ」

 孫一が言って、研究要員を三倍にした。

 最初に出来たのは、戦車、戦闘装甲車、装甲車、自走砲などの内燃機関化であった。

これで石炭を、燃料にしなくて、済むようになった。

馬力も、数倍出るようになり、速力も、数倍になった。大砲も小銃も、数倍の距離が出るようになって、威力がました。

 艦船も次々に新艦になっていった。

船団の数も、三倍強になっていた。

 シベリアの運河も複線になっていた。

その間には、弾丸道路が五十間幅で出来ていた。

道路には、凍結を防ぐために、お湯が注がれていた。

建物も、現在のマンションのように、コンクリートで延々と連棟式になっていた。

四階建てだが、四階は広い通路にも、なっていて、雨でも雪でも、濡れずに往来できた。

囲いがあって、暖房も効いているので、家の中が道になっているようなものであった。

一階は、屋内のマーケットや保健所、病院、学校、公園、音楽堂になっていたり、催事場になっていた。

こんなに住み良い環境はなかった。

屋上には、複線の鉄道馬車が通っていた。

運河には、定期便の船が通っていて、貨物も運んでくれた。

病院は保険が効いた。

年金も、積み立て方式で定年後には貰えた。

真面目に働いていれば、何の心配も無いようになっていた。

誰もが、良い国に来たと思える国になっていた。

 孫一の命令で、スコットランドの田舎町に、意図的に隠れて研究していた武器の研究所に、五十発の手投げ弾を抛り込んできた。

研究の成果は、水疱に帰した。

それは、暗黙の内に隠れて研究しても無駄だぞ、と警告したのに等しかった。

イギリス側は、顔色がなくなっていた。

 鳳国側は、長射程の大砲をカザフスタンからイギリスに向けて、一発、発射した。

軽く八千キロは飛ぶ。

もう、それは、この時代でのミサイルと呼んでも良いだろう。

撃ち落としようがなかった。

スコットランドの研究所に、見事に着弾した。

着弾地点は、全て、何もかにもかが、霧消していた。

科学力というか、技術力の差は、歴然としたものがあった。

イギリス側は、頭を抱え込んだ。

情報力も圧倒的に、差があったのである。

「こんな相手とは、到底、戦えない」

 と絶望的に、思った。


                   *


 武蔵は、言われてきたことを忠実に守った。

コロンビアとベネズエラの薬物を徹底的に調査して、風邪薬にいたるまでを分析調査したのである。

麻薬を使って居る者は、その場で投獄した。

麻薬が、切れれば、常人ではなくなる。

麻薬を使って居る者は、どんなに治療をしても、治らないという結論が出ている。

広場に集めて、公開で射殺をした。

それと同時に、住民票を作成してゆき、赤ん坊にいたるまでを台帳に書き込んで、身分証明書を発行した。

証明書の裏側には、十本の指の指紋を押捺させた。

首相、大統領でも例外ではなかった。

町や村の克明な地図をつくって、それぞれに、町名、村名を宛がって行き、地番を書き込んで、そこに住んでいる者の氏名と年齢、職業を書き込ませた。

農業という者には、耕作している畑を記入させて、現場を確認していった。

耕作地がダブっている場合は、どちらかが、嘘を。付いているので、本当のことが判明すると、投獄した。

こうして、バラックや物置に到るまでを調査していった。

麻薬の畑があった場合は、所有者と耕作者の氏名を書き込み、両方を投獄した。

真実が判明するまでは、水も食事も与えなかった。

必ず、どちらかが、本当のことを喋った。

そこで、畑を根こそぎ火炎放射器で、全て焼いた。

職業で無職の者は、その理由を聞いた。

そこで、組織に這入っているものは、拷問に掛け、組織の名、組織の人数、親分の名前、アジトの場所を白状させた。矢津田や

その場で、アジトを急襲した。

親分を逮捕すると、拷問にかけて、その上の親分の名を白状させた。

