うまくいかない恋の話 ③
中学時代、ヤンキー仲間の間では、まるでローテーションのように、誰かと誰かがくっついたり別れたりを早いペースで繰り返していたけれど、ユキはその中の誰とも付き合わなかった。
もちろん付き合おうと言う誘いがなかったわけではないけれど、誰に対しても『好きな人がいるから付き合えない』と言って断っていた。
それはたしかに嘘ではなかったが、一時の気の迷いで友達を失いたくないと言う理由の方が大きかった気がする。
一度恋愛対象として付き合った人と、別れた後に友達に戻ることはできない。
それはアキラも同じだったのか、ユキはアキラが仲間内の女の子と付き合っている姿はあまり見なかったように思う。
しばらくの間、二人でお酒を飲みながら他愛ない話をした。
ほどよく酔いが回ってきた頃、ユキはサロンを出る前のことを思い出した。
「そう言えばさぁ……サロンから出る少し前にも、無言電話あったわ」
「またか」
「私が電話取った時ばっかり、今日だけで5回だよ。なんか見張られてるみたいで気味悪くない?」
アキラは怪訝な顔でタバコに火をつけた。
「あー……たしかにな。ここまで来る時は大丈夫だったのか?」
「特に何もなかった」
「まぁ、用心するに越したことはねぇな。迎えに来てくれるやつの一人くらい、いるんだろ?」
ユキはジントニックを飲みながら少し考える。
そんなこと、タカヒコには到底頼めそうもない。
「うーん……そんな親切な人はいないんじゃない?」
「付き合ってる男、いるんじゃねえの?」
「いるっちゃいるけどね。住んでるとこ、少し遠いし。忙しい人だから、そんなこと気軽に頼めないよ」
「なんだそれ。つまんねぇ関係だな」
アキラは少し呆れたように呟いてから、ばつが悪そうにグラスのビールを煽った。
(つまんねぇ関係って……オレもユキのことは言えねぇか……)
とりあえず何かが起きるとは限らないが、ユキの彼氏がすぐに駆け付けられないのなら、自分は近くにいることだし、少し気を付けてやった方がいいなとアキラは思う。
「まぁあれだ……。どうしようもない時は連絡しろよ。迎えに行くくらいはしてやるから」
「ん?優しいじゃん。どうしたの、急に?」
ユキが少し茶化すように笑ってそう言うと、アキラは眉間にシワを寄せてため息をついた。
「うるせぇな。やっぱやめた」
「ウソウソ、ありがとね。もしもの時は頼むわ」
「最初っから素直にそう言え、バーカ。ビールの1杯くらいはおごれよ」
「報酬たかるなよ!」
マナブはカウンターの中から、相変わらず憎まれ口を叩きながらも仲の良い二人の様子を見て笑っている。
「なぁ、オマエら付き合っちゃえば?案外うまくいくんじゃね?」
マナブが笑いながらそう言うと、アキラとユキは散々言われ続けてきたその言葉にうんざりして、同時にため息をついた。
「マナまでそんな冗談やめろって」
「そうだよ。アキとは有り得ないでしょ」
マナブは少し首をかしげて考える。
「何が有り得ないの?」
「今更、アキとやらしいことするなんて考えられない」
ユキが真顔で答えると、アキラは口の中に含んだビールを吹き出しそうになった。
「バーカ、それはこっちの台詞だ!!オレだってこんな色気もへったくれもねぇやつとは無理だっつーの!!」
「だから案外って言ってんじゃん。一度くらい試してみなきゃわかんねぇだろ?」
マナブが涼しい顔をしてそう言うと、アキラはまたため息をついた。
「試す気はない」
「私だって試される気はない」
「ふーん?オマエらおもしれぇなぁ……」
「どこがだよ……」
アキラは小さく呟いて、グラスに残ったビールを飲み干した。
「おいユキ、そろそろ帰んぞ」
「えっ、もう?」
「これ以上ここにいたら、色ボケバーテンダーに毒される。家まで送ってやるから、とっととそれ飲め」
なんだかんだ言って、やっぱりアキラはユキの彼氏みたいだと思いながら、マナブはニヤニヤ笑っている。
「オレが送ってあげてもいいんだけど?」
マナブの一言に、アキラは眉をピクリと動かしてユキを見た。
「だってよ。マナに試される覚悟があんならそれでもいいぞ、ユキ」
「いや、相手が誰でも試される気はないから」
ユキが少し急いでジントニックを飲み干すと、マナブはおかしそうに笑った。
「オレ、そんな鬼畜じゃねぇし!ベッドでもかなり紳士よ?試してみる?」
「コイツ……やっぱ試す気か……!」
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