叙唱メモリアル:アナザーシナリオ

@axlglint_josyou

七爪鬼の慟哭



「へえ、めでたいな!」

「ええ、これでは死ぬには死にきれないわ。」

「ああ、遂にな。君の所のレイゴルトとは随分歳が離れてしまうが、お互いこれで子を授かることが出来たわけだ。」

「あまり飲みすないでください。貴方が酔いつぶれたら誰が守るんです?」


白辰にある地。

レイゴルトが帝国軍の一兵卒として頭角を現し始める15歳の頃のことだった。


レイゴルトの父、クラウス=E=マキシアルティ。そして母であるサリナ=E=マキシアルティはとある二人をもてなしていた。


それはサリナの兄である、ザック=エクセリア。そしてその嫁であるセリカ=エクセリア。

二人はようやく子に恵まれたことでクラウスたちに報告に来た。


この事はレイゴルトには話していなかった。

単にそれは、レイゴルトがいまかなりの多忙になっている故だった。

本来ならもう少し士官学校等に行くことを考えるのだが、サリナが病に倒れ、それをクラウスが看病している。

事実上、かつて七爪鬼ナナソウキと呼ばれたクラウスは引退を余儀なくされた。


「にしても、お前も頑張るな。戻ったら軍に務めるんだろ?」

「ああ、本来ならセリカをお前の所に住まわせようとしたんだが・・・。」

「歓迎するわよ?・・・正直、立場が悪いのよね?」


魔術師の中でも、魔道具周りを開発する技術士であるザック。

帝国に帰れば、また軍の基地や駐屯地に引っ張りだこだ。

そうして重宝されていたザックの傍ら、セリカの扱いは悪かった。

世の中からしたら平凡、エクセリア家周りの家からしたら能無し。

性格はのんびりで優しい人物だったが、それを求めなかった名家周りはよく思われず、日頃から罵倒や陰口が絶えなかった。


逃げだせれば良かったのだが、生真面目な部分があったのだろう。

、と信じていた。


「ごめんなさい、好意は嬉しいのですが・・・。」

「だそうだ。決めたら頑固でなぁ。」


決めたことには、クラウス達は口出し出来ない。

クラウス達もまた、身動き出来ない立場だ。



「・・・だったら、何かあったら俺達もできる限りの手助けはするさ。それでいいよな、義兄せんゆう。」


だから、こう言うのが精一杯で。

こう言うとセリカ達は笑顔を向けるのだった。








─────崩壊は、1年も経たずに始まった。


先ず、クラウスの妻であるサリナ=E=マキシアルティが病の悪化により死去。

次に、サリナの兄であり、セリカの夫であるザック=エクセリアが、反乱軍の奇襲により戦死。



「なぜ、何故なんだ・・・俺への罰か。

少しでも楽観した、俺への罰か・・・!」



クラウスは泣き崩れた。

妻の死は、病の悪化。これはまだ許容できる。

治らない病だと分かっていたから、覚悟はあった。

だが、それが辛いのだと考える暇すらない。

それが戦友の死。

軍人なのだがら、死ぬのは何らおかしくない。

なのに何故、自分はなんの保証もなく生き抜けると思ったのか。



「・・・セリカ。セリカが危ない。」



泣き崩れて思考がこんがらがる中、ひとつの答えを見つける。

約束しただろう、何かあれば出来る限りのことをする。


行動は早かった。

直ぐに家を出る。

行き着く先は決まっていた。








某日、エクセリア家系の領地への道。

クラウスは走っていた。

急げ、急げ─────。

セリカの子はもう、産まれるかその寸前のはず。

彼女ひとりで生きる方法はない。



「・・・!」

「クラウス=E=マキシアルティだな。

此処は通せない、引き返せ。」


エクセリア家系を守る騎士たちが、クラウスを取り囲む。

焦っていたクラウスは、叫ぶように言った。


「約束しているんだこっちは!何かあればセリカを守れと!」

「何を仰るか、七爪鬼殿。

。」

「───────。」


言葉を失った。

妻も、義兄も失った。だからもう、クラウスおまえの繋がりはないと告げられた。

ならばもう、エクセリア家はマキシアルティ家と関係はない。干渉は許されない、と。


「貴様、貴様らッ・・・!」


だから、だからと言って─────。


「貴様らに人の心は無いのかァッ!!」

「あるとも、七爪殿。そんな暴言で譲ってしまえば、我らは生きていけない。」


その為に、一人の弱者を寄ってたかって奴隷のように扱うのか。

それが許されるのか。


許されなかったのは、後のひと言だった。




「セリカ殿に裏切りの兆しアリ。よって処刑を執行しているのです。お引取りを。」




手が震えた。

それが、そんな事が─────


「────赦されるかァァァァ!!!」


黄金の剣を手に、駆け出す。


「セリカはっ!優しい人だぞ!認めてもらいたくて、頑張っていたんだぞ!

そんな事が出来るかァァァ!!」

「裏切りは裏切り。それ以上に配慮することはありませんっ・・・!」


七爪鬼は、正しく鬼のように暴れだす。

裏切りは裏切り?バカを言え。

邪魔になったから娘だけ貰って消えてもらおうとしただけだろう。

要は、その邪魔をするなと告げられた。


騎士たちの守りは崩れだす。

赤い血が、雪原に散らばり始める。

七爪鬼の驚異は健在で、守りきるには更なる質が居る。



「お引取りを!七爪鬼殿の息子の立場がどうなっても宜しいのか!」

「─────」


剣筋は止まった。

迷いがなかったのではなく、考えに至らなかったからこうした行動に出ていた。

だから、息子の立場の話になればこのように止まる。


一瞬の隙を、騎士たちは見逃さなかった。


「っ、が・・・!?」


数人係で取り押さえ、地面に叩きつけられた。

動けない。

七爪鬼の覚悟は、寒々しいほど呆気なく叩き伏せられた。


その直後、他の騎士が走ってくる。

膝をつき、報告をする。

それは、絶望だった。



「セリカの処刑、完了致しました!しかし・・・赤ん坊の姿は見られず・・・!」

「ッ!馬鹿者!赤ん坊が本命だ!探せ!」



クラウスの目が見開かれた。

こうも早い報告。

それは最初から、どれだけ急いでも間に合わなかったという事実に他ならなかった。


「・・・七爪鬼殿。

この事は秘密にしましょう。

もし誰かに告げ口すれば────わかっていましょうな。」


騎士たちは走り去っていった。

倒れたクラウスを一人置いて。



「あ、あああああ・・・」



・・・何もかも、間に合わなかった。

マキシアルティからの功労者を手にかけた事実があれば、確かに相手は立場が悪いのだろうが、同時にレイゴルトの立場も危うくなる。

告げ口は、どちらにとっても滅亡の道でしかなかった。


だが最早、どうでもいい。

もう立てない。

立つ理由を喪った。


何を、何を間違えた?

何処で、道を間違えた?

分からない、分からないが・・・どうしようも無いほど後悔の念が巡る。



「あああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!」



狂い哭く七爪鬼の声は、虚しく空に消えゆくのみだった。

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