第66話 理解。
二人に邪魔するなと言われてしまった俺は静観を決め込む事にした。そのままベンチに座り、すずちゃんと美柑の様子を見る。
すずちゃんは何故、美柑が怒っているのか分かっていないらしく、美柑もすずちゃんが何故、俺の彼女になったのか理解ができていないらしい。
「で、お兄ちゃんがあなたと付き合う事になったのは何故ですか?」
「ふぇっ……………!?」
すずちゃんは顔を真っ赤に染めて両手で頬を覆い隠して照れている。
恐らくは『付き合う』という言葉のみに反応したのだろう。
「………ムッかつく……!」
「え!?あ、あの、私は海斗さんに色々と助けていただいて、次第に海斗さんに心を惹かれていく様になりました……!」
「あなた、天然ドジですものね……。」
「海斗さんは、とても優しくて、気が利いて、紳士的な方です。」
すずちゃんは真面目な顔をして美柑を見つめ、そう語る。
「残念だけれど、私はお兄ちゃんの相手は、幼馴染みの浜辺さんしかいないと考えているの。その方以外に認める気はございません。」
美柑はきっぱりとそう言い放つとすずちゃんに背を向け、最後に一言だけこう言った。
「あなたみたいなウジウジした人大嫌いだけれど、今回のあなたの行動で芯はしっかりしていると感じたわ。」
美柑はそう言い残し、去っていく。
俺は小姑かよと思いつつ、美柑を見送る。
まあ、彼女は彼女なりに心配してくれていたんだろう。 ブラコン気質なのは昔から変わらないな。
美柑が立ち去った後、糸が切れた様に、すずちゃんはヘナヘナとその場に座り込んでしまう。
「こ、怖かったですぅ………!!」
涙混じりの瞳でこちらを見てくるすずちゃんは、どうやら立ち上がる事も出来ないぐらいに怖かったらしい。
ーーさすがにやりすぎだぞ、美柑。
俺は腰が抜けたすずちゃんをそのままおんぶし、自宅まで送って行くことにした。
「お、重くないですか…………?」
「い、いや重くないっていうか、柔らかい……。」
「柔かっ…………………。」
そのまますずちゃんは黙り込んでしまう。
静寂に包まれた夜道を、すずちゃんを背負って歩く。
コツコツと靴の音だけが夜空に響く。
いつまでもこんな時間が続けばと思う俺だった。
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