その場所を急襲して、親分の親分を拷問にかけて、その上の親分を逮捕していった。

芋ずる式に、悪の親玉を捕まえて行った。

政治家の名が出てきた。

逮捕して、その政治家の親分を、拷問にかけて聞き出した。

首相が出てきた。

構わす逮捕した。

麻薬の仕入れ先を聞いた。

外国の名をいった。

そこを軍隊で急襲した。

その国を、合併する予定であったので、好都合であった。

その国の麻薬の畑も、全て、焼き払った。

その国の大統領を呼んで、

「なぜ、麻薬を扱うのか?」

 と尋問した。

「麻薬を使った人間の末路はどうなるのか知っているのか?」

「知らない」

「教えてやろう」

 と麻薬患者が、投獄させている所に連れて行き、投獄した。

「助けてくれ。俺は麻薬をやっていない」

「なおさら、悪い奴だ。。みんな、この男が麻薬の元締めだぞ」

獄内で、なぶり者にされた。

ここまでやっていくと、国民の顔が見えてきた。

ヤクザも、何もなかった。

一定期間で、狂ってしまう。

それを広場に集めて、全員、射殺した。

公開処刑であった。

徹底して、麻薬は悪いものだと、頭から叩き込んだ。

郊外に大きな団地を建設した。

そこに、身分証明書のあるものを抽選で入れて行った。

空き家に、なったスラム街を、重機を使って壊して行き、廃材に、油を掛けて燃やした。

とことん燃やして、廃棄した。

身分証明書のある家族分は、すべて、団地に収容した。

家が無くなったのは、身分証明書のないもので、証明書の作れない訳があったのである。

どこかの組織に所属して、悪をやっていた者である。

それらの者が這入れないように、高いフェンスを作って、敷地の出入り口には、軍隊が見張り、フェンスを、上ろうとする者は、、射殺された。

たいてい、麻薬をやっていた。

浮浪者狩りを行った。

町は、こざっぱりした物に変わっていった。

そこで初めて、食糧の支援を行った。

支援を受け取った者の手には、スタンプを押していった。

二度貰いが出来ないようにするためである。

その場所の横で、健康診断を行っていった。

殆どが、栄養失調であった。

本当に重病の者は、病院に入れた。

それまでは、病院どころか、医者すら、いなかったのである。

その隣では、生活相談のコーナーがあって、諸々の相談に乗ったが、仕事がない、と言う悩みが一番多かった。

希望の職種を訊いた。

各所に、職業ごとに学校があって、その仕事の基礎は、そこで習うのであった。

農業でも同じであった。

あらゆる仕事に、就く事は出来る。

しかし、必ず、試験があった。

優秀なものは、看護師、介護士、医師への道も、開かれていたが、本人の資質と、努力に負うところが大きかった。

いわゆる、難関であった。

 民間だけではなく、年齢制限があったが、兵士や工兵、屯田兵、農兵、警察官、消防士、保健師という者もあった。

民間では、滅多に年齢制限はなかったが、体力測定が行われた。

箸にも棒にもかからない者は、清掃、雑役という部門に回された。

それでも、収入にはなった。

「国民たちは、とんでもない国になるのかと思ったら間違いで、徹底して悪を退治して、麻薬を一掃してくれたなんて、信じられないよ。食糧も呉れるし、健康診断もしてくれる。住まいも用意してくれて、仕事まで世話して貰えるなんて」

 作業をしている最中に、郊外の広大な平原を縄張りして、見たこともない重機で地面を深々と掘って、

「次に苦土石灰を撒いて、十四日間置く。ガスが発生するので、それを抜く期間である。それが終わったら、堆肥を漉き込んでいく。そして、ミミズを撒いてゆく。それから、元肥をたっぷりと入れて、次に、間土を入れて、化学肥料を入れて、また、間土を入れて、畝をキチンと整理をして、定規用の赤い紐を張る。紐には結び目があるから、そこに、種を埋めて行く。それが終わったら、種に水をやる」

