「烈風真田幸村戦記(女帝編)」5

    五


 交渉というのは、色々な方法があった。

もっとも効果的な方法を選んで行った。

善悪は関係なかった。

引いて言えば、交渉を長引かせるのが、一番、無策であった。

メキシコは、鳳国の傘下に這入った。

即座に、輸送船から食糧を降ろして、現地の者に配給を始めた。

渡した者には、手にスタンプを押して、二度貰いがないようにした。

 現地の者たちは、歓喜した。

トウモロコシが、主食の国であった。

その場で、兵士に成りたい者を募集した。

条件を書いたビラを配布した。

続々と、希望者が殺到した入れ替わりに、港から、捕虜の船が何艘も出航していった。

アラスカに到着してから、その厳寒を味わうことになる。

 アメリカとの交渉に這入いった。

「百十度より西と、四十度以南の全てを鳳国の者とするが、異存はあるか? 無ければ、本日より、この条件は発効するものとする、これが、我が方の条件で、停戦とする。異論があるなら、戦闘を続行する。戦争であるから、多少の暴力は致し方がない。ヨーロッパでは、異人種との混血児、今、続々と誕生し、すくすくと育っている。アメリカでも、同じ事が、起きると思うが、大切に育ててくれることを希望する。奴隷を扱ってきた国の宿命と思って貰いたい。戦争が長引けば、その数はもっと増えるだろう」

「判った。これで、停戦、休戦にしたい」

「講和条約を結んでも良いが、その場合は、無条件降伏にする」

「講和条約を、結びたい」

 カナダも同じ事を言ってきた。

百十度線からアメリカ国境までと言うのが条件であった。

 その日から工兵が入り、条文に沿って、国境の境界として長城の工事を開始した。

重機の象、馬、牛、犬を動員して、見る間に工事を進展していった。

工兵の中には、黒人兵士、インディアン兵士も混じっていた。

さらに、メキシコからも、現地人が応援に駆けつけてきた。

規格化された岩、ブロック、土嚢に這入った土や、その場で掘った土は、手早く盛り上げてユンボで叩いて、固めていった。

その上からタールを塗った、防水シートを被せて行った。

そこに、岩をドーザーやユンボで規格通りに並べてゆき、モルタルを塗った。

それが乾くと、びくともしなくなった。

それは、手際の良いもので、それが数十個所で行われて繋がっていった。

土を掘った所には、岩を並べていった。

モルタルで固めた。

そこに水が引き込ませると、渡れない堀になっていった。

それが二十間幅で、反対側にも造られていった。

土を盛った上には、ブロックで塀が立っていった。

十数間の高さの塀になった。

それを四重で造るのである。

その上から、白の漆喰を塗って行った。

何処に屋根を掛けた。

三州瓦を乗せた。

つまり何時もの砦が完成していったのである。

それが、両側に出来ると攻めようのない、堅牢な長城になっていった。

所々に、屋根付きの砲台が造られた。

トーチカも出来て、機関銃、バズーカ砲、バルカン砲、小型の大砲、火炎放射器が並んでいた。

角楼が出来ている。

長城の随所に、内側からしか開かない銃眼が開いていた。

そこから、兵士が幾らでも、狙い撃ちが出来た。

そして、ここぞという場所には、城塞や城が建てられた。

それが、国境沿いに、延々と建設されてしまった。

海から攻撃しようとしても、メキシコ湾には、猛烈な数の鉄製の戦艦が浮いていた。

大西洋側にも、海軍がいた。

一切の隙がないのである。

それが、本当に素早く、一個月もしない間に出来上がってしまったのである。

信じられない土木技術であった。

「これは、とても、太刀打ちが出来ない」

というので、宗主国のイギリスやフランスに連絡を取ったが、返事は、

「鳳国との戦争は止めなさい」

 というものであった。

「これで、北アメリカは、仕上がったな」

 と言ったのは、木村重成であった。

司令船の中でのことであった。

次に、国境内にいるアメリカ人を掃討していくことになった。

綿貫量之介の長男の綿貫数馬が隊長になって、ローラー作戦で掃討していった。

殆どの者が、投降してきた。

これを捕虜として、アラスカに送った。

五万人以上の数になった。

彼らを受け入れた収容所の者が、

「アメリカが、ここまで救出に来てくれるかな? ここに居ることさえ判らないと思うよ」

 と言った。

事実であった。

家族事ごと、捕虜になっているものもいた。

当然、赤ん坊もいた。

丁寧な扱いをして、ミルクなどの提供もした。

勿論、暖房も、効かせていた。

続いて、キューバ、ドミニカを制圧した。

戦う前から白旗を掲げて、鳳連邦に参加出来ないかと打診してきた。

これを「了」といた。

この話を聞いて、コロンビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナム、ギアナ、エクアドル、ペルー、チリ、ボリビア、パラグアイ、ウルグアイが、進んで鳳連邦に参加してきた。

