第2話

ヴィオレはシーニーからもらった名刺の住所をリングのマップ機能に落とし込んだ。

それを頼りに一行はブラウ漁港組合へ向かった。


目的地に着くと、ローゼオ港の中で1番老舗で想像よりずっと小さな事務所がそこにあった。


「ねぇ、ヴィオレさん…?ここに来て何をするの…?」


「あら察しが悪いわね、ここの漁船の使用許可を得てネグロ火山まで向かうつもりよ」


という事はもしやまたこの人達の運転の必要が…とロートは恐怖を感じ始めた。

ブラウ漁港組合の事務所前にて玄関チャイムを鳴らした後、受付らしき人物がドアを開けた。


「失礼いたします。私たち、報道関連の者です。ローゼオ港一老舗のお宅に取材の協力をお願いしたい所存でして…」


ヴィオレはアドリブで嘘をつき始めた。

自分たちの目的は極秘であり、手で「合わせて」といった合図をこっそり一行にも示した。


「ガッハッハ!!ワシはカメラマンじゃ!!」


「あ!ボクがディレクターです!!」


「え!?じゃあ俺がタレント!!」


ヴィオレは少し苦笑い浮かべながらも営業スマイルで受付人に愛想よく嘘の事情を説明した。

受付人は怪しながらも理事長の所まで案内してくれた。


「ブラウ漁港組合」。規模は小さいものの独自の漁猟スタイルを築き、この競争社会で生き残っていた。

そんな組合の理事長はその社名の通り、ブラウという男だった。

見た目はカルコスと同じような筋肉質なガタイに厳つい顔、しかし違うところと言えば歳を重ねるせいか、とても頑固である。


一行が応接室まで来て着席し、ヴィオレは嘘が下手な男達にはとりあえず真剣な顔をしながら黙って聞いていれば良いとだけ伝えた。

少し時間が経ち、理事長がやってきた。


「あぁ!?マスコミさんがうちになんのようだ!?」


ブラウは扉を開けた途端、ヤクザばりの怒気を強めた挨拶をした。


「突然の訪問大変失礼いたしました。まず結論から申しますと、御組合の漁船をお借りしたくここまで参りました」


しかしここは冷静に丁寧な口調でヴィオレはここは正直に話した。


「はぁ!?なんでお前らに船を貸さなきゃいけないんだよ!!」


「不躾な要求をしてしまい、申し訳ございません。私たち、ネグロ火山という場にて研究を中心に行っておりまして」


「研究の中でネグロ火山には、まだ世界で未発見の鉱石の存在を確認いたしました。その為、極秘でその場の採掘を行う所存でございます」


「その鉱石をまだ世間で知られていない状態で学会へ提出することで多くの報酬を得ることができます」


「協力いただければ御組合に報酬の7割を与えたいと考えております」


つまり金の話だ。ブラウ漁港組合は生き残っているものの活動するには金銭的にギリギリの状況である。そこをヴィオレは巧く突いてきた。


「ほう…」


先ほどまで威圧的であったブラウも真剣に話を聞き、ニタリと口角を上げた。


「先ほどはマスコミとの虚偽、申し訳ございませんでした。こちらに関しては極秘情報の為、御組合責任者のブラウ様のみお伝えしたかった為です」


受付でのやり取りの裏付けも説明し、ヴィオレは止めを刺した。


「それだけではありません。学会への報告、そしてメディア公開まで上手くいきましたら、メディアには協力してくれた御組合も紹介いたします」


メディアで注目を受けた際にブラウの名を出す事で組合自体も賞賛の的である。

そうする事で組合への規模も広がり、今後の活動に対しても活気が生まれる。

ブラウ漁港組合としては、とても都合の良い話が舞い込んできたと言う訳である。


まぁ全て嘘だが。


「まぁ、お宅さんの目的は把握した。ウチとしても経営が危ない状態だから是非とも協力したい」


ヴィオレが心の中で勝利を確信した。

が…


「もちろん、こんな都合の良い話には罠があるとも思うわけだ。だから船を貸すには前金を出してもらおう」


やはりそうきたかと条件の提示にもある程度覚悟はしていた。


「かしこまりました。それではその金額を提示していただけないでしょうか」


「そうだな。これはもう決まっている3億coinだ」


3億coin、この世界では通貨単位をコインと表記している。3億coinという値段は大都市でも一軒家を買える値段。船で言うなら新品一隻買える値段である。


