トイレ中に蹴ってくるやつ

春嵐

トイレ中に蹴ってくるやつ

「連れションは男のロマンだな」


「ばかいえ。単に同じもの食って同じタイミングでトイレいきたくなっただけだろうが」


「ふう」


「おりゃ」


「おいてめえ。ふざんけなおまえ。手もと狂ったらあぶねえだろうが。かけるぞ?」


「ごめんて。やめろ。バズーカをこちらに向けるな」


「いいな。蹴るなよ」


「わかったから。蹴らない蹴らない」


「ふう。まだ警戒してるからな」


「いや分かったから。蹴らないから。俺もするから」


「おりゃ」


「おっあっ」


「え?」


「やば」


「あ、まじで。ごめん。やっちまった」


「うそでぇす」


「次はまじで蹴るぞ」


「待てって。な。落ち着こう。落ち着いてふたりでしよう。同時に。それで手打ちにしよう。な」


「しかたねえな」


「よし。いいか。集中しろ。股間の先端に力を籠めろ」


「ばかじゃねぇの。そんなことしなくても簡単に出るわ」


「え、まじで?」


「逆に力入れねえと出ねえなら、それはまだトイレ行くタイミングじゃねえだろ。まだぼうこう一杯じゃないじゃん」


「いやいや。基本的にそういう、いっぱいになる前にトイレ来るけど」


「そうなんだ。人それぞれなんだな」


「そうだな。ふう。おまえさ」


「うん」


「壽冢から告白されたって、本当か?」


「本当だな」


「すげえじゃん。美人で料理も上手くて勉強もできる。最高の相手じゃん」


「断ったけどな」


「もったいねえなあ。どうやって断ったわけ?」


「誰、って。訊いた」


「え、どういう、え?」


「名前を訊いた。あなたの名前はなんと読むんですかって」


「うわ。まじで?」


「いや、ほんとに読めないもの。あれ、何て読むの?」


「いや普通に壽冢」


「だからさ。その漢字が」


「ああ。そういうことね。ながつかって読むんだ。壽冢で、壽冢ながつか


「へえ。そうなんだ。あれでながつかなんだ」


「名前は聞かなかったんだな」


「必要ないもの」


「で、どんな反応してた?」


「ながつかですうって。ばかみてえな顔してたな」


「断ったことになるのかな、それは」


「そもそも顔も名前も知らないやつに急に告白するのが意味わからん」


「好みだったんだろ、顔が」


「顔ねえ。壽冢さんにはもうしわけねえけどなあ」


「どうすんの」


「おともだちになろうかな」


「おともだち」


「いきなり見ず知らずのやつに告白してくるわけかんないやつだけど、わるい人じゃなさそうだったし」


「ま、いいんでないの」


「やきもちやくなよ」


「やかねえよ」


「そろそろ行くか」


「ちゃんと股間振って滴落とせよ?」


「おう。お前はちゃんと手を洗え」


「石鹸でな」


「よし。行くか。わが恋人よ」


「行きましょう。おれの恋人」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る