第27話 ロゼッタ襲来


 一方、時刻は翌日の朝にまで進むことになる。

 葉司たちの住んでいる森の中に1人の少女が足を踏み入れていた。



(なんでしょう。この森は……?)



 彼女の名前はロゼッタ。

 王国の騎士団に所属する若きニューマンである。


 ニューマンとは、アーテルフィアの中でも最も高い繁殖力を誇る種族である。

 魔力と身体能力は平均的であるが、その外見は葉司たち人族と見分けがつかないことで知られていた。



「どう考えてもこの森は異常ですわ……! ここで一体何が起こっているというのでしょう……」 



 王都から西方に30キロメートルほど離れた場所にある《オストラの森》は、駆け出しの冒険者が狩場として使用するエリアであった。


 森の中にはスライム・ゴブリンなどの低級モンスターが多く存在しているはずなのだが――。

 どれだけ探索してもロゼッタが魔物に遭遇することはなかった。



「とても……とても嫌な予感がします……」



 ロゼッタは過去に1度だけ同じような経験をしたことがあった。

 それは駆け出しの冒険者たちが使用するエリアに、フェンリルが住み着いた時のことである。

 低級モンスターの中には、圧倒的な強者が近くにいると萎縮して巣穴から出てこなくなるものが存在している。

 しかし、これほどまでに広範囲に渡って魔物の出現を抑えるモンスターとは何者なのだろうか?

 想像するだけでロゼッタの額からはジワリと汗が滲み出る。


「あれは……!」


 そこでロゼッタが発見したのは岩場に作られた洞窟であった。

 オストラの森はリアが探索していた遺跡から5キロにも満たない地点に存在している。

 

 もしリアが怪我をして街に帰れない状況にあるのだとしたら――。

 

 この辺りの洞窟で体を休めている可能性は十分にあるだろう。

 先輩騎士の無事を祈りながらも、ロゼッタが洞窟の中に足を踏み入れようとした直後であった。



「…………ッ!」



 天上の上に張り付いていた1匹のモンスターがロゼッタ目掛けて強襲する。



「これは……なんというケタ外れの魔力量……!?」



 そのモンスターの正体が何の変哲もない唯のスライムだと知ったときロゼッタは、更に驚愕することになる。


「信じられませんわ。これはもうスライムのレベルを超越しています……!?」


「キュー?」



 ロゼッタの前にいるスライムは先日生まれた子供の1匹である。

 奥には更に強力なスライムが潜んでいることを彼女は知らないでいた。



「烈風刃(ウィンドエッジ)!」



 ロゼッタは得意の風魔法を使って目の前の敵を倒そうとする。


 ――が、意外なことにスライムの動きは速かった。


 その攻撃は空しくも空を切ることになる。



「しまっ」



 ロゼッタの敗因は、異常な魔力を内包したスライムに気を取られて周囲の確認を怠ったことにあった。

 ライムの子供たちがロゼッタの背後から強襲する。



「きゃあああああああああああああああああああああ!」



 残る3匹の子供スライムに強襲されたロゼッタは、たまらずに悲鳴を上げるのであった。

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