第四章 10

   十


 陣形を整えて、幸村が、指揮する他なくなった五個師団と近衛兵を従えて、ソウルから、白頭山の東を目指した。

 本来本隊であるはずの、営口から、渾河(フンホー)を遡る海軍と、海兵隊は、渾河の他に遼河(リャオホー)を遡っていった。

当然、渾河の入り口の町、営口は、海軍の主砲の洗礼を受けた。

 その威力の凄さに、町中の者が、恐怖で震えた。

湾に浮かんでいる主力艦の、主砲から、海城(ハイチョン)、鞍山(アンシャン)、遼陽(リャオヤン)、盤錦(バンチン)、台安(タイアン)、遼中(リャオチュン)瀋陽(シェンヤン)、撫順(フーシュン)まで、弾丸が飛んだのである。

着弾した方は弾丸が、どこから飛んできているのかまるで判らなかった。


         *


 進軍中の幸村の隊に、近衛隊の二千二百人が遭遇した。

「伝令は、間に会いました。宮本隊からの連絡待ちをして、我々の到着と宮本隊からの連絡が、前後して到着しました。黒竜江から、計画通りに、支流の松花江(ソンホワホー)と、さらに、本流の黒竜江沿いの町を掃討して、海軍内陸軍と海兵隊、陸軍五個師団は、チチハル、大慶に侵攻するとのことで、松花江沿いの町は、丁寧に掃討されると思います。五個師団と海兵隊、海軍内陸軍と海兵隊の半数は、艦隊護衛のために残っております」

 と報告して、

「殿下の作戦を聞き、白頭山の東の反対側に五個師団が廻るために、清津より北の、ポシェットを叩いて基地とし、フンチュン、延吉、竜井を掃討、さらに、和竜を掃討して、そのまま、師団単位で、展開しています。こちら側からの、攻撃で退却する敵を、押し包む作戦であります。なお鈴木隊の五個師団は、間もなく合流いたします」

 と報告した。作戦は、予定通り行われていた。

「砲撃の音がするな。渤海の湾からの砲撃の音がここまで聞こえてくるのか、凄いものだな、恵山(ヘサン)の町が見えてきた来たぞ」

 と幸村が言ったときに、斥候隊が戻ってきて。

「敵、約三万近くが、進撃してきます」

 という報告が入ってきた。

「戦車、戦闘装甲車、装甲車、散開!」

 二百輌の、戦闘車が、一斉に戦闘陣形に移って行った。

「騎兵隊、つけ剣! 鳳凰陣形に、散開!」

 信号車の高い櫓の上で、紅白の旗が、いろいろ

な形で振られた。手旗信号である。

「歩兵小銃隊、付け剣!・・・二脚を立て、匍匐、狙撃の隊形をとれ!」

 幸村の音声を信号車に、手旗で送ると、それを信号車の信号兵が手旗で、全隊に送った。

 敵の姿が見えた。

「戦車、戦闘装甲車、装甲車、突撃! 同士討ちをしない形で包み込め!」

 戦車の形が、逆雁行になっていった。

 敵を、待った。

鄭瑞祥と、李泰照王が第二陣、第三陣の形で待っていた。

「三万なら、全滅させるからな」

 と幸村が、淀と、秀頼、大助に言った。

四人は、前の席にいた。侍女がコーヒーを全員に配った。

こういう時でも、調理係は、コーヒーを淹れているのである。

敵が入ってきた。

歩兵の狙撃隊が一斉に発砲した。

弾丸は、一発の無駄弾丸(だま)もなく、敵の体を吹き飛ばしていった。

「大砲を、敵の後方に撃て」

 各移動大砲が、一斉に咆哮した。

やや、間があってから、敵の後方部隊に着弾した。

 猛烈な爆発で、土煙とともに、人馬が無数に舞い上がった。

「秀頼。音声管を持て。次は、迫撃砲だ。敵の中央を狙え」

 と指示した。

「迫撃砲、敵の中央を撃破せよ!」

 秀頼の命令で、信号塔の旗が振られた。

 やがて、迫撃砲が発射された。

 そのときに、幸村が、

「戦車隊、ガトリング砲、一斉発射」

 といった。

迫撃砲が一斉に着弾した。

大轟音がして、人馬が舞い上がった。

秀頼が、

「戦車隊、ガトリング砲、一斉発射!」

 と、号令をかけた。

 ガトリング砲が各戦車から発砲された。

 次々に人馬が斃れていった。

「騎兵隊、歩兵隊、後方に退避、虎隊、前へ」

 復唱するように、秀頼が号令した。

旗がふられた。

隊が動いた。

虎隊が前方にならんだ。

鹿の肉の塊が、矢で射られた。

 虎の檻の扉が開いた。

 虎の群れが矢のように、敵に、向かっていった。

かろうじて生き残っていた。

敵兵は、

「と、虎だ!・・・」

 恐怖した。

逃げようとしても、味方の馬が斃れていて。

動きが取れなかった。

 三百頭の虎であった。

「よし、戻せ」

 幸村が、音声管に向かって命じた。

 三百頭が、無事に戻ったと、いう合図があった。

音声管には、部下からの声を聞く管もあった。

「虎隊、三百頭、無事に戻りました!」

 それを確認してから、幸村が、号令を発した。

「明軍。朝鮮軍。突撃!」

 信号兵が、金色の采配を振った。

 それが合図であった。途端に、十五万の兵が突撃していった。

 その様子に、幸村が、首を振っていった。

「これは皆殺しだな。満州兵は、恨みを買っているからな・・・秀頼、大助、なんで後方、中央と攻めてガトリング砲、虎隊なんだ?」

「敵は騎馬隊ですから、まず後方を止めて、さらに中央で分断。ガトリング砲で、敵の大部分を斃して、虎で恐怖を植え付けて、後を、明軍と、朝鮮軍に渡した、ということであります」

 秀頼が、答えた。

「よーし、正解だ。どうだ命令を出すのは?」

「震えます」

「正直でいい。声を鍛えるんだ。自信のない声は、部下を不安にさせるぞ」

「はい!」

 二人が、同時に答えた。

「ありがとうございます」

 淀が頭を下げた。

(次世代を考えて、帝王教育をしているのえ)

 それは、淀には出来ない。

思わず頭をさげたのであった。

「そうだ・・・才蔵。助かったぞ・・・儂も礼を言う・・・本気で、頭に血が上った。あの莫迦には・・・信じていただけにな」

「武蔵将軍が、言っておられましな。戦わぬ味方は、最大の敵であると」

「あのときは、才蔵はいなかったはず」

「廊下で警固をしておりました。部屋の外にも、聞こえておりました。防音、その他を考えた、特別談話室が、必要です」

「む、考えよう」

 音声管は、蓋をしてあった。

「わらわも、呆れたのと、どうなるのかと・・・いつもの殿下とは違うので、混乱しました」

「才蔵に助けられた。あの五師団は、帰国させたか?」

「はい。即日です。俸給が高い六人を、切るか、当分無給、その上で、一からやり直しです、将兵は徹底的にしごくように、教官に手紙を出しました。帰国当日から夜も演習です」

「当然だ」

「大隊長級まで、降格です。下は、小隊長まで、減俸。兵士は、蝦夷隊と半分を、入れ替えです、五個師団の、総編成替えが望ましでしょう」

 と高梨がいった。

「いまは、戦が先だ」

「はい」

 全員が答えた。

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