エピローグ

第61話 世界よりも大切なもの

 あれ? 僕は一体どうしたんだろう?


 目が醒めて最初に目に入ったのは白い天井、ここはベッドの上か。

 体がちょっと重たい。

 いや、違う。僕のお腹の上に何かが乗っかっている。

 

 体を起こすと目の前にはエリスの可愛い寝顔があった。

 僕に付き添ってくれていて、そのまま寝てしまったんだろうか。


 僕がそっとエリスの髪に手をやると、エリスはまだ眠たそうに指で目をこすりながら、目を覚ました。


「あ! 目を覚ましたのね。もう、心配したんだから!」


 エリスは言った。

 聞くところによると僕は丸三日間眠り続けていたそうだ。

 魔法力を無理に放出し過ぎた事が原因らしい。


「それでね。二人で向こうに戻れる事になったの! また高校に通っていいって。ユウのおかげよ。まあ半分はお母さんが説得してくれたおかげでもあるけど」


「そうなんだ……。良かった……」


 窓から心地よい風が吹き込んで来る。

 帰れるんだ……。


 なんだか実感が湧かないまま、その言葉を受け止めていた。

 嬉しい、のかな。


 僕はこの世界が好きになってしまっていたんだ。

 このなんとも言いがたい感情の源泉はそれか。


 だけど、これからもエリスと一緒に居られる。

 それを考えたら急に嬉しさが溢れてきた。


 その後、エリスのお母さんの計らいで、ルーシアさん、ピロロ、ミリア、ルークさん、エリス、僕と、皆で食事をすることになった。魔王さんは現れなかった。


 笑顔ながらも時折涙を見せるルーシアさん。

 いつも通り笑顔でごはんをよく食べているピロロ。

 エリスにべったりでたまに僕に対して不満げな表情を向けるミリア。

 そんな皆をあたたかい笑顔で眺めているルークさん。


 本当に皆にはお世話になった。

 ありがとう。


 そして、ひとしきり皆と別れを惜しんだ後、魔王の間から転移魔法で元の世界に送り届けてもらう事になった。


「では、行くぞ!」


 魔王さんは他には何も言わず、その一言だけ発し、転移魔法を発動させた。


 あの時と同じ感覚に僕とエリスは吸い込まれる。


 そして……


     ◆     


 気がつくと、あの日と同じ。

 あの、初めてエリスに想いを伝えた場所にいた。

 帰って来たのだ。


 僕の目の前にはエリスがいる。

 優しい眼差しで僕の事を見てくれている。


 あの時、僕は彼女に憧れていた。

 ただ憧れていただけだった。

 でも今は違う。


 今こそもう一度エリスに言おう、心から。

 本当の意味であの言葉を。


「エリス……。君の事が好きです。僕と付き合ってください」


「はい……。これからもよろしくね」


 あの日とは違う彼女の笑顔。


 僕はそっとエリスの肩を抱き寄せる。

 エリスはぴくっと一瞬驚いたような反応をしたあと、僕の目を見て静かに瞳を閉じた。


 そして僕も目を閉じ、初めての……




「俺の娘に手を出すなあああああああああ!!」


「え!? 何で!?」


「この野郎全く油断も隙もねえ!!」


「お母さんもいるわよ」


「お母さん!?」


 僕らの目の前には、魔王さんと、エリスのお母さんがいた。

 そして魔王さんは言った。


「大事な娘にまた一人暮らしなんてさせられるか!」


「お母さんも、家族3人で一緒に日本で暮らすのがずっと夢だったのよ」


 エリスのお母さんは両の手のひらをパチンと合わせて、嬉しそうにそう言った。


「いや、でもお義父さんが居なくなったら、向こうの世界はどうするんですか!?」


「お前にお義父さんなんて呼ばれる筋合いはねえ! 向こうの事はルークに任せておけば大丈夫だろ。俺だって世界なんかより娘の方が大切なんだ!! お前に負けてられるか!」



「お父さんの……。バカーーーーーーーーー!!!!」



――これから始まる僕らの日常も、異世界の冒険に負けないくらい刺激的なものになりそうだ。



〈憧れの彼女に告白したら異世界で魔王をやってるお義父さんに召喚び出された!〉

 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る