第2話
「ネロがいない!!!」
朝から宿舎はロートの声で騒がしかった。
「カルコスさん!!ネロがいない!!」
「ヴィオレさん!!ネロがいない!!」
まだ寝ていたそれぞれ2人の部屋に慌てて入り、2人をロビーへ呼び起こした。
「…ヌゥ、なんだロート…ネロがいないって…?ヌヌ!?なんだと!!ウオォオ!探さねばぁ!!」
カルコスも目が覚め、大声で宿舎内を探し始めた。
まるで、兄離れできない弟と子離れできない父親のようである。
朝から騒がしい状態で寝起きのヴィオレはイライラしていた。
「やかましい!!あいつなら夜に外へ出たわよ!!」
「え…?」
ロートは青ざめた顔で言った。
「ダメだよ…、ネロは重度の方向音痴だよ…。ネロが1人でどっかに行かせたら元の場所に戻って来ないんだから…」
「そんな事言っても50mちょっとの目的地だし、地図も渡したんだし…」
ヴィオレ苦笑いしながら答えた。
「ダメだよ!ネロはそんな難しいの読めないよ!!とりあえず分からないと前に進むだけなんだから!!」
ナチュラルに馬鹿にしてる…とヴィオレは感じだが、すぐにホログラムのマップを皆に見せるように表示した。
「安心なさい。そんな事もあろうかと思って渡した地図にも鍵にもGPS仕込んでおいたから」
カルコスは宿舎内を探すのは止め、ヴィオレの表示したマップを見た。
「ウオォ!さすがはヴィオレ!なんだかよく分からんが抜け目ないな!!」
「ふふん、まぁね。事に行動するには二手先を読んでおかないとね。さて、これであいつの位置情報はと…」
得意げにヴィオレはマップの機能をいじった。
すると宿舎から地下方向とは真逆の5km離れた都市部で黒い点がうろちょろしていた。
(…昨日あんなにカッコつけていたからこそ、より馬鹿に見える)
ヴィオレは頭を抱えながら思った。
「ヴィオレさん!!これがネロなの!?じゃあ早く行かなきゃっ!!」
ロートがすぐに宿舎から出ようとしたが、ヴィオレは服を引っ張って引き止めた。
「ちょっと落ち着きなさい、まだそんなに離れてない事が分かったから私たちは固まって探しに行きましょう」
落ち着きのないロートをよそに冷静にヴィオレは準備を行い、3人はネロを探しに都市部へと向かった。
道中、カルコスは都市の周りの人々を見て言った。
「そういやこの街に入ると宿にいた婆ちゃんみたいな年寄りは全然いないな!」
「…これも政策で60を超えた高齢者は強制的に死なせる制度があるから、高齢の人はほぼこの都市にはいないわ」
この都市には労働力が衰える年齢に達せばもう用済みという考えを持っている。
そのため、最期には勧んで高齢者は安楽死施設へ向かい生涯を閉じていく。
「ンア!?じゃあなんであの婆ちゃんは生きてるんだ!?」
「シッ、あんまり大きな声を出さないで。…やっぱり世にはそんな死に向かいたくない人もいっぱいいるの。お婆ちゃんもその1人、政府に隠れて生きているの」
そう、こんな政策はあるものの例外はある。
政府に隠れ、世間から姿を隠しこっそり生きている者。
そして、政府に認められるほどの功労を成した者や重役を担う者。
前者は自身の子どもたちに支えながら生きているが、後者は堂々と世間で生きている。
全ては都市の発展の為、どんな手段で人々を苦しめても発展を優先する、ここは超効率的社会である。
「ンヌゥ、なんだか便利な都市ではあるが生きづらい場所だのぅ…。ワシならやっぱり村暮らしでのびのび生きとる方がいいぞ!!」
一行が歩きながら話していると、後方から何やら声が聞こえてきた。
走っているような様子もあり、次第にこちらに近付いてる様子も感じた。
「…え?」
3人が後ろを向いた瞬間、ロートが黒髪の頭がボサボサの女に抱き抱えられ攫われていった。
にゃはは…という奇妙な鳴き声を出しながら。
「ンオッ!?なんだあの女は!?よし!!今から助けるぞロートォ!!」
カルコスが追いかけようとしたら、ヴィオレが制止した。
「待って、おそらく相手は私の知り合いよ。カルコスはこのタブレットで引き続きネロの捜索を頼むわ。私があいつを追いかける」
そう言ってヴィオレはマップ機能のみのタブレットをカルコスに渡し、走って先ほどの女を追いかけて行った。
「ちょ!ちょっと待て!!ヴィオレ!!ワシはこんな機械のやり方分からんぞ!?」
「それはセンスで頑張って!!」
最後にヴィオレはそう言って姿は見えなくなった。
「…センスってなんだ?」
カルコスはぽつんと街に取り残されていった。
ヴィオレが追いかけた先は都市部内少し先、
鉄パイプで張り巡らせ床は金網の廃工場跡地であった。
そこにはイスに縛られ口をテープで塞がれたロートとジャージに白衣を着させたズボラそうなネコ目の女がヴィオレを待っていた。
「…やっぱりあなたね、今度どういう邪魔をするの、メラン。」
「にゃ!ヴィオレ先輩がいなくなってから研究部は大変だから探しに来たんですよ!」
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