第17話 占有屋

 居間の扉を開けると、中には男が三人いた。占有屋だ。

 みなりや風貌はチンピラそのものと言った感じだ。


 ソファに座っていたチンピラたちが俺のことを睨みつける。


 チンピラの中でも下っ端そうな奴が、立ち上がってドスの効いた声で言う。


「なに勝手に入ってきとるんじゃ」

「ぶっ殺されてえのか!」


 下っ端二人がわめいているが、俺は無視する。

 チンピラとは目を合わさずいない者として居間の状態を調べた。


 壁も床も天井も、そう悪くない。

 家具の趣味はあまり良くないが、傷んでいるわけでもないようだ。

 趣味の悪さを我慢すればすぐ使えるだろう。


「ふむふむ」

「ふむふむじゃねーよ!」

「てめえ、どこのもんじゃ、ぶっ殺すぞごらぁ」


 下っ端チンピラ二人が、超至近距離まで近づいてきて威圧を始めた。


「俺はこの建物の持ち主だよ。さっさと出ていけ」

「残念だったな。俺らが先にここに住んでいるからよ!」

「こういうのは、早い者勝ちじゃないんだ。ちゃんと契約にのっとって」

「うるせえ、ガキだな! そんなこと知ったことかよ」


 わかっていたことだが、話にならない。


「じゃあ、力づくで出て行ってもらうとするか」

「やれるものなら――」


 ニヤニヤと馬鹿にしたように笑っているチンピラの顎を、俺は手の甲で撃ちぬいた。

 チンピラはひざから崩れ落ちるようにして、どしゃりと倒れる。


「てめえ!」


 もう一人が短刀を抜こうとしたので、素早く右の脇腹を殴りつける。

 ちょうどそのあたりに肝臓があるのだ。

 そこをおもいっきり殴ると、ものすごく苦しむことになる。


「ぐふぅ……うぅぅうう」

 チンピラは苦悶の表情を浮かべて、ひざをつく。


「意識はあるな? そこで伸びてる馬鹿を連れていけ」

「ぶうぐううう」


 苦しくてそれどころではなさそうだ。

 俺はまだ座ったままのチンピラの中でえらそうな奴を睨みつけた。


「おい。痛い目を見たくなかったらさっさと出ていけ」

「……威勢のいいガキだ」

「大人しく出ていくか、痛い目を見て叩き出されるのか。好きな方を選べ」

「…………」


 チンピラは俺をしばらく睨みつけたあと、にやりと笑った。


「今日のところは退かせてもらう」


 そう言って立ち上がりかけたので、足でチンピラの肩を抑えるように蹴る。

 そうやってソファに再び無理やり座らせた。


「今日のところじゃないんだよ。二度と顔を見せるなって言っているんだ」

「……お前、冒険者じゃないな?」

「いや、冒険者だよ」


 俺の言葉をチンピラは納得していないようだ。


「お前。どこのもんだ?」

「さっきも言っただろう? この家を正当な手段で買った持ち主だよ」

「……お前が強いのはわかった。だが俺たちは一人じゃない」

「それがどうした?」

「それに、明日も明後日もあるんだ。昼も夜もある」


 チンピラは闇討ちをにおわせている。


「果たして、お前たちは明日も明後日も、ここに来たくなるかね?」

「ふん。俺たちを舐めたこと、後悔することになるぞ」


 そう言い捨ててチンピラたちは帰っていった。



 この物件には、これからアーシアたちも住むことになるのだ。

 チンピラからの報復を防がねばなるまい。


 俺はチンピラの後ろを、こっそり気配を消してついていく。

 チンピラたちはゆっくりながら、迷いない足取りで歩いていった。


 チンピラたちは王都の八番街と呼ばれる場所へと向かっているようだ。

 八番街は、いわゆるスラム街と呼ばれる場所である。

 近づくにつれ街の風景が変わる。どんどん治安が悪そうな雰囲気が漂ってくる。


 ずっと、ついていくと、チンピラたちは八番街の古びた建物に入っていった。

 その建物の入り口には一人チンピラが立っている。


 チンピラはやはり組織の一員だったようだ。

 そして、ここがチンピラたちの組織のアジトなのだろう。


 俺は無言でそのアジトの中へと向かう。当然のように見張りのチンピラに肩を掴まれた。


「おい、てめえ――」

「だまれ」


 俺の肩を掴んだチンピラの手を掴んでひねり上げた。


「いでででで……」

「ボスはご在宅か?」

「てめえ、どこのもん――」

「聞いてんのはこっちなんだよ。いいから答えろ」

「いでぇえ、そんなこと教えるわけないだろ」

「そうか」


 ボスがいた方がいいが、いなくても構わない。

 俺はチンピラを殴りつけて気絶させて、そのまま建物の中に進んだ。


「なにもんだ、てめえ!」

「……」


 俺は出会ったチンピラを全部倒して奥へと進む。人の多そうな方へと歩いていく。


「てめえ、どうしてここに!」


 建物の奥の部屋。そこに先ほどの占有屋がいた。

 占有屋のさらに奥にボスらしい奴が、高そうなイスにふんぞり返って座っている。


 俺は占有屋を無視して、ボスの前へと向かう。

 途中、チンピラどもに止められそうになったが、全員殴って倒す。


「ひっ」


 占有屋は怯えた声を出すが、さすがにボスは動じない。


「おい、お前が、この占有屋のボスだな」

「お前はどこのもんだ」

「こいつらが占有していた物件の所有者だよ」

「ほう」

「ほうじゃねーだろ。人の家に勝手に入り込みやがって。ただで済むと思ってるのか?」

「……何が狙いだ?」

「この馬鹿が、毎日俺んちに来るつもりらしいからな。こっちから出向いてやったんだ」


 俺は占有屋の頭をどつく。


「とりあえず、迷惑料払えよ」

 俺はボスの前の机に足を乗せて圧をかけながら言った。

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