残るは、ブラジルとアルゼンチンだけになった。

しかし、両国とも、実際に鳳国の軍隊の姿を見ると投降した。

ポルトガル兵とスペイン兵は、全て捕虜にしてアラスカに送った。

これで、敵対する勢力は、南アメリカ、中南米アメリカから姿を消した。

新大陸の殆どを掌中にしたことになった。

「これで、終わりましたね」

 と雪が、言った。

戦争である。

多少の手荒なことは、仕方の無いことであった。

雪は、助村と共に、すべてのことをキチンと目撃してきた。

長城の建設現場にも足を運んでいた。

「はい。あとは、これらの国々をどのように、統治していくかです。ここからが、本当の実力を試されることに成るのだと思います」

 と武蔵が答えた。

その場にいた幹部一同が、大きく頷いた。

「先ず、食糧問題でしょう」

後から参加した、孫一、信幸、助村、幸大、清水将監、愛洲彦九郎、青柳千弥、高梨内記らが顔を揃えていた。直江兼続も、追いかけるように来ていた。

他に木村重成、綿貫量之介、綿貫数馬、鈴木孫介も来ていた。

「私は、いつまでも、鳳国からの輸入に頼って居る国は、切るべきだと思っています。例えば、朝鮮などは、貸金が膨らむばかりです。しかし、朝鮮には、何がありますか。ひたすら、鳳国を頼っているだけです。自分たちの努力をしていません。一度、塗炭の苦しみを、味あわせる事が必要だと思います。幸村が、世界に出る切掛けの足がかりにはなりました。しかし、それだけです。狡いですね。台湾はどうなるか。もう少し、様子をしてみましょう。琉球は、半分、日本みたいなものですから良いでしょう。しかし、農業のやり方を教えて独立させましょう。こうやって、一つずつ、国々を洗っていきましょう。ヨーロッパは、取りあえず、対価を支払っています。ただ取りをしている国は、斬り捨てるべきです。そうしないと、食糧が這入って来なくたったときには、牙を向けてきますよ」

「皇帝の仰せのことは、尤もであると、思います」

 孫一が、深く頷いて、そのように答えた。

「今は、食糧が売るほどあると思っていても、作物は天然のものです。いつ、干ばつや、長雨がくるが判りません。これを自分たちの肌身に感じさせる政策が大切だと思うのです。片手に武力。これは見ました。日常の訓練と武器の研究を怠らなければ、失うことはありません。もう、一方の武器である。食糧が大事です。必ず豊作であるという保証はないのです。古米でも、古々米でも、蓄える蔵が必要です。古いものでも、木の皮を煮て食うよりは、ましのはずです。東南アジアは大丈夫でしょう。武龍も信幸殿の尽力で大丈夫でしょう。中虎のシベリアも、武蔵殿の力で豊かになりました」

「田中長七兵衛殿、松井善三郎殿、内田勝之助殿の尽力によるものです」

「さらに、空虎の中央アジアもカザフスタンの力で持っていますが、十兵衛殿の力で周囲の国々を併呑してきましたが、キルギス、タジキスタンの食糧は、自力では危ない」

「はい。自給率は最悪ですが、その分、鉱山が両国には有りますので、目下、操業に這入っています。金を始め、鉱物資源があります。ウズベキスタンとトルクメニスタンは、天然がガス採取できます。寧ろ、危ないのは、ルーマニア、ブルガリアで、本来、農業国なのに、国の方針が間違っています。地主と農奴の関係から、農奴が逃げ出して、飢饉になっているのです。東ヨーロッパは、そういう国ばかりです。政策を教えようにも、地主が頑なです。かつての、日本の大名と同じです。容易ではありません。切るならそちらでしょう」

