第6話 小さな洞窟



「着きました。ここです」


 リアに案内されたのは、森林の岩場に作られた小さな洞窟であった。


「……ここは?」


「ここは私の父が残した隠れ家です。父は人類学者だったので常に命を狙われる立場にありました。そういう事情もあって世界各地に隠れ家を作っていたのです」


「ちょっと待て。人類学者ってそんなに危険な職業だったのか?」


「ええ。父は職業柄聖遺物を扱うことの多かったですから。人間さまの力を悪用しようとする組織と日夜戦闘を行っていました」


「…………」


 知らなかった。

 この世界の人類学者っていうのは、そんな秘密基地みたいなものを持っていたんだなぁ。


 


「……申し訳ございません。このような粗末な家に主さまを住まわせるのは心苦しい限りです」


 

 いやいや。

 凄く良い家じゃないか。


 少なくとも六畳間のボロアパートでヒキコモリ生活を送っていた俺にとっては天国みたいな環境である。


 入口こそ小さかったが、中に入ると意外と大きな空間が広がっていた。

 隠れ家という名に相応しく洞窟の中には本棚・食料庫などの設備が揃っている。



「主さまはこちらのベッドをお使い下さい。粗末な寝具を使わせてしまい恐縮ですが……今暫くお待ち頂ければと思います」



 そう言ってリアが紹介してくれたのは、白色のシーツに包まれた簡易的なベッドであった。


「俺は何処でも構わないけど……リアはどこで寝るんだ?」


「私は敵の襲撃に備えて洞窟の入口を見張っていようかと。睡眠は1日30分、適宜取れば十分です」


「こういうのは普通、男女で逆じゃないか? 俺は床で寝るからリアがベッドの上で寝てくれよ」


「そのような不遜な真似はできません! こればかりはいくら主さまの頼みとはいえ流石に……」


 ちょっと迂闊だったかな。

 リアからすれば自分がベッドで寝ている間に、神様を床に寝かせてようなものなのかもしれない。


「う~ん。ならいっそ同じベッドで寝るっていうのはどうかな?」


 一応言っておくと、別に下心があるわけではないんだぞ?

 前に住んでいたボロアパートですら冬場は凍えるように寒かった。


こんな洞窟の床で寝転がっていたら下手したら凍死しちまうかもしれない。


 せっかく大きなベッドなんだし、二人で一緒に使わないのは勿体ないだろう。



「……主さまとですか!?」


「ああ。ごめん。嫌だったら別の方法を考えるよ」



 おっと。危ない危ない。

 ここで断られでもしたら暫くはショックで立ち直れそうにないからな。


 自分から話を折りに行くことで精神の安定を保つスタイル!



「い、嫌なわけがありません! 主さまさえ良いのであれば……大丈夫です!」



 おおっ……。


 マジでか!?

 やけにあっさりと認めてくれるんだな。


 床で寝かせるのはアウトだけど一緒のベッドを使うのはセーフなのか。



「……それではその……今後とも末永くよろしくお願いいたします」



 心なしか頬を赤らめながらもリアは言う。


 何故だろう?

 

 それから暫くの間――。

 リアは妙に落ち着きがないというかソワソワとした様子になるのであった。

 

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