秋霜、我龍転生
春嵐
秋霜
なんか最近。
「おお。わしが載っとる」
隣の席の女子生徒がおかしい。
「見てこれ。わし。写っとるよ」
歴史の教科書。
坂本龍馬のページ。
「うん。坂本龍馬だね、これは」
「うれしいのう」
先生が困った顔でこちらを見ている。
僕のほうを見ないでください。僕はなにもしてないです。
「ね、龍ちゃん。もうすこし静かに。静かにしていようよ」
「お。おお。すまんすまん。授業中じゃった」
隣の席の女子生徒。
おとなしくなる。
ノートに何か、書いてる。
先生。にこやかにこちらを見る。あっ。そんなべつに。僕の手柄とかじゃないです。
歴史の授業は、その後滞りもなく終わった。
先生に呼ばれる。
「すまんなあ。あの子の隣にしてしまって」
「いえいえ。歴史は得意分野なので、授業を聞かなくても多少は」
「また、頼むよ」
あの子。龍ちゃんは、歴史の授業の時だけテンションが高い。
席に戻ると、隣で何やら、にやにやしている。
「これを見よっ」
ノートにでかでかと書かれた。
文字。
「うん。船中八策だねこれは」
「なかなかの出来じゃ」
「ずっと書いてたの、それ」
「おう。すごいじゃろ?」
すごいのかな。まあでも、今をときめく女子生徒が船中八策なんて書くことはないだろうし、すごいのかもしれない。
「次の授業はなんじゃ?」
「数学だね」
「数学か。まかせておけ」
龍ちゃん。おかしくなる前は、数学中はいつも爆睡していた。おかしくなり始めたときも、わからん、これは船でいうところのどこじゃあ、とか言っていた。
それが今では。
「予習済みじゃあ。分からんところはないか?」
「問2が分からないかな」
「教えちゃるきに。見せえ。ほれ」
こうやって、教えてくれるようになった。
もしかしたら、本当に、坂本龍馬が乗り移ったのかもしれない。龍ちゃんだし。
「もうすぐわしの命日じゃのお」
「11月か。でもいまの暦だと12月だよ?」
「こよみ?」
そこは知らないのか。
「うん。まあ、いいや」
「まさか鍋の毒にあたって死ぬとは思わんでなあ」
「鍋の毒?」
あれ。史実と違うな。
「京都見廻組に斬られたんじゃなくて?」
「
「そうなんだ」
へんにリアリティがある。
もしかしたら、本当に。
「まあええ。問2じゃったな?」
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