大学生と担当

「あれ? 間違えたかな」

「間違えてないよー、今日から海竜先生の編集をさせていただきます。 佐藤さんですよー」


 声は間違いなく佐藤さんなのだがおかしいだろう。 だって作家が編集? そんなの聞いたことないぞ……


「ちょっと豊浜先生何やってるんですか! 変わってくださいって!」

「ごめんね紗月くーん。 さっきのは冗談だよー」


 どういうことか理解できず俺は混乱していた。


「ごめんなさい海竜先生。 新たに担当をさせていただきます森と申します」

「あ、これはこれはご丁寧にありがとうございます!」

「それでなぜいきなり電話を?」


 あ、佐藤さんの話のせいですっかり忘れていた。 夏コミに名前を出していいかだったよな。


「森さんはサザンドラと言うサークルは知っていますか?」

「ええ、存じておりますが…… それが何か?」

「実は今度の夏コミでコラボをすることになりまして、名前を出してもいいかと確認しようと電話をかけさせていただきました」


 多分大丈夫だと思うが一応聞いておかないとな。 それに内容が内容だしイメージがどうこう言われるかもしれないしな。


「名前くらいなら全然いいと思いますよ? それにペンネームは作者さんのものですし私たちが口出しできることでもないですから。 ただサザンドラですか」


 森さんは意味ありげな感じで黙ってしまった。 過去にサザンドラ関係で何かあったのだろうか。


「何か悪いことでも……?」

「いえ、海竜先生がサザンドラとコラボなさるんですよね?」

「そうですが……」


 やっぱり何かまずいのだろうか。 あまり大事にならないといいが……


「でしたらお願いしたいことがありまして」

「森さんが言うことなら何だって聞きますよ!」


 これで打ち切りになんてなったらシャレにならないしな。 今後の生活や貯金がかかってるんだ。 お願いの一つや二ついくらでも聞いてあげよう。


「私も夏コミに行くのでサザンドラの新刊を二十部ほど追加で取り置きをお願いできませんか?」


 ん? 今なんて言ったんだ? 二十部ほど取り置き? 


「森さんってもしかして……」

「私はサザンドラの大ファンなんです! うちの宝である海竜先生を貸す代わりに頼んでみてください!」

「えっと、はい。 言っておきます……」


 新担当編集さんが腐女子だったショックは置いておいて、俺は夏コミに参加できるようだ。


「どうだったの?」

「二十部予約入りました。 名前は森さんでお願いします……」

「あらあら。 まいどあり?」


 本当にごめんなさい日向さん。 うちの編集が……

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