第五章 7

   七


 威風堂々の入城であった。北京の紫禁城への入城であった。

次から次に将兵がやってきた。

「一体何十万人いるんだ?」

「また、戦車がきた。大きな大砲が馬にひかれてきた。今度は鉄砲隊だよ。弓隊。槍隊。きりがない。これ以外に渤海には、浮かぶお城みたいな船が浮かんでいる」

「これじゃあ、満州族も負けるわけだよ」

「結局、この隊の頭が、この国の皇帝になるっていうわけだ」

「瀋陽も、撫順も、町ごと、なにもなくなったらしよ」

 瀋陽から、北京に来る間には海が見える。

 そこに見えるのは、浮かぶ城塞の、城船であった。

 大きいなどではなく、デカいというのが、第一印象であった。

海軍の主力戦艦、三十二隻分の大きさなのであった。

 色は海の色に紛れるようなブルーグレーに塗られていたが、逆に無機質な、不気味さを感じさせた。

 横に四隻、縦に八隻が、隙間なく並べられてジョイントされているのであったが、その過程を知らないものは、四胴船の船に見えた。

この船の機能はすでに述べている。

 兵站基地であり、兵士の休息の場や、医療船にもなっているのであった。

 そして、抜群の戦闘力を持ち、時には自ら戦うのである。

 さらに、これも抜群の強襲揚陸艦としての機能を持っているのであった。

 いわば万能艦といってもよいのであった。

 その上に艦隊を組んでいるのであった。

大小の艦船や、高速艇が、城船から、桟橋が、何本も出ているので、静かに横付けされてあった。

 何隻もが停泊していたので、船はさらに大きなものに見えた。

 進軍しながら、横に見たのであったが、兵士たちは、思わず足を止めて見てしまった。

「つかえているぞ。早く歩け」

 と後ろから注意を受けて、やっと我に返って、進軍をするという風であった。

「ありゃあ船の化け物だ。本当に海に浮かんでいる城そのものじゃないか。あの船の中には、あらゆる設備が揃ってるらしいぞ」

 と兵士たちも、噂し合った。

 一艇の小型高速艇が走ってくるのが見えた。

 艇には帆も、艪もないのであった。

 船の前と後方に翼がついていて、その翼には、前には二個づつのプロペラがついていた。

 そして後部の少し小さい翼は、上下に稼働した。

最後尾には、二枚の斜行した縦翼がついていた。

船尾の水中内には、四枚のスクリューが回転していた。

 さらに、艇の最後尾には、四本のノズルがついていた。

 そこから、スタート時には、物凄い勢いで、炎が噴射されて、艇が推力を得ると、炎は絞られていった。

 しかし、その推力で、プロペラが、回転した。

 プロペラ自体も推力を得ながら、プロペラに連動している。

スクリューにも回転を伝導したから、三つの推力で、飛んでもない高速を得ることになったのであった。

 それを翼で浮力を得たのであった。

 意匠も船の概念を超えたものであった。

 四人乗りで一人が操縦を担当した。

前の一人は、ガトリング銃を担当した。

 後部の一人は、小銃で周囲の警戒にあたった。

もう一人は、無反動砲と、無筒弾丸発射装置を担当した。

もちろん、全員、個人装備に、銃剣を携帯していた。

 中華平原は、河川が多い網の目のように多くの河川が流れていた。

小型高速艇は、ほんの少しでも水があれば、滑走をしていく。

 この一艇の戦力は、馬賊など、滑走しながら、ガトリング銃で斃していくのに違いなかった。

 後部座席にも、ガトリング銃が搭載されてあった。

 高速艇の速度は、馬の比ではなかった。

三倍以上は、早く走れた。

 これはインドシナ半島や、南方の島嶼部での入り組んだ海でも活躍出来るはずであった。

 そのことを孫一から聞いた幸村は、すぐに視察にいっていた。

最新の小型高速艇は、前に四輪、後部に、四輪の車をつけた、水陸両用化をしていたのであった。

水の中では、車を仕舞う。

手動で、引き上げた。

滑車の応用で、軽く持ち上がったのである。

「孫一よ。飛んでもないないものを、考えたな。これと、小型戦車と、騎馬隊か・・・これからは大きな戦争はない。馬賊や、盗賊との小競り合い的な戦いだ」

 現代のゲリラ戦であり、テロとの戦いに似ていた。

それには、海軍の大戦艦では、どうにもならないと、幸村も思っていた矢先であった。

 孫一はとうに、そのことを考えて、兵器の上から、敵に、損傷を与えることを考えていたのであった。

「さすがは、鈴木将軍だわ」

「おだてるな。何も出ないぞ。で、この小型高速艇を、城船に二百艇は積める。馬賊の出る地方に城船艦隊一個が出動すれば済む。小型戦車も百輌以上造って積んである。馬二頭で済むから、桟橋から小型揚陸船で、必要な数だけ降ろせる。桟橋もそこの部分は船に合わせて坂になっている。すべり止めの横木も工夫してある。川の水深があれば、半潜水艦が便利だ。特殊部隊を造った」

「ほう・・・どんな部隊だ?」

「もの凄く高い崖の上から、落下傘という船の帆を絹で造った。凧だよ。あれの逆を考えたら成功した。これに機関銃を持たせて、敵の背後に廻る。それと半潜水艦に人が掴まれる棒をつけた。これで、敵地に人が潜入出来る。これを完成させたら、馬賊の頭領を狙撃出来る」

「忍軍の仕事だ」

 幸村が言うのに、孫一が、

「違う。忍軍は、情報蒐集が、主な仕事だが、特殊部隊は、戦闘と暗殺が主たる仕事だ。この部隊を、小型戦車や、小型高速艇に、乗せたい」

「なるほど。忍軍の再編成が必要だな。各忍軍を、統合したいと思っていた。それに、特殊部隊を加えて、一軍を造る。表向きには発表出来ないがな」

「しかし、ここが、一番大切なのは、判っているだろう」

「む・・・巧くつくってくれ。武蔵には、向いていないが、才蔵と佐助なら相談相手になるはずだ。不必要な者に教えることはない」

「判っている。いま思考錯誤の最中だ。無理だと思うものから、城船も、小型高速艇も作り出した。諦めないことだ」

「その通りだ・・・金は惜しむな。鉱山隊が、次々と金、銀、銅、鉛、石炭、雲母、石英、硝石、ダイア、ルビー、サファイアの鉱山を発見してくる。日本、蝦夷、満州、南方と各地にある。試掘中と操業中とある。変なものが出た。燃える黒い液体だ。今研究所で、調べさせている。直感なんだが、石炭の液体化しているものではないか、と思っている。蒸留させたり、いろいろしている。一のものを作り出すのには、根気がいる。金は、たくさんある。心配するな、仕事を進めてくれ」

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