第11話

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 五体の悪竜ヴァルゴンが火球を吐いた。フィアナは子ユリシスで大盾を作り、宙に浮かせた。火球と衝突し、ジュッと音がして盾は消える。

 間髪入れずに七体が飛来し、とっさに鏡蝶弾ミラルガンを放つ。七体ともに命中するが、仕留められたのは一体のみだった。

(威力が弱い! 反射回数が充分に取れなかった!)

 フィアナは歯噛みした。鏡蝶弾ミラルガンは、子ユリシス間での神気ルークスの往復回数に比例して強力になる技だった。

 先頭の一体が間近に迫る。フィアナは飛翔し、空中に逃れた。

 悪竜ヴァルゴンたちは方向転換し、まっすぐに距離を詰めてくる。

 フィアナは身体を水平にした。翼を大きくテイクバックし、勢いよく振るう。

 暴風が吹き荒れた。悪竜ヴァルゴンたちは瞬時に静止し、すぐさま地面に叩きつけられた。

 すかさずフィアナは下方へ加速。同時に子ユリシスで槍を二本形成し、両手で一本ずつ握った。

 着地と同時に槍を振るった。風で地面に縫い留めた悪竜ヴァルゴン二体の頭を突き刺す。

 二体が絶命した。(もう二体ぐらいはここで潰す!)勇ましく決意し、フィアナは槍を引き抜いて近くの悪竜ヴァルゴンを見据えた。だが。

(かはっ!)背中にすさまじい熱感が生じ、フィアナは槍を取り落とした。姿勢の制御ができず、前へと倒れ込んでしまう。

 どうにか両手を突いて身体を支えた。すると視界の中心に、赤い液体が入り込んできた。自分の血だった。

(何……が)混乱しつつも背後に顔を向けた。二体の悪竜ヴァルゴンが遠めの位置におり、口からは煙が立ち上っている。いつの間にか回り込まれていて、死角から奇襲されたのだった。

 戦闘開始から十分弱が経過した。フィアナは必死に戦い十体強を倒した。しかし少なからず攻撃を食らっており、残りの敵数を考慮すると戦況は厳しかった。

(だめだ、このままじゃやられる!)危機感を抱きつつ、フィアナは立ち上がった。いまや全方位を囲まれており、逃げ場すら存在しなかった。

 悪竜ヴァルゴンたちが一斉に上を向いた。(火球!)看破したフィアナは、翼を駆動し上方に逃れようとする。

 だが、がくん。左膝が落ちてバランスを崩した。あまりにも濃い疲労のためだった。

(しまっ──)次の瞬間、悪竜ヴァルゴンたちが頭部を振った。

 フィアナは恐怖で目を瞑った。火球は倒れたフィアナに容赦なく襲い掛かり──。

 突風が吹いた。方向は下から上。あまりもの風圧に火球は軌道を変えて、四ミルトほどの高さで互いにぶつかった。

「寄ってたかって女の子を傷つけて、つくづくお前らって根性が腐ってるよな。──って化け物に文句をぶつけてもどうしようもないか」

 怒りと真剣さを滲ませた男の声がした。はっとしてフィアナは顔を上げた。ユウリだった。士官学校の制服を着て、泰然と立っている。

「ユウリ! 助かったわ! でもどうしてここが?」

 フィアナは思わず叫んだ。

「妹のルカに神託があったんだ。『悪竜ヴァルゴンが内部に入り込んでる』ってさ。ルミラルの言葉はそこまでだったんだけど、終わった後にルカに詳細を聞いたら、『町外れの丘に危険なイメージが見えた』ってことだった。そんで慌てて駆けつけたって流れだよ」

 元気づけるような口振りだった。安心しろとでも言いたげな鷹揚な笑みに、フィアナも穏やかに微笑み返す。

「こっから先は俺が相手だ! 十体でも二十体でもかかってこいよ! 瞬殺して、聖都の土の養分にしてやる!」

 野性味のある様にユウリは吠えた。ユウリの剣幕にひるんだのか、悪竜ヴァルゴンたちは微動だにしない。

「待ってユウリ! 私も戦う! 私はまだやれるよ!」

 ユウリをきっと見据えて、フィアナはきっぱりと意思表示した。

「いや、いいよ。休んでろって。そんなぼろぼろの女の子を戦わせたら、護人ディフェンシアの名折れだ」

 ユウリから毅然とした語調の返答が来た。

「男とか女とか関係ない! 二人のほうが勝率が上がる! 私は、私に良くしてくれる人を一人で戦わせたくないの!」

 負けじとフィアナは声を張り、ユウリへの視線をいっそう強くする。

 するとユウリは納得したような顔になった。

「わかったよ。それじゃあ背中はお前に預ける。必ず生きて帰るぞ!」

 ユウリが爽快に言い放つと、悪竜ヴァルゴンの一体がユウリに躍りかかった。

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