第60話 魔王決戦3

 終わったのか……?

 僕がそう思ったその刹那。

 大気が震えた。


「貴様なんぞにやられてたまるかああああああああああああああ! このガキがああああああああああああ!」


 魔王はそう叫びながら自身に覆いかぶさっていた瓦礫の山を吹っ飛ばし、立ち上がってきた。


 そして、苦しそうに呼吸を乱しながらも、続けてこう言った。


「クッ……。ドサクサに紛れて思いっきり突っ込んできやがって。死ぬかと思ったじゃねえか! だがな……。此方もかなりのダメージを負ったが、まだ貴様にとどめを刺すくらいの力は残っているぞ!」


 ダメだ。僕はもう全ての力を使い果たしてしまった。

 身体が動かせない。

 これで最後か……。と思ったその時だった。

 

 魔王の周りを冷気が包み込み、脚元が凍りついたのが見えた。

 氷魔法……。エリスか? 

 いや、違う……。


「あなた少し頭を冷やしなさい! せっかくエリスが初めて連れてきたお友達になんて事をするんですか!!」


 そう言って現れたのは、黒く長い髪に黒い瞳、凛とした佇まいに芯の強さを感じさせる美女だった。


「お母さん!」


 エリスが叫ぶ。

 え? お母さんって? 

 エリスのお母さんにしてはどう見ても若すぎるし、それに……。


「おまえ……。何故? まだ目覚める時期ではないはずだ!」


 魔王が黒髪の女性に向かって言った。


「私がお起こししました。ご家族の緊急事態ですので」


 そう言って、女性の後ろから現れたのはルークさんだ。


「エリスのお母さんって亡くなったって聞いてたけど?」


 僕の側に駆け寄ってきてくれていたエリスに向かって僕は問いかけた。


「誰がそんな事を言ったの?」


「ルークさんがエリスのお母さんは永い眠りについてるって……」


「お母さん、ちょっと事情があって、一年間眠り続けて、次の一年間を普通に過ごすっていう生活を一年置きに繰り返しているだけよ。勝手に殺さないで」


「え? 何それ? そんな事ってあるの?」 


 でもルークさんめ、面白がってわざと僕に勘違いさせる言い回しをしたんだな、あの人。


 そうしている間に、エリスのお母さんは僕とエリスの側まで歩いて来ていた。


「エリス、元気そうね。お母さん安心したわ。そして、ごめんなさいね。彼氏さん。うちの人、エリスの事となると見境がなくなってしまって……」


 僕が身体を起こして、エリスのお母さんに話しかけようとしたその時……。

 身体中から力が抜けて行く感覚、意識が遠のいていく。

 魔法力を使い過ぎた反動……。


「ちょっとユウ! しっかりして! …………」


 エリスの声が微かに聞こえる中、僕はそのまま意識を失っていた。

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