第7章 決戦前のひととき

第45話 勇者と街の人々

 ミリアとルークさんを仲間に加えて6人パーティとなった僕らは、ユーホスの街へと向かい、日が沈む前にはたどり着くことができた。


 これまでに立ち寄った他の街でもそうだったように、勇者一行の噂を聞いていた街の人達が歓迎の準備をしてくれていたようなのだけれど、元魔王軍の二人が仲間に加わっていた事には驚きと戸惑いを隠せない様子だった。

 それにエリスも認識阻害の結界で誤魔化すのを諦めていたので、すぐに正体がバレてしまった。


 そんな中、街の代表の人とルークさんが二人で話をして、今日は歓迎会ではなく宿の個室で僕たちだけで食事をしながら話の続きをする事になった。


     ◆     


「ルークさん。街の人達は魔王が普通の人間の王様だって知らないんですか?」


「もちろん知っていますよ。魔王様が魔王になられてからまだ二十年しか経っていませんしね。小さな子供たちの中には本物の魔王だと信じている子も多いですが、少し大きくなれば誰でも本当の事を知って理解するものなのですよ。あなたの世界にもそういう方がいるんでしょう? サンタさんでしたっけ」


「サンタクロースと魔王は全然違うと思いますけど……。でも、それじゃあどうして僕が勇者として魔王を倒しに行くのが街の人達からあんなに歓迎されてるんですか? 自分の国の王様を倒しに行こうとしているのに」


「そうですね。楽しいからじゃないでしょうか」


「楽しいって何がですか?」


「だって異世界から来た勇者が魔王を倒しに行くんですよ。こんなに楽しいイベントは他にないでしょう!」


「イベント感覚!?」


「この国の住民たちは常にイベントに飢えているのです。イベントがあれば人も集まり、経済が回りますからね。ですので、こちら側としても4年に一度くらいの頻度で国の冒険者たちに対して魔王様自らが戦場に赴く、魔王襲来イベントなどをやったりしていたのです。去年もやる予定だったのですが、エリス様の引きこもりの件があって中止になってしまいまして。国民達も大変残念がっていたのです。そこに突然、エリス様が異世界の勇者を連れて来るなんて、これ以上ない面白いイベントが発生したんですから、それは歓迎されて当然ですよ」


「つまり僕ってイベントのキャストだと思われてたって事ですか?」


「そうですね。異世界召喚魔法が使えるのは魔王様だけですから、あなたもこちらが用意した人間だと思われていたという事です。実際、魔王様があなたを召喚したというのは事実ですしね。それにエリス様も結界魔法を張っていたとはいえ、見る者が見れば姫様だと分かったはずです。察して知らない振りをしてくれていたのだと思いますよ」


「そうだったんですか。でもイベントと言ったって、エンフィールドの街で僕らが戦ったドラゴンも演出の一部だったんですか? 街が壊されたりケガ人が出たりして大変なことになっていましたけど」


「さすがにそんな事はしませんよ。ドラゴンが街を襲った件については偶然です。いや、正確に言うと街が襲われる少し前に、ルーシアが連れて行ったスライムとあのドラゴンの間で一悶着あったようなので、全くの無関係とは言えませんが」


「一悶着!? スライムとドラゴンの間に何があったっていうんですか?」


「あのスライムは長年魔王城に住み着いているスライムでして、野生のドラゴンなど、ものともしないくらい強いのです。私も詳しくは分からないのですが、スライムがエリス様に叱られて気が立っていたところに、ドラゴンと遭遇して喧嘩になったんだと思います。そしてスライムに負けて苛々していたドラゴンが憂さ晴らしに街を襲ったと、そういう事だと推測しています」


「ドラゴンが街を襲ったのは、もとをただせば僕らのせいだったんですか……」


「いえ、勇者さんのせいではありません。悪いのはスライムを叱りつけたエリス様ですから」


「なんでよ! それだったらスラエモンを連れてきたルーシアのせいでしょう!」


「私のせいじゃありませんよぅ! スライムを連れて行くように仕向けたルーク様のせいです!」


「やれやれ。まあ一番悪いのは魔王様という事にしておきましょう」


 結局知らなかったのは僕だけだったという事か。

 勇者と言われて歓迎されて悪い気はしなかったけど、真実を知ってから思い返してみると何だか恥ずかしい。


 そうか、エリスも自分が魔族の姫ではないと知った時はこんな気持ちだったのかな。

 いや、エリスの場合は生まれた時からずっとだって話だから僕とは比較にもならないくらいショックだったんだろう。そう思った。

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