 と学校の授業なのだが、農業希望者は、農兵の者たちをキチンと現場を見学させて、一人々々に、農業の基本を教えていった。

 教室で習うことは、日本語である。

それと判りやすい思想教育や道徳であった。

数学も地理も習う。

世界地図を習うときに、鳳帝国の事を勉強する。

鳳帝国が、如何に大きな国であるかを習う。

大きな地図の他に、地球儀でも習い、月が地球の子共であることを知るのである。

 初めは小麦を植えた。

綺麗に芽が出て、それが寸分の狂いもなく、一直線に並んで生えてあった。

それを見た時の生徒たちの目の輝きは、まさに本物であった。

国土が生返ったのであった。

「うおーっ」

 誰もが、声をあげだ。

トウモロコシの畑、馬鈴薯の畑、人参の畑、大豆の畑、全てが青々としていた。

畑と畑の、間道は、綺麗に舗装されていた。

アスファルトでは、暑さに弱いので、石畳になっていた。

それが、一定の区画で縦横に、どこまでも続いていた。

美しい田園の光景であった。

 そこに、馬に乗った一団がやって来た。

宮本武蔵であった。

一同が避けた。

「この国の王の宮本武蔵総統である!」

 と、深々と礼をした。

一同もならった。

「む。ご苦労である。学校の生徒か。一日も、早く卒業をして、この国の力になってくれい」

 と言葉を掛けて、去って行った。

その威厳は、犯し難いものであった。

左右を警護しているのは、一流の武芸者たちである。

すべて、武蔵の弟子たちであった。

 見渡す限り、田園であった。

「これで、今年の暮れには、食べ物に困ることもなかろう」

「いえ、総統。ここは、二毛作どころか、三毛作四毛作です。冬がないのですから」

「と、そう言うことか」

 と、呵々と笑った。

そして、メリダ山脈を指さして、

「あの、山裾では、牧草を撒いて、柵と牧舎を造り、餌小屋をつくり、掛かりの者の家も造って、牛、馬、羊、鶏、家鴨、犬、象も飼えるな」

「虎も飼えます」

「そうか・・・」

「牧草も、枯れません」

「そういうことかよ。北から来たから、まだ、ピンとこないのだ」

「と、思います。人身は少しずつ落ち着きを取り戻しております」

「何よりだ。悪を蔓延(はびこ)らせるな」

「はっ」

 水路もキチンと出来ている。

運河も造って、水運の便も図っていた。

充分な川幅である。

「運河添いに、やなぎや桜を植えたいな。ベンチや四阿屋などあったら、一段と風情がますぞ」

「はい・・・」

 武蔵には、お気に入りの光景であった。

「あの、山脈沿いに、五つの城塞を造れ。単独の城塞ほど危険なものはない。ギアナ高地にも五つの城塞を造れ」

 と、付いてきた者たちに言った。

付いてきた者たちは、武蔵の子飼十人衆で、高橋是高、小林勇、武藤一二三、京町ケスラー、岩上書之介、八幡野仙吉、野村当麻、馬込新吉、神林俊春、村上吉之介の十人で、頭の回転も速いし、腕も立った。

