星の短編小説

星埜銀杏

Episode001 割り切れない科学

 …――10年前に行ってくる。


 手のひらサイズの透明人間になれる機械を腕に装着する。


 なんで?


 10年前の出会ったばかりの君に言いたい事があるんだ。


 ふーん。でもさ。今のあたしじゃダメなの?


 うん、言っても無駄だと思う。


 だって、君はタイムマシンや透明人間になれる機械を作っちゃうくらいだからさ。


 なんだろう。なんか気になる。


 ホコリを被ってたタイムマシンまで引っ張り出してきて、相当の覚悟を感じるよ。


 10年前のあたしに、なにが言いたいのよ。


 白状するまでタイムマシンのエンジン始動キーは渡さないぞ。いいの?


 ……分かった。言うよ。言うから。でも絶対に言っても無駄だと思う。


 だって君、今も昔も科学好き過ぎるでしょ?


 まあ、好きよ。だからって一体なんなのよ?


 だからこそ。でも今の君には言っても無駄。


 それは、あたしが決める。言いなさいって。


 あのね。


 単に科学を信じるなって言いたいだけなの。


 途端、興味を失ったよう、そっぽを向く君。


 うん。確かに無駄だわ。特にあたしにはね。


 ふーん。


 それで、あたしに科学を止めさせようって魂胆なわけね。


 でもさ。


 10年前のあたしに科学を信じるなって言っても今は変わらないよ。だって、貴方と出会う前から科学好きだったし。あの頃から、すでに頭の中にタイムマシンの構想も在ったからさ。もしかしたら今以上に好きなっちゃうかもよ。


 タイムマシンの現物が目の前に現れたらさ。


 それは大丈夫。バレないようにするからさ。


 オッケ。意味は分からないけど行ってよし。


 じゃ、エンジン始動キーをもらっていくね。


 そうして僕は10年前の君を目の前にする。


 君は合理主義者。目に見えるものしか信じない科学信奉者。そんな君が、君の人生の中でも、遭遇率が少ない理解不能な状況に陥っている。顔を真っ赤にして、うつむき、恥ずかしそうにしている。もじもじ。可愛い。10年前の僕と出会った瞬間。


 10年後の僕は姿を消して彼女の耳元で囁く。10年前の君に伝えたかった事を。


 今だけ科学を信じるな。気持に素直になれ。


 一目惚れなんだろ? と……。


 ハッとして辺りを見回す彼女。


 そののち理屈では割り切れない感情が大爆発してしまう。


 好きです、付き合って下さい。


 一目惚れしちゃたんです、と。


 そんな言葉を受けて10年前の僕も真っ赤になっていた。


 僕は微笑み、そんな二人を背にタイムマシンに乗り込んでから元の時代に帰った。


 科学が好きで色んな物を作りだす僕が好きな彼女の元へ。

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