 と十兵衛が、答えた。

「ただ、目下は、代金はとどこっておりません。支払いが危なくなったら切ります」

「正しい見方ですね」

「他に無償援助のところは?」

「アフリカですが、此処は人的資源として必要です」

 孫一が答えた。

「それは、こたびの戦で見させて貰いました。長い目で見ましょう」

 女帝、雪の見方は、実に現実的で、厳しいものであった。

「朝鮮への輸出は止めましょう」

「はい。どう言う答えが返ってくるか、見物ですな」

 信幸が、呟いた。

「後、東シベリア、アラスカ、北カナダ、南カナダの開発ですが、武蔵殿、一人にと言うのは酷です。誰か、何人かで手伝ってください。人選は後刻に・・・」

と会議を閉じた。


                 *


 女帝の雪は、徐々にではあるが、自分の意見を言うように成ってきた。

北アメリカ、カナダ、メキシコ、南アメリカの戦争を自分の目で見てきてから、少しずつではあったが、ものの見方が変わってきたようであった。

さすがに人事の事や軍事の事には、口を挟んでは来なかったが、内政面や外交面では、積極的な姿勢を見せるようになってきていた。

 もっぱら、そのお相手は、孫一が引き受けていた。

昔から、九度山で顔を合わせてきたという関係もあったので、何かと話やすかったという面もあったのであろう。

何かというと、

「今日は孫一殿の姿が見えませんね」

 と言ったりした。

それと、信幸がお相手になっていたが、時間が許せば、武蔵や十兵衛が、広間に顔を出したりしていた。

義務ではなかったので、雑談的なことから、不意に飛んでも無く、重要な話が出ることがあった。

直江兼続もよく顔を出すことがあった。

直江兼続は、内政面的なことが強かった。

しかし、いまは、新兵の教育で大変であったが、下士官に優秀な者が揃っていたので、新兵を班に分けて、教育や訓練を行っていた。

鉱山隊によって、行き成り、アラスカが大変なことになった。

山師は大久保長安が、お得意の技術だと、誰もが思っていたのであるが、稲垣継隆や一宮新三もその技術を持っていて、これはと思う場所を試掘していった。

ウランケル山の麓に、途轍もない埋蔵量の金鉱山が、発見されたのであった。

近くには、タナナ川が流れていて、それはユーコン川に合流しているのであったが、そのタナナ川の上流で、砂金が採れたのである。

「これは、試掘してみる価値がある」

 と掘り出したところ、試掘段階から、金が採れ出したのである。

稲垣が内密で、武蔵の元に、図面を持って走ったのであった。

北カナダの国境に近い場所であった。

国境は百四十度近くにあったが、条約でのラインは百十度あったので、何の問題もなかった。それを聞いた     

武蔵は、

「地図によっては、タナノー川とも有るが、発音の違いだな。山の名が、ウランケル山というのもあるし、サンフォート山というのもある」

といったが、稲垣は、

「かえって好都合です。あの辺りは、山だらけですし、正確に探査した者もいないはずです。秘境といえば秘境ですから」

 といって、笑った。

実際に試掘して、金を手にした者だから、出る笑いであった。

「アラスカ山脈の一角だしな。農業も牧畜も、無理だ。そこに金鉱とはなあ。埋蔵量は、どれくらいありそうだ?」

「これは、相手が山ですから、掘ってみない事には判りません。ただ、試掘段階から、金が出る鉱山というのは、滅多にありません。それと、本部に報告するのは、実物を手にしてからの方が良いでしょう。総統のお考え一つですが」

「早とちりは、みっともないからな。ただ、十兵衛にだけは、相談してみようと思う。内密でな。機材や、人員を集める都合もある」

「人員は、南米、メキシコからの捕虜で十分だと思います。施設から逃げたら、凍死するだけですから。宮本総統の了解が得られれば、試掘から、もう一歩進んだ作業に這入ります。炉も、現地に造ります。寒いので、食糧と燃料と衣類だけは、お願いいたします。では・・・」

 と稲垣は、飛ぶようにして、戻っていった。

「これは、タナボタだわ」

 と武蔵も、密かに微笑んだ。

その話を、

「誰にも言うな。恥じを掻きたくない」

「判った。聞こう」

 大阪城の武蔵丸に連れていった。

ケリー中将がいた。

「良いのか?」

「夫婦だよ」

「もっともだ」

「ケリーも聞け」

 と、話し出した。

 聞き終わって、十兵衛が、

「本当なら、飛んでもない話だぞ。試掘段階から金が出て、近くのタナナ川で砂金が出ているというのは、飛んでもない埋蔵量だぞ。重機、雪上車、雪上機動騎馬隊、食糧、燃料、衣類、人員だな。どうせ炉も造るんだろ。メキシコと、南米から送り込んだ捕虜が生きるな。スペイン語だぞ」

「私は、大丈夫です。私のシベリアに居る生徒たちも、大丈夫です」

「孫一を、驚かせたい」

「なるほど」

「シベリアにも、幾つもの鉱山がある。鉄、石灰、雲母、石英、銀、その他の鉱山がある。技術者を選択して、不自由の無いようにする。護衛は、二師団。初めは一師団で良いだろう」

「実は、儂の所も、タジキスタンとキルギスで、鉱山をやらせている。耕地など、何処にもない。両国ともな。山羊の乳のヨーグルトやチーズを食べて、糊口をしのいでいるという言う国です。儂が食糧支援をして、信用をつけているのも、鉱山のためです。これは、拙者の考えですが、両国とも、寸土も平地がないのです。農業など出来る訳がありません。山岳の中の山岳です。だからこそ、何かしら鉱物資源が有るように思えてならないのです。そうで無かったら、神仏は不公平過ぎます。鉱物資源が出れば、彼らにも仕事ができます。そう願って、鉱物学者や、鉱山職人を山歩きさせているのですがね」

「結果はどうだ?」

「すでにいくつかの鉱脈は、見つかりました。しかし、それが何の鉱脈なのか迄は、判明しておりません。鉄なのか亜鉛なのか、石灰なのか。余り期待をするのは止めようとは、思っています。この国の住民たちに、仕事が出来れば良いかな、くらいにしか思っていません。元々、鉱山の仕事は、博打ですからね」

「それは、そうだ・・・儂の方も、どうなるかは判らん。相手は土の中だからな」

 と二人で、豪快にわらった。

 すると、ケリーが一つの石ころを出して、

「子供がこんなもので、遊んでいるのをみつけました」

 と鶏の卵大の石を見せた。

 武蔵が、手に取って、見ていたが、

「金だ!」

 と言った。

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