第20話 ダンジョン前

 俺が自室を出ると、

「おにいちゃん、おはよー」「おはようございます」

 ルーシアとアーシアは既に起きていたようだ。


「おはよう。眠れたか?」

「ねれたー」

「おかげさまで、久しぶりによく眠れました」

「それなら良かった」

「エクスさん、朝ご飯の準備はできていますよ」

「それはありがたい。助かる」

「仕事ですから」


 アーシアは働き者だったらしい。

 昨日、前払い給金と、当面の食材費用などを渡しておいた。

 それで買い物に行って、朝ご飯まで作ってくれたのだ。



 俺は朝ご飯を食べると、冒険者ギルドへと向かうことにする。

 お金を稼がねばならないのだ。

 商会から派遣されてくる鍵屋と掃除要員への対応はアーシアにお任せである。


「おにいちゃん、いってらっしゃい!」

「いってらっしゃいませ。お気をつけて」


 アーシアたちに見送られて家を出た。

 家から冒険者ギルドまでは、かなり近い。あっという間に到着する。


 ギルドに入ると、昨日の冒険者たちは既にいた。

 俺に気づいて近寄ってくる。


「おう、エクスくん。昨日はどうだった?」

「手付けは認めてもらえた。俺も忘れていたが商会長が昔馴染みだったんだ」

「それは運がいいね!」


 俺は心配してくれていた冒険者たちに簡単に経緯を説明する。


「へー。家まで。それは運がいいな」

「おちついたころに、今度遊びに来てくれ。歓迎するよ」

「おう! 俺たちには社交辞令とか、通用しねーからな」

「ああ、本当に押し掛けるぞ?」

「もちろんだ。来てくれ」


 冒険者たちには色々と世話になった。家に招いて歓待ぐらいすべきだろう。

 それから俺は冒険者たちにシステムを教えてもらって、依頼を確認する。


「……ふむ。Fランクだとあまり高額な依頼は受けられないのか」

「そうだな。だが、この辺りの常設依頼で数をこなせば……」


 冒険者たちは金を稼ぐコツを教えてくれる。

 アーシアたちの両親を解放したいという俺の目的を応援してくれているのだ。


「エクス。地図のこの辺りには凶暴な魔物が生息しているんだ」

「ほう?」

「普通のFランクが近づいたら命はないが……エクスならいけるだろう」

「ああ。凶暴といっても、ドラゴンゾンビよりははるかに弱いからな」


 冒険者たちが冒険者として必要な知識を教えてくれる。


「凶暴なほど魔物報奨金は高い。報奨金は魔石を持ってくればいい」

「戦利品も持ち帰りたいが、重いからな。魔石だけ持ってくるといいよ」

「ああ、あと死骸は燃やさないとだめだぞ。アンデッドになるからな」

「勉強になる。助かるよ」


 その後、俺はギルドから主な魔物と、その報奨金額を教えてもらう。


 そして冒険者たちにおすすめされた買い物をする。

 冒険者ギルドでも、必需品の販売もしているのだ。

 俺が買ったのは解体用ナイフと、冒険に必要な道具一式が入った冒険者セットだ。


「冒険者セットには非常食の干し肉や水、ロープも入ってるからな」

「ああ、とりあえず新人はこれを買っておけば間違いない」

「そうなのか。アドバイス助かったよ」


 俺は買い物を済ませると、強力な魔物が生息する地域に向けて出発した。





 道中は平和そのものだった。

 さすがに王都だけあって、周囲の治安はいいようだ。


 街道に沿って二時間ほど歩いていくと、洞窟の入り口が目に入った。

 洞窟ではなく鉱山かもしれない。入り口がしっかりと石で補強されている。

 そして、その周囲には、冒険者らしきものたちが複数いた。


 俺に気づいた冒険者の一人が笑顔で近づいて来る。


「新人冒険者かい?」

「ああ。昨日冒険者になったばかりだ」

「ってことは、Fランクか。うーん、仲間はいないのか?」

「ソロだが、それがどうかしたのか?」


 俺との会話を聞いて他の冒険者たちも集まってくる。


「誰に聞いたか知らんが、やめておけって」

「ああ、さすがにソロはな」

「何の話だ?」


 俺が尋ねると、最初に俺に声をかけてくれた冒険者が言う。


「このダンジョンは確かに初心者向けだ。だが、Fランクソロは流石にな……」

「誰だ、新人に適当なことを教えた奴は」


 どうやら、洞窟はダンジョンだったらしい。

 冒険者たちは俺がダンジョン攻略に一人で来たと思ったようだ。


「いや、俺はダンジョン攻略しにきたんじゃないんだ」

「そうなのか? じゃあ、何しに来たんだ?」

「通りすがりだ。俺の目的地はあっちの方だ」


 俺は目的地の方を指さした。


「……あっちの方がやばいぞ?」

「ああ、やめとけって」

「そうはいうがな。俺はどうしても行かねばならんのだ」

「何か事情があるのか?」


 俺は簡単に奴隷を解放するために金が要るのだと説明した。


「……そうか。だが、いやしかし」

「気持ちはわかるが、お前さんが死んでは元も子もない」

「大丈夫だ。死にはしない」

「死んだ奴は、だいたいみんなそう言っていた」


 そんなことを話していると、ダンジョンから六人の集団が出てきた。

 その全員が冒険者らしからぬ武装だった。

 全身を重そうな金属鎧で包み、フルフェイスの金属兜をかぶっている。

 あれでは防御力は高くとも、重すぎてかえって体力を使うし、金属兜は視界が狭そうだ。


 俺はこっそり近くにいた冒険者に尋ねる。


「冒険者じゃないよな? 騎士か?」

「ああ。このダンジョンは新米騎士を鍛えるのにも使われているんだ」

「金属鎧の重さと、フルフェイス兜の視界の悪さを実戦でわからせるためとか聞いたな」

「なるほどな」


 それならダンジョン向きじゃない装備も納得である。

 敢えて動きにくく、戦いにくい格好で戦わせる訓練なのだろう。

 敵が弱く、加えて装備の防御力が高いので、怪我もしにくい。


 新米騎士を鍛えるためには、理にかなった訓練と言えるだろう。


 俺は騎士たちのことを観察した。

 そのとき、俺は先頭の騎士と目が合った気がした。

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