「さ、3億coinですか…?」


「そうだ、これに関してはそれ以下に負けることはできないな。その代わり報酬に関しては5割でいいだろう」


前金として、十分経営が持続できる料金を支払ってくれればトンズラされても問題ないと思い、この金額を提示したのだろう。

しかし、ヴィオレの持ち金はおよそ5千万、ロートの持ち金はルージュから送られた2億となっている。

そのため、残り5千万足りない。


「かしこまりました…。この件関しましては、検討次第後ほど伺わせていただきます…」


「そうだな、じゃあいい返事待ってるぜ」



事務所から出た一行は考えた。


「ガッハッハ!!つまり金が足りないって訳か!ならば労働だろう!!働いて金を増やす!!」


「おいおい、カルコス。そんなことしてたらいつまで経っても先に進めねぇぞ!こうなったら盗むしか…!」


「犯罪はダメだよ!ボクらは人達を救おうとしてるんだから…。他の人たちにあたるのはどうかな?」


彼らなり考えたが、なかなか突破口が開かない。

ロートの言う他にあたると言うのはイタチごっこにもなりかねないし、極秘情報の漏洩リスクもある…。

そんな中、ネロが口にした。


「あーあ、シーニーはネグロ火山に行きたいって言ってたのにな」


「!それね!確認したところ、ブラウの娘はシーニー。こうなったら情に訴えかけるのはどうかしら」


「そうか!!ならばとりあえずそのシーニーという娘を捜索しなければな!!」


一刻を争う一行は事務所で待機するのではなく、シーニー捜索のため、ローゼオ港を探索する事にした。


「ネロと同い年くらいであるのならば、学生である可能性は高いわね。学校を見回るのはどうかしら」


「いや、シーニーは学校とかいう学舎には行ってないらしいぜ。『シィの将来はこんなことしてる場合じゃない』ってな」


「なんて不良娘…」


「ンヌ?そういえばヴィオレは何歳なんだ?あんなにかしこそうだからなかなかの年齢いってるんじゃないか!?」


カルコスはデリカシーのない発言をしながら聞いた。


「失礼ね、私はまだ25よ」


「なんと!?ガッハッハ!!まさかワシより若いとはな!!ワシなんかまだ35だぞ!?」


いや見た目通りでしょ…と心の中でヴィオレは思いつつ、一行はシーニーが居ると思われる釣り堀付近に向かうことにした。


「ここら辺に居そうだと思うんだけどな…。ん?」


なにやら防波堤付近が騒がしい事に気が付く。

すると、そこには灰色の髪をした青年が悪に染まったような笑い声をあげていた。

彼の前には土下座をしていた中年の男とその背後にはその男の友人らしき男もいた。


「ナッハッハ!おっさん!この賭けに乗って負けたら『金がない』だって?ハッハッハ!!」


「すみません…すみません…、もう私には支払えないです…」


男は泣きながら懇願していた。

すると青年は笑いを止め、ゴミを見るような目で見下した。


「じゃあ死ね」


青年は男を軽く蹴ると、コンクリートブロック側まで吹っ飛ばされていった。

友人らしき男はハッと気付き、飛ばされた男の方へ助けに向かっていった。


ネロは見ていられず青年に声をかけた。


「おい!!お前!!なんだか分からねえがやり過ぎじゃねぇか!!」


「あ?」


青年はまた見下した目で一行を見たが、少し笑みを浮かべこう続けた。


「いやいやお兄さん達、オレはあのオッサンに生きるチャンスを分け与えただけだ。そう1億を賭けた戦いをね」


1億。

その金額を聞いてヴィオレはニヤリとした。


「ねぇその話、興味あるわ。その賭けた戦い。私たちにも参加させてくれないかしら?」


「お!お姉さん、勝負師だねぇ!いいよ!是非ともやろう!!」


(おい、ヴィオレ!!なに勝手に乗ろうしようとしてんだよ!!)


ネロはヴィオレに近付いて小声でツッコんだ。

しかしヴィオレは、


(私は常に行動するには二手先を読むのよ)


とだけ伝えた。どうやら勝算はあるようだ。

それなら誰も止められない。



灰色の無造作ヘアの青年。

しかし、リングを腕に身に付けていない。


一行はそんなシンザという謎の青年に金銭を賭けたゲームを挑む事にした。

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