烈風「真田幸村戦記(大助編)」4

   四


 ドイツの司令部は、深刻であった。

ヨーロッパ中が、敵だらけの感じに、なっていたのである。

そのせいか、ここのところの会戦では、敗北続きだったのである。

これでは、「負けた振りをしろ」というのは、嫌みになってしまう雰囲気であった。

「そうか。戦いの、規模は、どれくらいなのだ?」

武蔵がきいた。

ケリー中将が、通訳をした。

ケリーは、ドイツ語も堪能であった。

「本部での、皇帝の言葉は、伝える必要も無いようだな」

「はい。私も、そう判断します」

「戦況は、良くないようだな」

 件の、副司令官のゲイン中将は、副が取れて、司令官になっていたが、戦況が、ままならないので、雰囲気が、暗かった。

戦況はスカンジナビア半島の三国と、ロシアが参戦してきたことで、敵の勢力に勢いが付いたのと、八カ国に正規軍なみの、武器、兵器が手に這入ったことで、四方から、攻撃を掛けられながらも、辛うじて絶えているという状況であるという。

敵は、三から五師団の規模で、攻めてきている、とのことであった。

ドイツでなかったら、絶えられたかった、であろうという、規模で、攻めてきていると言うのが、ゲイン司令官の、弱気になっている、説明であった。

 武蔵が、「大変に重要な事を、訊くが、我々、鳳国軍が、貴国に、援軍で這入っても、問題はないか?」

「勿論だ。直ぐにも這入って欲しい」

「その場合、ベラルーシと、ポーランドを、通過してくるが、注意すべきことは?」

「ベラルーシは、ロシアの一部みたいな物ですが、多少、抵抗勢力があって、ゲリラ的な抵抗があるかも知れません。ポーランドは、中立です。寧ろ、食料の関係からも、貴国には、好意的でしょう。そこが、ヨーロッパの複雑なところです」

「なるほど。前にも、一度経験していますが、通過するだけです。そこのところを、公的に説明しておいて、頂きたいと思います」

「判りました。近日中に、結論をお伝え出来るでしょう」


                  *


 武蔵から、報告を聞いた、大助の、決断は早かった。

「すでに、ドイツでは、四面楚歌で、大規模な会戦が行われている、ということだな。我々の、情報の方が、遅れていた、ということになる」

 と武蔵が持ち帰った、地図を見て、

「大まかに見て、三方方向に敵が居るということだな。西欧、北欧、我々が、ドイツに這入ったときには、後背側になる、ロシア、ベラルーシということだ、特にベラルーシは、白ロシアと呼ばれている国だ。当然、ロシアだろう。三方面の各司令官だが、西欧方面は、武蔵。頼むぞ」

「はい」

「北欧方面は、かつてオランダとも、戦った事もある。真田十兵衛。真田の一員としても、腕を見せてくれ」

「はい。真田の名に恥じぬ戦いをいたします」

 大助は、皇帝として、すでに、部下の心を掴む術を、会得しはじめていた。

「木村重成。ロシアと、ベラルーシに当たってくれ。ロシアは、死にもの狂いでくるぞ。負けるな」

「はい。必ずや、勝ちます」

「む。信じているぞ。儂も、出陣する。必ず、戦況を報告してくれ。儂はみんなの真ん中で、この大旌旗を立てて、ドイツにいるぞ。新しい国旗だ。六文銭が、龍と虎に守られている。龍は真田信幸だ。虎は、天が武蔵。空が、真田十兵衛だ。六文銭は、南洋、豪州だ。総ての国の象徴でもある。儂が考えた。と言って、小姓二人に特大の大旌旗見せた。

「おお!・・・」

 と一同が、大旌旗に、感動の声を上げた。

さらに、大助は、

「儂の、改めての初陣じゃ。」

司令車を、一回り大きくして、何と金色に、金箔を張り詰めた。

被せてあった布を取った。

これに大旌旗をたて虎に天の文字、虎に空の文字、さらなに、各部隊の旗を立てて吹き流しなどを、賑々しく押し立てた。

「いざ。出陣だ! ホラ貝を吹け、銅鑼を鳴らせ、太鼓を打て!」

 と、闘志を剥き出しにした。

「儂は、鳳国の皇帝ぞ! 逃げも隠れもせぬわ! みなの中央に、デンと構えて居るわ。それらしい、戦をしてきてくれ」

(凄い、演出だわなあ・・・)

 禅師が、眼を細めた。

出陣する兵は五十師団。

五十万人である。

留守部隊も確りと、残してある。

それが大手門を開いて出陣した。

もの凄い軍列である。

戦車部隊、戦闘装甲車、装甲車、自走砲、馬に引かれた大砲類、機動騎馬隊、長槍部隊、鉄砲隊、弓矢隊、手槍隊、騎馬隊、司令車が何台も行く中で、一際目立つ皇帝車、動物隊、輸送車、あらゆる物資がつまれている。

