第3話
ローゼオ港、時刻は21時。
冬の季節であるが、気温は22度前後と都市と比べ少し暖かい。
そう言った暖かい気候もあってリゾート観光地としては打って付けだ。
そんなリゾート地にあるホテルにて、青髪の少女とネロは出会った。
(うわ、まずった。この世界の常識としては気軽く見知らねー奴には声かけちゃいけないんだった)
ネロは都市の文化や常識は一通りヴィオレに教わり、自身の素が出てしまった事に少し後悔した。
「??君はシィと一回会ったことあったっけ?」
?しぃって誰だ?、一人称が自分の名を使う人間に会ったことなかったネロだが、この場面はとりあえず自己紹介する場面だと気付いた。
「あぁ、すまん!俺の名前はネロって言うんだ。ブランコ村からカエルレウムっていうところで経由しながらここまで来たんだ」
「それでこの街に来た時、お前が変なの出しながら釣りしてる所を見て、つい…」
「むー。変なのじゃないよ!タロー、ジロー、サブローって言うんだけど!!」
ネロはよく分からずポカンとしていた。
それを見た少女は青色のリングを顔の前に出し言った。
『コード0401:ペンギンさん達集合』!!
すると青色のリングから吹き出し口が現れ、そこから三つの玉が飛び出た。
三つの玉が床に着地すると、ボフンと少量の煙をあげ、玉から3匹のペンギンが現れた。
「うわっ!なんだこれ!?」
「ふふーん!これがタロー、ジロー、サブローだよ!」
一見すると全く違いが分からない3匹のペンギンだが、少女には分かっていたようだ。
「あ!そうだ!!まだ、シィの自己紹介まだだったね!シィの名前はシーニーって言うんだよ!このローゼオ港町の漁業やってる家に住んでるんだよ!」
見知らぬ人に具体的な住居まで言ってしまう警戒心のなさに少しネロは安心してしまった。
「そうか!だから夜に釣りをやってのか!」
「そうなんだよ!お父さんはまだシィには大物を釣れる事はできないっていうんだけど、いつかこの子達と力を合わせて見返してやるんだ!」
見た目の割には少し幼い感じもしたが、常に屈託のない笑顔で話すシーニーにネロは共感性を感じていた。
「おお!!釣れたら俺らに食わせてくれよ!!」
魚=食に思考転換してしまうネロは思った事を口にしたが、シーニーは微妙な顔をした。
「食わないよー!釣れたらシィちゃんねるに動画アップしたり、ミンスタに画像アップしたりしてその後返してあげるんだよ!」
初めて聞いた単語にハテナしか浮かばないネロだが、それに察したシーニーは早速行動で伝えようとした。
シーニーが手にしたのは羽虫のような小型カメラ、これを数個飛ばし始めた。
するとシーニーやネロの周りへ小型カメラは舞った。
「なんだこの虫!?」
「虫じゃないよー!ほら見て!!」
シーニーはリングのホログラムを大型表示にして、ネロにも見えるようにした。
するとそこには2人の様々な画角の映像が映されていた。
「うわうわ!すげぇ!!俺らが映ってる!!」
「…、後なんだこれ?隣に色んな文字が出てくるぞ?」
ホログラム画面の表示はさながら動画サイトのライブ配信であった。
もちろん、配信画面のその横には全世界の人間のコメントが流れていた。
「ヤッホー!!みんなこんな時間だけど、面白い人がいたから、しぃちゃんねる、急遽ライブ配信しちゃいまーす!!」
ーーーーーーーー
木の葉の隠者:キターーー!!
しぃちゃん命:しぃ待ってたよ
青猫129.3:なんか変な男いない?
あのてるくん:しぃーーー!!
紅蓮肉達磨:今日は夜配信か!
しぃの熱狂ファン:え、彼氏??
ーーーーーーーー
「違うよー!みんな!この人、シィ達の知らない所から来た人なんだよ!!」
「え!?なんだ!?ちょっ!!えっ!?」
ネロは動揺を隠しきれない様子だ。
チャット欄には強烈なハンドルネームの羅列、コメント流れの勢い、全てに驚きが隠せなかった。
田舎者かよ そんなに期待できるの? など辛辣なコメントも流れる中、シーニーはフォローしつつ発言した。
「この人はねー、リングもしてないけど。なんと!あのアルコバレーノのアズラクさんのクローン人間なんです!!」
(!?)
滅茶苦茶な嘘をついた。
場を盛り上げる為にこの世界での有名人のコピー人間だと言う嘘をついたのだ。
流石にそんなトンデモな話を間に受ける訳もないだろうとネロはチャットを見ると、
ーーーーーーーー
未確認飛行少女:タロー達可愛い
あほ:すげぇ本物そっくりじゃん
しぃちゃん命:しぃちゃんとうとう有名人と…
シーニー特別部隊:目元が似てる
8000年後に来た人:草
ーーーーーーーー
なんだかよく分からないが、なんか信じてる…とネロはちょっと引いてしまっていた。
「じゃあ今日はそれだけの報告でしたー!アーカイブに残すからみんなクイッターで拡散してよー?」
それだけ言うと、何やらチャット欄でクロージングコールが流れ始めた。
ーーーーーーーー
あほ:しぃちゃんのーーー!!
コールマン:しぃちゃんのーーー!!
紅蓮肉達磨:笑顔はーーー!!
しぃちゃん命:しぃちゃんのーーー!!
最後だけ来る:笑顔はーーー!!
ーーーーーーーー
「セカイイチィー!!」
シーニーがそのコールに答え、元気よくポージングした。
「じゃあみんなまたねー!次もまた不定期にライブあげちゃうかもね!」
そう言ってシーニーはライブ配信を止めた。
ネロはついていけずポカンとしていたが、疑問をぶつけた。
「俺ってそのアズラクっていう有名人に似てるのか!?」
「?全然」
「いや全然かいっ」
ネロは芸人ばりにずっこけた。
シーニーも悪びれもなく笑顔でこう言った。
「加工だよ♪加工!画面の向こう側の人達にはネロくんの顔が全然違うイケメンに見えるんだよ!」
「…なんだよく分からねぇが、嘘はよくないんじゃないか?」
「嘘じゃないよ!パフォーマンスだよ!シィは世界の人達に楽しさと驚きを届けるんだ!!」
物は言い様だなと思いつつも、シーニーはネロについて聞き始めた。
「そういえばネロくんはなんでその村からここまで来たの?」
「あぁ!それはみんなを救うのにネグロ火山って所にいる「ガルセク」って奴をぶっ倒す為だ!!」
極秘の作戦ということを忘れ、ネロは正直に答えた。
「へぇー!!何それ面白そう!!シィも行ってみたい!!」
2人で変なテンションになり、夜更けになるまでお互いの事について話し続けた。
いつの間にかネロはそのままロビーで寝てしまい、気付いた時には朝日が登っていた。
そして、シーニーもいなくなっていた。
ネロの手元に何か書かれている紙だけを残して。
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