第65話 睨み合い。

「遅いからお兄ちゃん探しに来たのに、何ですずちゃんと抱き合ってるの……!?」

妹はたまたま公園の近くのスーパーに買い出しに来ていたようだ。

ズンズンと公園の中を歩いてくると、俺に歩み寄ってくる。


「お兄様、いいえ海斗さんは悪くありません、全て私が悪いんです!」

すずちゃんは庇うように、俺の前に立ちはだかる。

「海斗さん?」

ピクリと美柑の眉が動く。

「すずちゃん、前はお兄ちゃんのこと、海斗先輩って呼んでたよね?いつからさん付けになったの?」

美柑とすずちゃんが、至近距離でバチバチと睨み合っている。

でもこれは傍から見たら、トラとハムスターの闘いの様だ。


「待て美柑!これは俺とすずちゃんが話し合って決めたことなんだ!」

「だから何を決めたっていうのよ!?」


「俺とすずちゃんが付き合うって話だよ!!」

「……………そう、そう言う事ね。」

そう言ってしばらくの後、美柑はそのままトボトボと家に帰っていた。


「海斗……さん。大丈夫でしょうか……。美柑さんが心配です。」

すずちゃんがおずおずと声をかけてくる。

しかしこういうパターンの時の美柑の事はよく知っている。


ーーーーーーーーーー。


「待たせたわね!続き、始めましょうか!」

そう、買った食材や日用品を片付けて、冷蔵庫に仕舞ってきていただけなんだ。

「え…………?あ、あの………!み、美柑さんと闘う理由なんてどこにも……!」

その言葉に美柑はカチンときたようで、握った手をプルプルと震わせながら、すずちゃんをキッと睨みつける。


「はぁ!?なるほどね、それがお付き合いを始めた人の余裕って事かしら!?」

「美柑、いい加減にしないか!」

「お兄ちゃん『海斗さん』は黙っていて『下さい』!!」

美柑とすずちゃんが、二人同時に怒りを俺にぶつけてくる。

もうこうなってしまってはどうする事も出来ないのだろう。

俺は仕方無くしばらく様子を見る事にした。

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