第5章 魔族の少女
第30話 飛竜に乗った少女
ボワラディ山を抜けたあと、僕らはラーハ平原と呼ばれる大平原へと臨んでいた。この平原を突き進んだその先にはユーホスの街があり、さらにその先にある山の上にそびえ立つのが魔王城だ。
山越えも大変ではあったが、平原の方も道が平坦とはいえ、歩いて渡りきるのに3日はかかるという事でなかなかに大変だ。
なにより、街に着くまでは温泉が無いというのもつらい。
こっちの世界に来てからすっかり温泉にハマってしまい、温泉なしでは生きていけない体になってしまったなと、自分でもなんだか可笑しかった。
相も変わらずピロロは元気で、ぴょこぴょこと飛び跳ねるように軽快に、どんどん先へ進んでいく。
山と違って見通しはいいので少しは安心だ。
山越えをしている時は、いつモンスターに襲われはしないかと気が気ではなかったから。
山越えをしている途中で気づいたのだが、ルーシアさんはそんな風に先に進んでしまうピロロをモンスターから守れるように、常に彼女の弓の射程内に入れておくように間合いには気を使っていたようだ。
ピロロとエリスが自由すぎるという事もあって、ルーシアさんにはいろいろと助けられていた。
出会った時は、一緒について来ると言われて、本当に大丈夫かな、と心配だったくらいだけれど、今では本当に頼れる仲間だと思っている。
平原に入って1日目の日が暮れ、交代で見張りをしながら夜を明かし、次の日も同様に、ユーホスの街に向けて平野をひたすら進む。
そして、平原での旅も3日目にさしかかってくると、先ほどまでの何も無い草ばかりの草原から、少しゴツゴツした岩が乱立するエリアへと景色が変わって来た。
それは、ユーホスの街に近づいてきた証拠だという事だった。
そんな時だった。
「みんな! 身を潜めて!」
急にエリスがそう叫び、岩陰に身を隠すように僕らを促した。
「いったいどうしたんだ? エリス?」
「しっ。静かに。上を見て」
上空に何かが飛んでいるのが見える。
あれは……。モンスター?
ドラゴンか?
前に見たドラゴンとは別のタイプだ。
翼が背中に生えているのではなく、両方の前足が翼になっている。
そのドラゴンは、何かを探しているかのように、グルグルと平原の上空を旋回していた。
「どうやらあれは飛竜みたいですね。先ほど誰かが乗っているのが見えました」
ルーシアさんが小声でつぶやく。
飛竜に誰かが乗っている?
ドラゴンライダー!?
そうか、初めて見たけど、こっちの世界にはそういうのも居るのか。
でも乗っているのは、いったい誰だ?
「敵かな? 味方かな?」
僕はエリスとルーシアさんに向かって小声で尋ねた。
「まず間違いなく敵でしょうね。ドラゴンを飼い馴らしているなんて魔王軍くらいだもの」
「魔王軍!? 何で魔王軍が!? 僕らが魔王を討伐しようとしているのが向こうにもバレているって事か!?」
確かに考えてみれば立ち寄ったいくつもの町で勇者と呼ばれ、ギルドクエストをこなしてきたから勇者の噂が魔王の耳に届いていたとしてもおかしくはない。
しかし向こうから攻めて来るとは思ってなかったので、かなり驚いた。
「きっと、捜しているのは姫様を、でしょう」
「しっ。ルーシア、静かにして」
エリスがルーシアさんに向かって声を立てないようにと促す。
そうか、エリスは魔王に滅ぼされたこの国のお姫様だ。
魔王に命を狙われていてもおかしくはない。
異世界転移をしてまで勇者を探していたのは、そういう理由もあったのか。
でもこれまでエリスの正体が町の人にはバレないように旅をしてきたつもりだったけど、どこかでバレてそれが魔王軍の耳に入ってしまったのだろうか?
「どうしよう? エリス?」
「どこかに行ってくれるまで、ここに隠れてやり過ごしましょう」
確かに、ここで見つかってしまったら厄介だ。そうするしかない、と思っていた時である。
「あれ? ピロロは? ピロロがいないぞ!?」
見ると、ピロロは岩陰から出て、あろうことか、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねながら飛竜に向かって手を振っていた。
「なにをやってるんですか!? あの子はっ!?」
ルーシアさんが叫ぶ。そうしている間に、ピロロを見つけたのか、飛竜がこちらに向かって舞い降りてきた。
僕らはピロロを守るために、岩陰から出て彼女の側へと駆け寄る。
やはり、飛竜の背中に誰かが乗っている。
燃えるような赤い髪に緋色の瞳、背中に悪魔のような羽と、尻尾のようなものをつけた小柄な美少女だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます