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 タカヒサは、机の中からモバイル端末機を引っ張り出し、デスク上でクルリとひっくり返した。そして裏面のカバーを取り外すと、そこにはタバコの箱ほどの空間が現れた。次いでデスク横に移動して、壁に埋め込まれたテンキーから暗証番号を入力すると、その一部が音も無く開き、内部の複雑な電子回路が顔を覗かせた。タカヒサが中に腕を突っ込みゴソゴソとやると、回路の一部が取り外された。それは、メインCPUボード・ユニットである。それを先程のモバイル裏のスペースに装着すると、再びカバーが閉じられた。これでPUZの移植が完了した。タカヒサがモバイルの電源を入れると、程なくしてPUZが現れた。

 「やはり私を地球に連れて行ってくれるのですね、タカヒサ?」

 「新規にインストールしてもいいんだが、一台分のライセンスしか持ってないもんでね。それに、俺に関する情報を学習している奴の方が、何かと都合がいいだろ?」

 プログラム相手に変な話だが、タカヒサはこのPUZに友情を感じていた。PUZという商品にではなく、この部屋を管理している、シリアル№1654―KK3P―BI50のPUZにである。そんなタカヒサの気持ちを知ってか知らずか、PUZは事務的に言った。

 「モバイルの電力残量が残り少なくなっています。燃料電池の水素ガスカートリッジを交換して下さい」

 「言われなくたって、判ってるよ!」

 「それからこの部屋は、今は私の管理下にはありません。戸締りなど、ご自身で対処願います」

 タカヒサは呆れ顔で言った。

 「やっぱり、お前を連れて行くのは止めようかなぁ・・・」

 「私を置いて行くと後悔しますよ、きっと」

 「ったく、お前はクールなのかホットなのか判らないよ」

 機械の中でPUZがニヤリとしたようにも感じたが、タカヒサは首を振りながらモバイルをシャットダウンした。そしてモランの55リットルのザックにそれを仕舞い込むと、「ヨイショッ」と背負い、ヨロヨロとドアに向かった。「若い頃はもっと重い荷物を背負って、あちこち歩いたものなのになぁ」と、タカヒサは自分の年齢を思い出していた。

 最後に中を覗いてみると、PUZの管制下を離れた部屋は真っ暗で、そこには人の営みが微塵も感じられなかった。PUZが居ないだけで、なんて寒々しい風景になってしまうのだろう。彼はブルッと身震いして、ドアに鍵をかけた。

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