大学生と紅い葉

「あなたねえ! 大人に向かってなんて口の利き方なの!?」

「す、すみません。 あまりにも頭に来てしまったので衝動で動いてしまいました」


 クソババアは顔を真っ赤にして怒っている。 どうやらクソババアと言われたのが相当気に食わなかったらしい。


 未来はというと俺の方を心配そうに見つめている。 俺は未来を安心させるためニコッと笑った。


「この期に及んで笑顔ですって!? あなた一体どんな教育を受けてきたの!?」

「そうですねえ、少なくともヒステリーにならない程度には」


 俺は腹に溜まったものを出すように最大級の皮肉を込めてそう言った。 すると反論ができないのか彼女はキッと俺のことを睨みつけた。


「だいたい名前くらい名乗りなさいよ! 聞いてもどうせしょうもない名前なんでしょうけど!」


 それを言った瞬間未来が反論しようとしたが俺は手を未来の前に出しそれを止めた。 未来は汚い役を負ってはいけない。


 そう思った俺は胸を張り堂々と答える。


「俺は開隆紗月です。 小さい頃から未来さんと関わりがあったので知っておられるんじゃないかと」

「あなた…… やっぱりあのチビだったのね。 なら言わせてもらうわ、あなたが私に口答えできる立場なのかしら?」


 俺の皮肉がそんなに気に食わないのか常に棘のある言い方で俺に反論してくる。 それにこの人には未来のご両親の遺言と言う盾がある限りこの人には何を言っても無駄だろう。


「そこまで言われると家庭の事情なので口出しはできないで」

「でしょう!? だからあなたはこれ以上口出ししてこないで! これは私と未来の問題なの!」


 話は最後まで聞きましょうよ…… そんなんだから俺のイライラが溜まっていくんですよ。 相手が雄二だったら気兼ねなく殴れるんだけどなあ。


 俺の頭は沸点を超え煮えくり返っていた。 どうしたら誰にも咎められずこのアマを殴れるか、とまで考えていた。


「ちょっとお母さん! お兄さんにそんなこと言わないで!」


 しかし俺の頭を冷やすように聞き覚えのある声が聞こえてきた。 その声に驚き俺は振り向くと、そこに立っていたのは紅葉ちゃんだった。


 今、紅葉ちゃんはこのクソババアのことをお母さんと言ったのか……? ってことは紅葉ちゃんは未来の親戚ってことだよな。 やばい、頭がこんがらがってきた。


「とりあえずなんでここにお兄さんと未来さんがいるのか教えてくれますか? お母さん」

「なんでってこの子たちが勝手に」

「私はなんで二人がこんなに改まった格好をしてここにきているのかを聞いているの」


 紅葉ちゃんは険しい顔で問い詰めている。 当の母親は本当のことを話すか迷っているらしく目が泳いでいた。


 それを見て俺はざまぁみろと言いたかったが口にした瞬間俺らが負けるので断固として口を閉じていた。

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