第2話 遺跡の出来事
所変わって此処は剣と魔法の
アーテルフィアに存在する古代遺跡の中には一組の男女がいた。
2人は王都から派遣された探索部隊であり、遺跡の調査を任されている立場にあった。
「凄い……! こんなにも完全な状態で人族の聖遺物が残っているなんて……!」
探索隊のリーダーであるエルフ族のリアは興奮気味に口を開く。
「これは人間の髪の毛でしょうか……? いずれにせよこれは、歴史に名が残るような大発見に違いありません!」
リアが遺跡の隅で埃まみれになった1本の毛に夢中になっていると、部下である男が騒ぎ立てる。
「隊長……ずるいですぜ! その聖遺物とやら……オレにも見せてくだせえ」
獣人デクスは尻尾を振りながらも上司に向かって懇願する。
当初は大勢いた部下たちも、遺跡の探索で力が尽きて今ではデクス1人になっていた。
「構わないですが……くれぐれも丁重に扱って下さい。その聖遺物は王国の宝物庫の中で厳重に扱う代物になりますから」
人族という存在がアーテルフィアに存在したのは過去の話。
太古の昔に絶滅した人族は、他人類を圧倒する膨大な魔力を保有していた。
その絶対的な力は、今回発見された聖遺物にも存分に表れており――。
髪の毛の1本にも触れているだけで指が熱くなるような魔力が内包されていた。
「ケケケッ。ケケケケケッ」
リアから聖遺物を受け取った瞬間、部下の獣人は下卑た声を漏らす。
「……何が可笑しいのですか?」
「隊長さんよ~。貴方はもう少し人を疑うってことを覚えた方がいいぜ? 俺はもう……貴方の後ろを歩くのはウンザリなんですわぁ」
普段の誠実でいて真面目に仕事をこなす態度から一転。
獣人族のデクスは完全にリアを舐めた口調を取っていた。
(裏切りですか……。バカなことを……!)
部下の態度を目の当たりにしたリアは溜息を吐く。
たしかに今回発見された聖遺物を売れば、子孫7代まで遊んで暮らせるだけのカネが手に入るかもしれない。
けれども。
あくまでそれは彼が無事に遺跡からの脱出を果たした場合に限る。
王都でも随一の魔術師として名を馳せたリアにとって、デクスの謀反は恐れるに足りないものであった。
「…………!?」
だがしかし。
次にデクスが取った行動はリアを絶句させる。
何を思ったのかデクスは――手にした髪の毛を口の中に入れたのであった。
「クハハハハハ! スゲー! 体中に力が溢れてくるぜ……! これが……これこそが人族の力か!」
聖遺物を体の中に取り込んだデクスの魔力は急速な勢いで増加していく。
「……何をしているのです!? それがどんなに貴重な品か分からないのですか!?」
世紀の発見を失う瞬間を目にしたリアは、悲鳴に近い声を上げる。
人族がアーテルフィアに存在していたのは、1万年以上前の話とされている。
故に人族の体の一部が見つかることは滅多にない。
それも今回のように潤沢な魔力が内包されている品となると尚更である。
「知っているさ。知っているからこそ俺は……この力で世界を総べる王となるのだよ!」
聖遺物を完全に体内に取り込むことに成功したデクスの体は膨張していき――。
最終的にその身長3メートルにも達するようになっていた。
過ぎてしまったことを後悔しても仕方がない。
「火炎連弾(バーニングブレット)!」
リアは得意の火属性魔法をデクスの体に撃ち込んだ。
「ハッハー! 無駄無駄!」
しかし、渾身の一撃は、デクスの体に到達する直前にかき消されることになる。
デクスの体内から放出される膨大な魔力が壁となって、リアの攻撃は完全に無効化されたのであった。
(……クッ!? 人間の……聖遺物の力とは……これほどのものでしたか!?)
絶望と言うより他はなかった。
その気になれば巨竜すら屠る攻撃が人族の力を取り込んだデクスの前では、何一つとして意味をなさなかったのである。
リアは思う。
髪の毛の1本でこれほどまでの力が宿るならば――生きた人族はどれほどの力を持っていたのだろうか。
疑問に思ったその直後。
そこでリアは更に信じられない光景を目にすることになる。
ヒュオオオオオン! と。
突如として遺跡の天井を突き破り飛来する人影があった。
「ん……? どこだろう……ここは?」
リアの視界に入ったのは――寝惚け眼をこする1人の男の姿であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます