第4話 ビッチ転校生の手の早さが尋常でない
やなヤツ!
やなヤツ!
やなヤツ!
と少女がブチ切れながら歩くシーンは、
どの映画のものだっただろうか。
今なら彼女の気持ちが痛いほど分かる。
決して、僕があいつに好意が持っているだとか、
この先に甘い展開があるわけではない。
断じて!!
ただ、この溢れ出る怒りを言語化しないと、
脳味噌が破裂しそうなんだよ!!
なんなんだアイツは!!
お礼なし!
謝罪なし!
抑制剤なし!
そして僕を誘ってきた!
(残念だったな、僕はオメガだ!)
しかも、あいつはアルファ以外も経験あり!
アルファ以・外・も・経験あり!!
どんだけ経験あんだよ!
乱パか!?
ナチュラルオメガの乱パか!?
そこで、ヒートのオメガを囲む会を開いたのか!?
何人だったんだ?!
オメガとベータの内訳は?!
アルファはいたのか?!
アルファはいたのか?!
アルファって、
気持ちいいのかーーーーーーーーーーーーーーー?!
聞きたーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!
根掘り葉掘り聞きたーーーーーーーーーーーーい!!
でも、掘りたくはなーーーーーーーーーーーーい!!
誤解しないでほしいが、別に羨ましくなんかない。
全っ然、羨ましくない。
ちょっと物凄く妬ましいだけだ(ギリィ!
深く刻まれた眉間のシワを伸ばすために、
少し遠回りして教室に向かう。
ガラガラ
もう1限も終わりそうな時間に教室に戻る。
「お、サットゥ!」
「サットゥもどってきたー」
サットゥとは僕のこと。
苗字が佐藤だから、サットゥ。
Todayトゥデイのトゥ。
「サットゥじゃなくて、佐藤だよ」
メガネを上げるフリをして、伏し目がちに話す。
教室に人だかりが出来ている。
何やってんだよ。
「サットゥ、何してたの?」
「転校生!転校生!」
転校生は体調が悪いみたいで、
と話し始めようとすると、
人だかりの中から、ヤツが出てきた。
「遅かったねー!先着いちゃったー!」
なぜ、お前が教室にいる!!
ヒラヒラと手を振りながら、人だかりの中心にいるのは、
他でもない、あの転校生!
「サットゥ、迎えにいかなかったの?」
「知ってる?柳くんってオメガなんだって!」
「俺、はじめてオメガ見た!」
クラスのみんなが次々と話し出す。
「やだー!
ボクのことはー、柳くんじゃなくて、
名前のマコって呼んでほしいなー」
転校生は、語尾をだらしなくのばして、首をかしげて見せる。
ああ…既にカミングアウトしてやがる。
「確かにマコくんって、マコって感じだよね!」
「マコく・ん・より、マコち・ゃ・ん・じゃね?」
「分かる分かる!
やっぱりオメガだからかな?中性的な感じ!」
「うんうん!ミステリアスだよね!」
「オメガって可愛いんだな…俺、知らなかった」
「おお?お前もしかして…」
恋ーーーーー?!とクラスが色めき立つ。
初めて見るオメガに、みんな興奮気味になっている。
まぁ俺もテンション上がったから分かるけど。
でもさ、
ねぇ、みんな、
春からずっと一緒にいた僕もオメガですよ。
やっぱりミステリアスで可愛いでしょ。
恋愛対象になっちゃうよね、
僕も。
なぜだろう、
たったひとりオメガが現れただけで、
オメガも性格は千差万別だとか
周囲のオメガに対する反応だとか、
今まで分からなかったことが次々分かるようになったのに、
嬉しいよりも、
胸が痛い。
てか、帰れよお前ーーーーーーーーーー!!
ヒート来たんだろうがっ!!
さっき、緊急鎮静剤打つまでは、
けっこうツラそうにしてただろ!!
しかも、抑制剤飲んでないんだから、
もしも抑制剤を飲み忘れたアルファがいたら、
連鎖ヒートするじゃないか!!
もっと自分を大事にしろよーーーー!!
硬直してしまった僕を見て、転校生は
「あ、サットゥ?て言うのー?
サットゥはねー、
さっきボクがヒート起こしちゃったときに助けてくれたんだよ!」
とウィンクする。
「ええええ!ヒート起きたの?」
「大丈夫?」
「学校いていいの?」
女子が心配を始める。
「うん、嫌だったけど、緊急鎮静剤打たれてー」
転校生がチラッとこちらを見る。
いや、仕方あるまい。
人がいっぱいの学校でガチヒートを放置できないだろ。
「ねぇねぇ、やっぱエロい気持ちになんの?」
岡田ぁぁあーーーーーーー!!!
さっきの「可愛い」発言といい、
今の発言といい、頭おかしくなってるぞ!!
その他男子もソワソワしなーーーーーい!!
こいつはなー、
誰にでも股開くぞ!!!!!
「あ、あ、あのさ、あんまり、みんなして柳くんを質問攻めは…」
「エロくなるよー!!」
また僕の話を遮って喋る。
だから僕に最後まで話させろーーーーーーーー!!
「きゃーーーーーー!!」
女子のテンションが急に上がる。
いや、なに盛り上がってんだよ!
「どんな感じ?どんな感じ?」
はい、男子も自重しろおおおお!!!
岡田、鼻フンフンするなーーーーー!!!
どうしようもないので、
もう一度保健室に連れ戻そうとすると、
キーンカーンカーンコーン
ベルがなる。
よし!ナイスタイミング!!
そして、現れる白衣の先生。
「柳くん!保健室に戻りなさーい!!」
養護教諭の貫禄のオーラが僕を安心させる。
ちなみに保健室の先生は、来年に定年を迎えられるオバ…んんっ!人生の大先輩です。
「えー!大丈夫ぅー!
ボクこのまま授業うけたーい!!」
柳が岡田の後ろに隠れる。
岡田ー、顔緩んでるぞー。
「なに言ってるんですか!
今後のあなたの見守り方を話し合いましょ!
私から先生方に共有しますから!
あなたは私と話すだけで終わるようにしますから!」
ドスドスと生徒をかき分けて、
保健室の先生は柳を捕まえる。
普段は優しいんだけどね。
さすがに今回は強硬な態度に出るよね。
「ではそういうことで!失礼しますね!」
そう言いながら、保健室の先生は柳を引きずっていく。
明らかに不満そうな顔をして、連行される柳。
クラスのみんなも、
「えーーーーー!」
と不満の声を上げるが、柳の姿が見えなくなると、
大人しく席に戻って、次の授業の用意を始めた。
ああ、これで、やっと平穏が訪れる!!
と、僕が喜ぶとでも思ったか。
僕はちゃんと見てたぞ!
お前が岡田に離れ際、コソッとなにか囁いてたの!
そして、掴んでた岡田の腕に「6」って指で書いてだろ!
「この」?
「ここ」?
「会いたい」?
「会ってて」?
「待ってて」?
「6」?
「6」人?
「6」時?
あ!
「6時にここで待ってて」!!!
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