第六章「戴冠式」1
第六章「戴冠式」
一
「会議に出ていれば、この国が、どこに向かっているかわかるであろう。旧徳川の家臣たちは、くわわって来るのが、遅すぎた。しかも、海軍の知識がない。撫順攻撃、瀋陽攻撃を見て、どう思ったか?」
幸村の質問に、正純は、
「もう槍だの、刀だの、弓だのという時代ではありません。しみじみと、そう思いました」
と答えた。幸村は、頷きながら、
「普通はそう思う。しかし、今後重要になってくるのは、正純がいらなくなったと思っている。鉄砲と、槍と、刀と、弓の時代に逆戻りなのだ。まだ、みんなは、大きな戦があると想定して、城郭を建てようとしている。この中華大陸では、せいぜいが馬賊、盗賊の類だ。最大でも、一万騎だろう。それが連合したり、分裂したりして、国民に迷惑をかけている。今後、正純が率いていくのは、抜群の強さの、騎馬隊だ。戦車も小型化した。馬二頭で引いて走る。南洋でゴムという樹液が取れる。ずっとそのゴムを研究していたが、タイヤというものが造れるのが判った。それを車輪につける、車輪の振動が弱まって、車輪が軽くなる。そのタイヤの中に生ゴムで袋を造って空気を圧縮して入れると、戦車の車輪は奇跡的に、軽くなる。小型戦車は、それをつける。小型戦車には、無反動砲、ガトリング銃、迫撃と、火炎放射器がつく。戦車五台と騎馬隊五十騎。河川が多いが、これを利用して、小型高速艇五艇で、一隊だ。特殊戦闘隊という隊が出来ている。これと組んで、小型支援隊というのを造り、ともに戦って欲しい。武器は、可能な限り、支援する。情報もだ。長宗我部盛親が、この隊を率いる」
「判りました。徳川に対する偏見をこの戦いで、払拭します。同じ隊でもと、思ってもらえるようにいたします」
「十隊は造ってほしい」
「はい」
*
会議の席で、幸村は、みんなにいった。
「ちょっと国内に戻るがの・・・大阪城に四つの城ができた。入るのは、秀頼と奥方、大助と奥方、鈴木将軍と奥方、宮本武蔵将軍と奥方で四つの城である。さらに江戸城と、名古屋城が完成したが、江戸城には、意外な人物に入ってもらう。この人物には、儂と父の昌幸が、命を助けてもらっている。その恩をいまだに返していない。その人物とは、儂の兄で、沼田城の城主であった、真田信之であるが、儂と父の命を体を張って助命を嘆願。儂と父昌幸と一族郎党、家臣たちは九度山に蟄居となった。兄は、信幸を信之と改名したが、元の信幸に戻ってもらい。江戸城に住んでもらう。兄、信幸ならば、江戸城の重大さを理解し、関東管領を全うしてくれると信じている。長年心にひっかかっていた、恩を返したい。異論のあるものは、意見を述べてくれ・・・理解してくれたものは、拍手をしてほしい」
参謀本部の会議場が割れんばかりの拍手で埋まった。
「ありがとう・・・」
幸村が、礼をのべた。
「青柳、高梨。沼田に行ってくれ」
「よろこんで・・・」
青柳と、高梨の眼が潤んでいた。
後日、青柳と高梨が、上野の沼田城に行き、信幸が、
「そうか・・・幸村が、そういってくれたのか。拒む理由はないもない。信幸に戻す・・・」
真田一族が、一つになった日であった。
真田信幸は公爵筆頭になった。
さらに空席になっていた琉球総督府総裁となり、征胡 (せいご)大将軍となった。
大阪城に来たときには、真田丸に住むことになった。
『胡』は、殆ど『夷』同義で「えびす」である。
中華大陸の戦国期の、満州の辺りを指していった語である。
将軍が三人になった。
幸村は、そっと津城の、金蔵の金と、米を、江戸城と浅草の蔵前の米蔵のすべてを、満杯にしておくように運ばせた。
このことは、才蔵に命じた。
江戸城の大きな金蔵が、満杯になった。
「この年になって、大多忙になったわ」
と信幸が、大いに喜んだ。
幸村は、静かな声で、
「名古屋城には、木村重成殿に守備をお願いいたす」
木村重成の母は、右京太夫で、秀頼の乳母であった。
秀頼の四天王の一人であった。
名古屋城の金蔵と、米蔵も満杯にした。
もちろん大阪城の四つの金蔵と、米蔵も満杯になっていたのである。
孫一と淡島、武蔵と夢の、それともう一組、才蔵と佐助の三組の結婚式が、大阪場内で挙行されたのであった。才蔵と佐助の屋敷は、真田丸の近くに建てられた。
米蔵と、金蔵も同時に建てられた。
その両方の蔵も満杯になっていた。才蔵と佐助の大阪城内の屋敷は、寓居であった。
城は、九度山に密かに建てられてあったのである。
勿論、金蔵と米蔵、食糧蔵、道具蔵があった。
その中にも、ギッシリと物が詰まっていた。
九度山でも、雪(竹林宮)が、祝いの宴を開いてくれた。
「何でも相談しなさい」
と竹林宮がいった。
才蔵と佐助は、九度山、和歌山城、大和郡山城、津城、久居城の五つの城を守っている最高任者が、竹林宮であるのを知っていた。
幸村は、二人の女性から堅く守られていたのであった。
「あとは、筑前博多と、肥前名護屋城だな」
と幸村は、着々と手を打っていった。
決して焦らないのである。
「中華大陸の国号は『鳳(ほう)』としたい。国旗は、『鳳凰二羽が天地で丸くなって遊戯(ゆげ)している中に桐六文が入っている』ものだ。意匠は淀に任せる」
「はい。とても綺麗です。旌旗の本旗は、錦旗と同じように造ります。本旗は、赤地に、鳳凰が金、六文が銀、桐が緑です。旌旗では、鳳凰が黄色、六文が白、桐が緑です。流し旗、長旗、自分指物、国旗の大、中、小を、六十万枚造ります」
「六十万枚!」
「足りません。北から南まで、配るのですえ」
「そういうことか」
「艦船すべてにも・・・」
「それでは百万枚だ」
軍服の洋服と、靴下、靴、手袋の儀仗用はイギリスのロンドンに頼んだ。
帽子もである。
白と赤の二種類、赤はズボンが黒であった。
肩と胸に金モールがついた。
音楽隊は人数が足りないので、イギリスが応援してくれた。
塘沽(タンクー)から、北京までの間は大理石の石畳みで何本ものポールが立っていて鳳凰桐六文の国旗が二本づつ立てられるようになっていた。
いよいよ戴冠式の日が来た。
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