第2話 そもそも運命の番と出会って本当に気付けるかどうか自信がないんだが、転校生はどうやら意識高い系オメガらしい

アルファに会ったことがない。

さらにはオメガにすら会ったことがない。





でも、僕はオメガだ。





世間では、アルファやオメガがそれぞれ、

人口全体の1〜2割を占めるという。

なのに「会ったことがない」というのは、


不自然では?


確率的には、

双子に出会うよりも高い確率で出会えるはずなのに。






…つまりは、僕が気付いてないってことではないか?






実際、

オメガを取り巻く環境はひと昔前と比べると、

劇的に良くなっている。


例えば、抑制剤。

昔は抑制剤が高いために生活苦になる(そして風俗に流れる)という話もあったそうだが、


先進国では、抑制剤は指定薬剤となり、

公的支援により自己負担率は1割、

所得状況によっては無償になる。


僕の国では、

16歳までは未成年医療保障が充実しているため、

抑制剤も含め、16歳未満の医療費は1医療施設あたり

月に500円の自己負担が上限になっている

(つまり同じ病院で治療を受ける場合、

月に500円を超えた分に関しては公費で賄われる)。


だから薬代のために体を売るなんてことはない。




抑制剤が公費負担されることに喜んだのは、

オメガやオメガがいる家庭だけでない。


製薬会社も大喜びだ。


というか、

製薬会社の方が喜んだかもしれない。



社会福祉の名の下に、

国と契約を結ぶことができた製薬会社は、

公費で薬剤研究と生産ができる。

出来上がった抑制剤は、まとめて国が買い取ってくれるので、

抑制剤の開発は安定的な利益が得られるビジネスとして確立した。


もちろん、成果の上がらない企業は契約解除となる建前なので、

薬剤の研究は進み、安価であったり、高品質であったり、多様なタイプの抑制剤が作られ、

オメガだけでなく、アルファ向けの抑制剤もある。


年齢、体質、効果に合わせて、

日々の生活を安定して送れるように調剤される。


特に最も有効とされ、

別名「基本の抑制剤」といわれる「MASK」という抑制剤は、


なんと効果持続時間が1年。

ヒートの発現を緩やかにする。


なんの対策もせずにヒートが起きると、

ヒート予期( ムラムラする)からヒートの完全発現(ヤろうぜ!ひゃっはー!)まで3分。


しかし、MASKを服用すると

ヒート予期から48時間かけて

緩やかにヒートを完全発現させることができる。


おかげでヒートが完全発現する前に、

適切な対応することが可能になった。


さらにMASKはオメガのヒート発現時の特有のニオイ(「誘淫臭」と呼ぶ人もいる)を抑える。


オメガの"ニオイ"で、アルファにヒートが連鎖し、

オメガバレ、レイプ、乱交など起きた過去を鑑みると、





このニオイ抑制はかなりデカい!





たとえば今、ここで僕がヒートを起こしても、


ニオイなし!暴走なし!


ちょっとハァハァしちゃうけど、

症状が軽いから、頓服薬でも飲んだら大丈夫!


という具合。


僕はハァハァしたくないから、

周期が近づいたときに、

強めの短期タイプの抑制剤を併せて飲んでるから、

ほとんど無症状!!!


ただやっぱり、火照ったり、

ぶっちゃけオナニーの回数が半端なくなる。




元々オメガのせいか、ソロプレイ回数は多いんだけど。

雑誌で2日に1回とか、

毎日は珍しいとか、

毎日してたら1日あたりの回数が少なくなるとか…





信じられん!!!!!!!





お前のチンコは飾りか!?!?!?






僕、しようと思ったらいくらでも出来る。

飽きてくるからソロプレイ終了するだけ。


オカズにも限りがあります。


いくらでも白米は食べられるけど、

オカズに飽きて、白米を食べるのやめるだけ。




肉体的に出来なくなるとか、

賢者モードとか、




なにそれ?




