危険な再会 ②



「リュウはいずれハルと結婚するし、トモとアユちゃんも来年結婚するだろ。アキもカンナと結婚するって聞いて、自分だけが取り残されたみたいな気分になったってさ」

「そんな理由で結婚……?」

「ユキちゃんは、アキがカンナと結婚したら、もうアキとは友達としても一緒には居られないってことがショックだったんだよ。アキは何も知らせてくれなかったって、落ち込んでた。ずっとそばにいんのが当たり前だったアキが急にいなくなって、よっぽど寂しかったんだろ」


 会わなくなって寂しかったのは、アキラも同じだ。

 ユキに会いたいと何度も思った。

 だけど八つ当たりのように一方的に告白した上に、自分から勝手に突き放しておいて、今更合わせる顔がないとも思った。

 ユキのいない寂しさを埋めるために、カンナにユキの身代わりを求め、どれだけカンナを傷付けただろう。

 カンナはきっとそれに気付いていたから、『あの人じゃなく私を見て』と言ったのだとアキラは思う。


「アキはさ……このままカンナに縛られて、ユキちゃんに会えなくなっても、ホントに後悔しねぇか?」

「……そんなの、後になってみなきゃわかんねぇよ。ユキが結婚辞めたからって、身勝手にカンナを捨てるんじゃ、あまりにもひどすぎるだろ?あんなにオレを想ってくれてんのに……」

「その優しさがネックなんだな、アキは……」


 アキラの気持ちはわからないでもない。

 けれどその残酷な優しさで、誰が幸せになれるだろう?

 マナブは大きなため息をついた。


「余計なお節介かも知んねぇけどな……アキに話さなきゃいけないことが、もうひとつあるんだ」

「なんだ?改まって……」


 アキラはいつになく深刻そうな顔をしているマナブを不思議そうに見た。


「まだハッキリしたことはわかってないから、どこまで話していいのかわかんねぇんだけどな……」


 マナブがそう前置きして本題に入ろうとした時、店のドアが開き、一人の男性が店内に足を踏み入れた。

 マナブは少し慌てた様子で、壁に掛けられた時計を見上げる。


「あっ、もう開店時間か……」

「マナブ!!」


 その男性はひどく慌てた様子で、大きな封筒をカウンターの上に置いた。


「八代さん、いらっしゃい。今日はずいぶん早いんですね」

「ヤバイぞ!」

「えっ?ヤバイって……」

「この間ここで話しただろ?あれから気になっていろいろ調べてみたんだ」


 二人がなんのことを話しているのか、アキラにはさっぱりわからない。

 ただ緊迫した事態だということだけはアキラにもわかった。


「込み入った話なら、オレは帰ろうか?」


 アキラがイスから立ち上がろうとすると、マナブが首を横に振った。


「いや、ここにいてくれ。アキにも関係あることだから」

「えっ、オレ……?」


(オレにも関係あるヤバイ話って…一体なんだ……?)



 その頃。

 ユキはサロンのカウンターの中で、パソコンに向かっていた。

 エプロンのポケットの中でスマホが震えているのに気付き、ユキはスマホを手に取った。


(タカヒコさんからか……)


 タカヒコから、仕事が終わったら会えないかとメールが届いている。

 マナブは警察に行こうと何度も言ってくれたけど、ユキはやはり気が進まない。

 それに今のところまだ実際に被害を受けたわけではないけれど、結婚をチラつかせれば簡単に落ちるバカな女だと、カモにされていたことは悔しい。

 だからユキは、自分の力でタカヒコと決着をつけることにした。

 元々、たいした恋愛感情なんてなかった相手だ。

 別れることになったところで痛くもかゆくもない。

 むしろ厄介払いができて清々するだろう。

 ユキはこの間のバーで会おうと返信して、スマホをポケットにしまった。


「ん……?」


 なんとなく視線を感じて、ドアの向こうを見た。

 しかしサロン前の通りに特別変わった様子はなさそうだ。


(……やっぱり気のせいかな?)




 その頃。

 八代の話を聞いたアキラとマナブは、全身から血の気が引く思いで愕然としていた。


「なんだそれ……?」

「まさかホントにそんなことが……?」


 八代は調査書類をマナブに手渡してため息をついた。


「オレも最初は戸惑ったよ。別々の件を追ってたら繋がったんだからな」


 マナブは調査書類に目を通しながら、八代から聞いた話を頭の中で反芻した。


「これ完全にまずいよな……。アキ、どうする?」

「どうする?って言われても……。オレもどうしていいかわかんねぇよ」


 とりあえず落ち着こうと、アキラはタバコに火をつけた。

 八代はビールで喉を潤して、眉を寄せた。


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