十四話・十五話

 十四


 小学二年生の頃、私は図工の授業でクレヨンを使って絵を描き、それが市の賞で金賞をとって月曜初めの全校朝礼で表彰された。確か恐竜と人間が戯れている異常な絵だったと思う。私は幼少期の落書きを抜きにして、このようにチャンと絵を描いたのは初めての事だった。

「父ちゃん、ケンジやっぱ天才やわぁ」

「どないしたん」

「ケンジなぁ、小学校の絵の大会で賞とってん。凄ない? めっちゃ凄いわぁ」

「へぇ凄いなぁ。ケンジは絵の才能もあるんか。ほな将来は芸術家かプロ野球選手やなぁ」

「ほんになあ」

 私はこの時、父親がプロ野球選手の方になって欲しいことを感覚的に悟っていた。私は生涯、何かで賞を取ったり、個人で一番に輝いたりするのはこれが最初で最後であった。


 十五


 もうすぐ十七歳になろうとしているリーダーは、私の唯一の友とも言える存在であった。今日も一緒に大蔵海岸周辺から朝霧駅にかけて散歩をしていたのだが、リーダーは浮かない顔をしていた。

「まあ悪いのは浮気した彼女やねんから、な」

 私は出来るだけリーダーを傷つけまいと、慎重に言葉を選んでいた。リーダーには二年も付き合っている彼女がいた。が、今はいない。

「いや思ってるより結構メンタルきついで……」

 リーダーは頬を引きつらせながら背中を丸めていた。

「せやけどなんで浮気なんかしたんやろか」

「知らん……けど前々からあいつ、なんか怪しかってんよな」

「そうなん?」

「なんか他の男のチンコ欲しそうな顔はしとった」

 私は大いに笑った。愉快なり、愉快なりと。

「どんな顔やねん。逆に一回その顔見てみたいわ」

「いやほんま、しょっちゅう見かけてたで俺。ケンジない? ほんまに? なんか上の空っていうんかな……なんて言えばえんやろ。ああ、チンコ欲しいなぁ……みたいな。ほんで俺も横からその顔見ながらああ、こいつ今他人のチンコ欲しがってんはんなあ、みたいな」

「そんなんないやろ」

 私はニヤニヤと言い返す。

「あるある。こーさ、チンコチンコって感じの顔」

「聞いたこともないし見たこともないわ」

「ほんまに、俺だけ? 可笑しいなあ。チンコチンコー」

 近くを通っていた老女二人組が喜色満面の笑みを恥ずかしそうに両手で隠そうとしている。今日も平和だ。

「やっぱ女ってそんなチンコ好きなんかなあ」

「チンコもうええって」

 リーダーも愉快に笑った。だが少し歩いているとまた考え込むように真顔になっていた。

 リーダーとは小学生の時から同じだったが、互いを認識したのは、中学二年の頃からだった。リーダーの第一印象は、典型的なサッカー少年のような髪の長さで、サラサラで、フォワードかミッドフィールダーにいそうな感じだった。実は本当にサッカー部で、実はゴールキーパーをしていたリーダーは、どちらかというと内向的な性格で自分の意見をあまり言う印象がなかった。だから私は彼をリーダーと名付けた。

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