ほんとに分からん。


でも、他のオメガは俺と違って、

こんなにソロプレイしないかもしれない。


オメガとかベータとかアルファとか、

そういうのと関係なく、




僕がただの絶倫だったらどうしよう。




いや、オメガとしてはこれが正解なのか?




分からん!!


何度も言うが、僕、







ベータにしか会ったことないもん!!!!!血涙




オメガ仲間いないもん!!!!!!




抑制剤がすっごく効くから、

オメガの存在に気付けないんだよ!!


僕も表向きはベータだから、

僕のクラスにはベータしかいないことになっている。

だから、クラスのみんなはオメガが近くにいるなんて知らない。


もし僕以外にオメガがいたとしても、

僕だって気付いてないんだと思う。







オメガ同士でさえ気付けないのに、


アルファと出会い、


その中でも運命の番に出逢うってさ、







無理くない?







絶対気付かない!!

僕は自信ある!気付かない自信が!!www





抑制剤の品質向上と安定的供給のおかげで、






きっとオメガの姿は見えなくなってしまったんだろうなぁ。






オメガが仲間を見つけられないほどに。

孤立するほどに。

そして、自分でも自分はベータじゃないかと、

自分を見失うほどに。






うわー、悲しくなる。


運命の番と出会えないなんて、




至極の快感を貪り食えないなんて、






涙が止まらない。






ハイスペ絶倫に食わせてもらって、


アンアンハァハァしたい人生だった……。





オメガとは、


当たるとデカい歌手みたいなもんだと思ってた…(不謹慎)。





まぁこんなふざけたこと考えられるのも、

不自由なく生活できるからなんだろうけど。


あー授業の用意するかな。





「佐藤くん、転校生の案内した?」


隣からまたしても優しい声。

うんうん、転校生ね、

そりゃもう、バッチリ前もって…



「っあーーーーーーーーーーーー!!!!!」



しまった!

教室まで案内しなきゃいけないんだった!

わーーすーーれーーてーーたーーー!!


「ばか!走れ!」


手伝うよ、とは絶対言ってくれない乱暴女子に後押しされて、駆け出す。


いやいや、時間的にはまだ間に合う。

走れば!走ればね!

あああああ廊下走っちゃダメなのにーーー!!

陰キャはルール破るの慣れてないんだよおおお!!







ドンっ!!







すれ違いざまに人にぶつかる。


「お、とと!ごめっ!ごめんなさい!」


息切れもあって、カミカミの謝罪をしてしまう。

あ、でも、待てよ。

わーお、これって漫画なら運命の出会いでは!?



バッと後ろを振り返ると、尻もちをついた小柄な男子。

え、後ろ向きに転ぶなんて、絶対痛かっただろ。



「ごめん、ごめんなさい!

今、急いでて、それで、走っちゃってて、そしたら当たっちゃって、怪我してないかな?ごめん!」


駆け寄って、手を掴み、引き起こす。





フワ。





ん?あれ?なんか?

金木犀?

よりもっと甘い?

けど、なんかすぐ分かんなくなって…

捉えどころないような?

なんだこのニオイ?


ちょっとソムリエさん呼びたい。





「こちらこそ、すみません。

ちょっとヒート来ちゃったみたいでぇ」

小柄男子は起き上がりながら、高めの声で話し出す。



え、ヒー




「ボク、今日、転校してきたんですー。

1-Bの教室分かりますかー?」



あ、君が転こ



「どうしよーアルファの人いたら。

あ、大丈夫ですかー?

ヒートに当てられてません?」



いやいや僕はア




「ボク、薬飲まない派でー」





待て、僕にも話させて。





「ボクって、ナチュラルオメガなんですよー」








ニコニコ微笑みながら、

転校生はいきなりカミングアウトしてしまった。



転校生、オメガなんだってよ。


しかも"ナチュラル"オメガだってよ!!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る