死後の世界診断
全方不注意
死後の世界診断
これまで長らく死後の世界はおとぎ話か宗教の話かだったが、どうやら科学的にも死後の世界が認められたようだと検索サイトを開くと出てくるニュースの「死後の世界、科学で解明」という見出しの記事に書いてあったのはもう5年以上前の話だ。
それから別に何が変わったわけでもなかったが、最近になってまた死後の世界の話が騒がれだした。
というのも、一部の病院で死後の世界を診断できるようになり、芸能人や著名人がこぞって診断を受けてはテレビやSNSなどで話題にしだしたのが発端だ。
それからネットに死後の世界診断がいくつも出てきて、いくつかの質問に選択肢の中から答えるだけで手軽に分かるということであっという間に一大ブームとなった。
遠藤あやめの通う高校でも近頃は死後の世界の話題でもちきりだった。
曰く、お金持ちの死後はみんな天国らしいとか。
曰く、誰それの結果がどうだったとか。
あやめの友人、生島みいなもそのひとりだ。
「あやめちゃーーん!聞いてよー!わたしの死後の世界、無なんだってー!」
ちまこくてほんわりとした小動物っぽい見た目とは裏腹にエネルギッシュで猪突猛進って感じで、今もこうしてタックルと言っていい勢いであやめに抱きついてきている。
「死後が無って、なんだかかっこいいね。オバケとかに全然動じなそう」
衝撃で何歩か下がりながらもなんとか倒れずにみいなを抱きとめたあやめは、感情を全身で表現するのも小動物の特徴だったなと思う。
「えー全然そんなことないよ!怖い映画とかすごい怖いし終わったあとトイレ行ったり鏡見たりできなくなるもん!」
腕の中でみいなが勢いよく顔を上げるからアゴにクリティカルヒットしそうになる。毎度のことなので、あやめはうまいこと引き剥がして回避する。
「でも、観るんでしょうホラー」
「まあね。やってるとつい観ちゃうんだよねー」
ところで、と前置きしてみいなは続ける。
「あやめちゃんは診断やらないの?」
「私は別にいいかな。ネットでできるやつなんてどうせ適当なそれっぽい結果出すだけのやつで根拠はないんだから」
これは嘘だ。あやめは既に死後の世界診断をやっている。それも一度ではない。何度もだ。
見つけられた限りの診断サイトでやり尽くしている。診断がまだ科学的でなかった時代の本当にしょうがないものから、200近い質問に答えなければならなかった信憑性のありそうなものまでやった。ほとんど全ての結果が地獄だった。
いくらデタラメだと思っていても行く神社行く神社で大凶のおみくじばかりを引くようなもので、どうしても不安になってしまう面はある。
だから死後の世界の話はなるべく避けて不安な気持ちを遠ざけたかった。
「えーいいじゃん根拠なくたって話のネタにはなるしさ。わたしのためだと思ってさ、あやめちゃん」
みいなの言うことは確かにその通りだと思った。でも結果を正直に言うのは重くなっちゃうからどうかと思う。嘘をつくこともできるけど、それは裏切りのような気がして、自分が自分じゃなくなっちゃいそうで、どうしても恐ろしかった。
「じゃあ、気が向いたらね」
そうだ、本物の診断を受けよう。そうすれば、この不安は払拭される。結果に科学の裏付けと医者の権威によるお墨付きがつく。それはきっと本物だ。
「それ絶対やらないやつじゃんー」
本物の診断でも地獄だったらという不安はある。だから、受け入れる覚悟を決めなくちゃいけない。
「きっと、やるから」
そう言ったあやめの表情はただの日常の雑談には似つかわしくないほど難しい顔だった。
その日みいなと別れた後、あやめは病院へ予約の電話を入れた。
死後の世界診断の予約は既にたくさんあるようで、すぐに受診することはできないようだった。
審判の日は、1ヵ月後。
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