第四章 12

   十一


「こんなものを、造ってみた」

 久しぶりに九度山に戻ると、待っていたように、孫一が現れた。

「幸村殿にお借りした資料の中に、図面集がありましてな。気を惹かれて、図面を頼りに、造ってみた。十挺ほど出来た。面白い銃だよ。気に入ったら、これ専門の工房をつくる」

 と孫一が、木箱の中から、銃身が出てきた。

銃身が六本付いていて、六本が、回転するようになっていた。

「ガトリング銃だな」

 幸村が驚きもせずに、冷静に言った。

驚くだろうと思った孫一の方が、

(ん? 驚かないぞ)

 と意外であった。

「試射をしてみるかね」

「む。地下の試射場がよかろう。徳川の意を体した、柳生の忍びが入り込んでいる、見つけ次第、虱のように潰しているがな」

「服部党には、伊賀、甲賀の手練れがいるが。噂のように、仕事を外されているのかな?・・・

これを完成している鉄船の、真田水軍が積んだら、怖いものなしだ」

「孫一。間違えるな。豊臣水軍だ!」

「建前だろう。誰も豊臣水軍とは、思っていない。真田水軍だから、みんなついてくる」

「孫一。物事には、大義名分が必要だ。判るか」

「判っているが、かったるい話だ」

「それを押し立てて戦わないと、我らは、単なる私党になってしまう。それでは、大きなことは、出来ないぞ」

 幸村と、孫一は、仲が良い。

幸村が九度山に来て以来、親交が続いていた。

幸村の方から雑賀に尋ねていって、頭を下げ。

「色々とご教導願いたい」

 と付き合いが始まったのであった。

何よりも、人は、ウマが合うということくらい大切なことはない。

それが、巧くあった。会っていると楽しくなった。

 幸村は、雑賀一族から色々なことを、学んだ。

 孫一は、幸村が何を話をしても、秘密を守った。

幸村も同じであった。

「いつか家康を斃す」

「幸村殿。目的を持つのは良いことだ。儂も、家康のやり方は陰気で、好きではない。それに、豊臣恩顧の武将が、大挙して裏切り、いくら戦国だからといっても、奴らは、人間として、恥という感覚を持っていないのか。儂は大したことは出来ないが、どこまでも幸村殿の味方だ」

「ありがたいことでござる」

「真田幸隆・昌幸・幸村は名将の系譜だ。家康と五分に戦って欲しい。そのために儂の出来ることは何でもやってやる・・・不思議に、雑賀は、負けそうな方を応援する癖がある。だから、たまには、勝ちたいものよ」

「負けるために、戦をしに行く奴はいない。必勝の策を考えている。おやじ、昌幸だったら、この場面をどう切る抜けるのか、いつも考えている。これからは、武器の優劣が、勝敗を決める。鉄砲、大砲の新式を持った方が勝つ」

「正しい考えだ」

 幸村は、自分の武器に対する考え方を実行して、常に孫一を傍に置いて、開発を進めていった。

ガトリング銃もそうであった。

孫一が、嫌でも造りたくなる、図面集を入れておいた。

(やはり、造って来たな・・・)

 地下の試射場で、耳栓を詰めた。

 幸村は、まるで自分が造ったように、三脚の台の上に乗せると遠くの的に向かって、ガトリング銃を発射した、連射される弾丸で、的が次々に吹き飛んでいった。

凄い迫力であった。

弾丸はベルト給弾式であった。

 やがて、試射を中断すると、幸村は、

「いまので何人死んだかな? 飛んでもない武器だ。孫一。これは機関銃だ。図面集の中には、機関砲もあったはずだが・・・」

「そう来ると思ったよ。同じ数だけ造っておいた。海に出て、試射をした。大砲と、鉄砲の間ぐらいの威力だろう。ただ、連続して、撃たれたら、どんなもそのでも破壊される。あんなものと戦う奴は莫迦だ」

「そうか。造った者が言うんだ。間違いあるまい。だったら、こんなものと戦う奴は、どうなんだんだ?」

 近侍しているものに、

「アレを持って来い」

 と命じた。

近侍が走って、取りにいった。

そこに並べられたのは、異様なものであった。

「これが、実物大の筒と、弾丸だ、この筒を特殊な三脚で支えて、筒の底を、鉄板に指定した位置に乗せる。鉄板の下には、炭火が入っていて、熱されている。その筒先からこの妙な羽が真ん中と尻と、先の方についている。三づつの羽で、角度は同じにしてある。実物をここで飛ばしたら、この地下が確実に壊れる。一万分の一の模型を造った。先端は爆発用の火薬、先端は槍のようになっていて、どんなものでも破壊する。火薬の次は油だ。そして、また、火薬。鉄片が入っている。それが三段重なって、最後は推進用の爆発の少ない火薬と油を混合。その下は、起爆の火薬。これを熱した鉄板の上に筒の先端から落下させる。消火

隊。砂の用意は良いか」

「はい」

 十人以上が緊張していった。

「身を屈めろ。消火用意・・・発射!」

 筒先から弾丸を筒の底に落下させた。

途端に爆発音は大きくはないが筒から弾丸が飛びだして、宙を飛んだ用意した的に激突すると、地下が大爆発をして、一気に炎が充満した。

「消火! 砂を掛けろ!」

 十数人でやっとの思いで消火した。

 幸村も、孫一も、煤で真っ黒な顔と体になっていた。

「消火隊はなおも砂を掛け続けろ。油断するな。地下での実験は、無理だったな・・・一万分の一だぞ。十里くらいは、飛ぶ海で、やってみた」

「呆れてものが言えんよ・・・死ぬぞ! まったく・・・」

 と互いの真っ黒な顔をみて、大爆笑して、地上にでた。

大きく深呼吸をしてから、孫一が、

「ともかく風呂に入れさせてくれ」

「こうなると思って、沸かしてある」

「儂を、殺す気か?」

「許せ・・・」

 と一緒に風呂に入りながら、孫一は、呆れて、

「真田幸村は、半端な莫迦じゃないな・・・載っていたよ、参考書に。翻訳させたら、迫撃砲というそうだ。儂は、これは危険だと思ったぞ」

 互いの、筋肉質な背中を、流しあった。

「でも造った」

「何発?」

「千発・・・」

「いまの爆発の一万倍だぞ!」

「そういう計算になるな。江戸城にあれを千発ぶち込んだら?」

「殺人鬼といわれるぞ。大砲の比ではないわ」

「で、大砲と、迫撃砲というのか、あれと、ガトリング砲。ガトリング銃を搭載した」

「船が・・・」

「いや。戦車と、戦闘装甲車、装甲車を造った」

「!・・・」

「馬六頭で疾走する。馬や馭者ごと鉄板で囲った車輪が、片側で八輪。十六輪車の戦車だ。大砲、迫撃砲のときは止まるが、ガトリング砲、ガトリング銃のときは走りながら撃てる。勿論、銃剣隊も乗る。これが百輌あったら負けなかろう」

「当たり前だ! もう、造ってあるな。その顔は!・・・」

「よくわかるな。小早船を造っている船大工に、図面を見せたら、判りましたと、百輌出来た、馬六百頭だ。大阪城の馬場に並べたら。あの宮本武蔵がビックリしていた。大砲、迫撃砲、ガトリング銃、ガトリング砲搭載された。戦車百輌がならんだら、家康はどんな顔をするかな。海には大艦隊だ。ガトリング砲、ガトリング銃、迫撃砲も搭載するぞ。ごめんなさい、といわないかな」

 幸村が、こどものような顔で笑った。

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