何よりも、忠実であった。

武蔵と、ケリー中将が、両親なのである。

師匠でもあった。

赤ん坊の時から、育ててきたのである。

裏切る者は、誰も居ない。

それが、いまでは、立派な武将になっていた。

師団は、任すことが出来た。

民政にも、長けていた。

肌の色はまちまちであったが、全員、日本の姓を名乗っていた。

京町ケスラーは、ケリーが名付け親で、ケリーに近いので、ケスラーと付けたのである。

白人である。

 この十人が、南米全土で暴れまくるのである。

先ずは、コロンビア、ベネズエラ一帯を武蔵が思った通りの国にしていった。

コロンビア、ベネズエラでの麻薬の取り絞まりの激烈さを、嫌という程、他国にまで見せつけていった。

 他国は、鳳国が来たというだけで、悪たちは、山の奥に逃げ込んでいった。

それですむような十人衆ではなかった。

直ぐに、山狩りを敢行した。

見つけ次第、拷問にかけて、アジトを訊きたして、親分を補足した。

その上の親分という具合にして、たどり着いていくと、大抵政治家に辿り着いた。

すぐに補足して、仕入れ先を聞き出した。

「コロンビアだ」

「そいつは、もう、死刑にしたよ。あんたも投獄するか。こいつが大本締めだよ、といって、投獄したら、中でなぶり殺しになるぞ。いままで、全員、そうだった」

「助けてくれ」

 というのを投獄した。

首相も大統領も辞めさせた。

エクアドル、ペルー、スリナム、ガイアナ、ギアナ(仏領)これに、コロンビア、ベネズエラで一国とした。

綺麗な農業国になった。

 続いて、ボリビア、パラグアイ、ウルグァイ、アルゼンチンの四個国で一つの国にした。

チリが抜けていたが、最期に、コロンビアに併合することにした。

 もう一国がブラジルであった。

こうしてみると、アンデス山脈以外の所は、概ね、農業国であった。

 国境も何もなく、重機で耕していった。

縄張りはすでにしてあった。

工兵が道路を造り、水路を造って、運河も手際は良く造っていったので、見る間の出来事であった。

その間にも、重機や耕運機で耕作をしていった。

二国を合わせただけでも、世界有数の田園となった。

これでどうして、食糧不足なのかと思う程であった。

 ただ、ブラジルの、

「アマゾンだけは、世界のために、手つかずの密林のままにしておこう」

 と、武蔵は思った。

「これだけの密林は、造れと言われても、造れる物では無い」

 というのが、武蔵の考えだったのである。

アルゼンチンの低地には、シベリアの時の経験で、山地から、がんがん土を削って、低地に土を入れて行った。

トラックと土を運ぶベルトが役に立った。

それを、低地の土と攪拌していくと、非常に良い土壌になったのである。

ここに苦土石灰を投入していったのである。

ミミズも大量に入れた。

そして、十四日たったところから、肥料を投入していき、種を植えていった。

見る間に、大規模の田園になっていった。

その変貌振りは、現地の者たちには考えられたいものであった。

ブラジルも、同じ事であった。

一大田園地帯に変わっていった。

 そのあとで、アンデス山脈探査にはいりながら、チリを攻めた。

チリは海軍、海兵隊が、五個所に別れて、一気に攻撃した。

当然、陸軍も輸送船で上陸した。

細長い国である。

五個所から攻められたら、奥行きのない分、逃げようかなかった。

各所とも、直ぐに白旗が揚がった。

その時には、鉱山隊が探査を殆ど終えていて、工兵を案内していた。

現地の者も、多少は、坑道を造っていたが、鳳国のやり方とは、まるで規模が違っていた。

現地の者も多くを採用した。

石炭の露天掘りから、作業を開始した。

その間に、石灰、石英、雲母、鉄、銅、亜鉛、銀、そして、金とダイヤ、ルビー、その他の宝石類を発掘していった。

重機を使って土を掘り、それをベルトを使って、坑道の外に運び出し、ユンボでダンプに乗せて、ボタ山に運んだ。

手際が良く、能率が違った。

坑道も鉄骨で、土を押さえて、モルタルを吹付けていった。

坑道の明かりも、ランプの数が違った。

 現地の女房たちにも、選炭などの仕事を与えた。

選炭などの仕事には、慣れていたので、一から教える必要はなかった。

金が出たり、宝石類が出たので、坑道の出入りには、身体検査が必要だった。

 仕事が回転しだしたので、武蔵は、一度、大阪城の本部に戻ることにした。


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