大学生と海
「ほらつっくん! うなだれてないで早く行こー!」
「そうよー! せっかく海まで来たんだから元気出しなさい」
「なんでそんなに元気なんだよ……」
動かなくても汗ばんでくるほどの暑さに加えてやけに元気な両親と未来。 俺は駅の前の日陰から動けないでいた。
未来は夏らしい白のノースリーブにストレッチ生地のジーンズを履いている。 服を見ているだけなら涼しげなのだが未来は動き回っているため暑苦しくて見ていられない。
「つっくん! 海まで行けば涼しいよ!」
「わかったよ……」
これ以上粘ってもどうせ行くことになるなら、と俺は日陰をあきらめて歩き始める。
江の島駅から海水浴場までは近く、思ったよりも汗をかくこともなく海に着くことができた。
「じゃあ私たちは着替えてくるからつっくんたちも着替えてきてね!」
「え、俺水着なんて持ってきてないけど……」
未来は俺の言うことを聞くことなく海の家にある更衣室へ向かって行ってしまった。 父さんも知らぬ間にいなくなっているしすることもないので海の家の中で涼んでいることにした。
何も考えずにぼーっと海で遊ぶ人を見ていると、
「きゃー! ゆう君やったなー!」
「そっちだってやっただろー、おりゃ」
見覚えのある二人組がちゃんとリア充しているのが目に入った。 俺は気のせいだろうと思い目をこする。
しかしそれは幻覚ではなく本物の雄二と舞先輩のようだ。 俺は開いた口が塞がらず放心していると二人は俺の存在に気づいたようですたすたと速足で俺の方に向かってくる。
「紗月君! なんか恥ずかしいから今見たこと全部忘れてくれやしないか?」
「無理ですね。 ばっちり脳裏に焼き付いちゃってます」
「なら頭に強い衝撃を……」
二人は顔を赤くしながら俺に弁解してくる。 雄二に関しては海の家のベンチで俺を殴ろうとしている。
頼むからそれだけはやめてくれ。 記憶どころか俺ごと消えちゃうから。
「まあ二人がラブラブなのはわかりましたから。 それで二人も旅行に?」
「う、うん! 二人でゆっくり遊ぶつもりだったんだけど思わぬところで出くわしてしまったね」
「そうですね。 先輩たちのお楽しみを邪魔しちゃってすみませんね」
先輩はいいのだが、彼女とイチャついている雄二はイラっとしたので皮肉っぽく言ってみた。
「本当だよ…… 恥ずかしさで今にも海に飛び込んでしまいそうだよ……」
「そしたらきっと雄二が助けてくれますよ」
と言うか俺が蹴飛ばしてでも海に突き落とすんだけどな。
「おまたせー! ってあれ? 雄二に先輩じゃないですか!」
「おー! 未来ちゃんじゃないか!」
二人は手を合わせてキャッキャッとはしゃいでいる。 舞先輩はパレオで未来は赤と白のビキニを着ている。
その様子を見て俺と雄二は固く握手するのだった。
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