第4話

ブランコ村は一年中暑い気候の村だ。

この村には雪など降った事はない。

しかし、突然大雪がブランコ村を飲み込んでいた。


「なんだよ…コレ…」


愕然とし虚ろな目をしているネロだが、ロートは彼の服の袖を引っ張りこう言った。


「ネロ!今は早く村の様子を見に行こう、みんなを助けよう」


ネロはロートの言葉に気付き、2人は村へ急いだ。

少し冷静になったネロはこう言った。


「なぁロート、もしかするとこれはホントにあのおっさんがやったことかもしれねぇ、自然が起こした事とは思えない」


「だからいざという時は容赦するな、そして今は奴に見つからないように二手に分かれて隠れながら皆を探そう」


普段は元気なネロだが、危険な時と認識するととても冷静な行動を取る。

それを知ってるロートはネロの言う通りにした。


村に着き、家があった場所は特に大雪が積もっていて認識ができる。

ネロとロートはそれぞれ家裏に隠れ、村からの死角に立った。


その時、ロートの位置には積もった雪の中に小さな穴を見つけた。

すると、その穴の中からかすかなささやき声が聞こえた。


(…ロート少年か。すまない、俺だ、ルージュだ。)


(!!ルージュさん!?)


(冷静に、そして音を立てずに聞いてくれ)


(今から俺とロート少年を隔ててる雪を溶かす、多分その力を使ったら俺はもう死ぬだろう…)


突拍子もない発言にロートは驚いたが、すぐに口を塞ぎ音を立てないようにした。


(へへ…おじさん怪我しちゃってさ、大量に血を流しちゃってるからもう長くないんだわ…)


ロートを安心させるようにまた陽気な口調に変わり話を続けた。


(おじさんが死んじゃったらさ、このリング。ロートに渡す…!)


(身に付けたらすぐにこの村から離れてカエルレウムって都市に向かってくれ)


(それでよぉ…、上手いこと平和に暮らしてくれ。ネロ少年とさ…)


ルージュの話を聞いて、ロートはこう返した。


(…ルージュさん、これは誰がやったの…?)


「ちょっと待ってな…『コード0647:サーモス』…」


それを聞くとルージュはようやく2人の隔たる雪を溶かしていった。

そして、彼らの視界は広がっていった。


ロートからの視界では、ルージュの腹部に何か刺された跡がある。

その傷を抑え、血だらけの状態だった。


ルージュからの視界では、不安そうなロートの姿を徐々に確認していった。


が、ロートの背後には真っ白な女が立っていた。


「ロート!!こっちに来い!!」


ルージュは叫んだ。


ロートは後ろを確認する前にルージュの胸に飛び込んだ。

すると、すぐさまにロートを抱き抱え隠すように庇い、ルージュは女に背を向けた。


真っ白な女は白いリングを付けていた。

以前、ルージュが言った能力者であるリングだ。


『コード0134:アイシクル』


女はそう言って、氷柱を空中にいくつも召喚し、次々とルージュの背中に氷柱が刺さっていった。


氷柱の刺す音。

雪が舞う音

そして、女の怒りの混じった声。

音が混ざりあい、ロートは恐怖で状況分からなかった。

しかし、その中で低いルージュの力弱った涙声だけが聞こえた。


「…ホントよぉ、俺はみんなに迷惑かけて…ばっかりだったよ…。ごめんな…」


最期に涙を流しながら力強くこう言った。


「ロート…!お前にしか…できない…頑張れ…!」


抱き抱えていた腕は力を失くし、赤色だった髪の毛は金色に変わっていく。

そして、腕からリングが外れる音が聞こえた。



「おい!ロート!…!?なんだこの女は!?」


大きな物音に気付いたのか、ネロはすぐさまロートのいた場所に着いた。

そこで目にしたのは、金髪のルージュが何かを抱き抱えている姿、白いリングを着けている真っ白な女の姿だった。


女はネロの存在を気付き、また氷柱を召喚しネロに放とうした。

しかしその瞬間。


「うわぁぁあッッッ!!!」


女の背中に飛び付き、腕を押さえ込もうとした小さな男の子がいた。

それは、赤色の髪に変わったロートだった。


女は体勢を崩し、ロートを振り払おうとしたが、目の前のネロが木刀を勢いよく女の腹部に刺した。


「すぐに分かった…!!お前がこの村を…おっさんをこんな目にあわせたんだろ…!!」


真っ白だった女は腹部だけ血で赤く染まり、そして少しだけ口角を上げて微笑んだ。

恐れを感じたのか、ネロは木刀を離した。


直後、女は雪上に手を当てた。


『コード0167:雪霧(ゆきぎり)』


いきなり村全体に下から雪ぼこりが舞い、あっという間にネロとロートの視界は失った。


「おい!ロート!無事か!!」


「ネ、ネロ!」


しばらくすると雪ぼこりはなくなり、彼らの目の前には女の姿はなかった。

ただ、ネロの視界には赤色の髪をしたロート。

そして、うつ伏せで倒れているルージュだけが映った。

ネロは力が抜け、雪上に膝を落とし込んだ。


「なんだよこれ…!!なんなんだ!!何が起こってるんだよッッ!!」



この場所はブランコ村だった場所。

今や村だった跡形もなく雪で全て隠れてしまっている。

生き残った少年たちの物語が今動き始めた。

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