水の専用輸送車が、何台も続く、食料車、城攻めようの投降機が、自走になっていた。カタパルト式の、投降機も、考案されていた。

さらに病院車、迎賓車、工兵隊が続く、あらゆる、重機が運ばれていく。

最近出来たのは戦車とグルドーザーを合わせた、工兵型戦車で、城壁でも何でも破壊して進む。

勿論、何台もある。

これの他に、海軍と、強襲揚陸隊の艦艇が地中海から、大西洋、北海にまで、ズラリと並んでいる。

艦砲射撃だけで、オランダクラスの国は、消失してしまう。

 その隊列が、ドイツの司令部を、経由してゆくのである。

皇帝の出陣とあって、慌てたのは、ドイツの皇帝であった。

同じ皇帝であっても、まるで、格が違う。

五十万の将兵と軍装がまるで違った。

ドイツでは、使い方も判らない、兵器が、沢山あった。

兵站も確保しながらやって来たのである。

驚くことに、掃除部隊から、洗濯部隊までがいた。

衛生兵から、軍楽隊までがいる。

接待兵も男女でいた。

選び抜かれた、美男美女で、各国の者たちが居た。

皇帝は、連結している、接待車に移った。

中は、宮殿のようである。

料理車も連結居ていた。

そこで、ドイツの皇帝を迎えた。

(これが、戦争中か?)

 と、頭が可笑しくなりそうであった。

そこに、竹林宮雪と、孫一、その他の将校と、禅師が、ゆったりと座っていた。

通訳は、一人に、一人が着いていた。

武蔵、十兵衛、木村重成もいた。

三司令官である。

孫一は、皇帝車で皇帝を補佐していた。

床にはペルシャの緞通が敷かれ、その上には、虎の皮が敷いてある。

天井からはクリスタルのシャンデリアが、下がっていた。

そこにドイツの皇帝と、司令官たちが這入ってきた。

ケリー中将が、全員を、紹介した。

挨拶の後で、大助が、

「一日か二日で、降伏しますよ。会戦(ランデブー)があればね。以前とは、違う戦いになります。各国、国が破壊されます。そうしないと判らない、民族らしい。ドイツは、我が国と同盟したことを、誇りに思うことになるでしょう。戦争前だ。お互いに忙しい。失礼する」

 ドイツ側は一言も、喋れなかった。

気圧されてしまったのである。

各司令官に十師団が付いていった。

三方面に別れていった。

武蔵は、国境線、フランス軍と連合国に遭遇した。

各戦車と、自走砲に、一斉に、空砲を撃たせてから、黄色い狼煙を一気に、上げさせた。

 すると、程なくして、海側の方から、猛烈な、艦砲射撃音が聞こえて来た。

以前の時とはまるで、音の数が違っていた。

戦艦の主砲は、確実にパリにまで届いて、再度、爆発をしているのに、違いなかった。

武蔵は、その音を、花火の音のように聞いていた。

事実、艦砲射撃は、パリの到るところに、落下して、あらゆるものを、破壊していった。

一時間は艦砲射撃を行うという打ち合わせであった。

それも、方向を散らしていた。

パリは、殆ど壊れた。

「こうしてみると、艦砲射撃の音というのも、気持ちの好いものだな」

 と武蔵が言った。

その間に、戦車、自走砲、戦闘装甲車、装甲車が前列に、一列に、並び終えていた。

「各車、主砲の用意、発射!」

 武蔵が命じた。

無数の砲門が、一気に咆吼した。

あらゆる物が吹き飛んだ。

人馬もなにもなかった。

土嚢も、建物も吹き飛んでいった。

各車が三発ずつ発射した。

それだけで、生きている者は、居ないのではないか、とされ思われた。

猛攻を超えていた。

しかし、武蔵は、

「何が、レジスタンスだ。抵抗できるものならしてみろ。バルカン砲、銃、発射!」

 それこそ砲撃にの比ではない、弾丸の数が発射された。辛うじて、生き残っていた者も、完全に死んだ。

「捕虜は、足手まといだ。降参してきた者も撃ち殺せ。生きていると、レジスタンスに、成りかねん。徹底的に掃討しろ! 歩兵、出動、盾を忘れるな。前進」

 各隊が、一斉に、動き始めた。

 フランス軍の、後方の部隊は、この惨状を、目撃していた。

我先に、逃亡を開始した。

 途端に、武蔵は、

「逃がすな。レジスタンスになるぞ。機動騎馬隊、出撃!」

 三百騎の機動騎馬隊が、出動して、遠くの者は、マシンガンで撃ち、近くの者は、日本刀で、首を刎ねて上げていった。

逃げ遂せた者はいなかった。

「戦車隊。建物という、建物は、撃ち壊せ。隠れ家になる」

 その戦い振りは、徹底していた。

 武蔵には、レジスタンスというのが、余程気に入らなかったのであろう。

「前進!」

 と次の目標向かって進んだ。

銃を撃ってきた部隊が居た。

「怖いもの知らずが、居るようだな。叩き潰せ」

 十両の戦車の、筒先が、そちらに、向いた。

一斉に射撃された。

何もかにもが、吹き飛んだ。

落下してくるものは、千切れた手足や、死体であった。

逃げる者がいた。

機動騎馬隊が追いついて、首を刎ねていった。

向かうところ敵なしであった。

別のところで、砲声がした。

海軍は、まだ、艦砲射撃を止めていないのであった。

地中海側からも撃っているのであった。

これでは、本当に、フランスは、壊れるのに違いなかった。

「こいつらは、嘘つき民族だ。徹底的にやらなくては、骨身に染みないのだ」

 と武蔵はいった。白旗を出して居る建物があった。かなり、大きな建物であった。

「あの建物を、とことん壊せ」

 戦車が二十両、自走砲、五門が、建物に向いた。

一斉に砲撃した。

建物が、ばらばらに崩壊した。

「前進」

 武蔵が、命令した。


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