大学生と嬌声

「あんっ! そこいいのぉ」

「あんまり声出すとまずいですって」


 豪華な住宅街の一室。 周りには大きな家ばかりで声の心配はしなくてもいいのだがこうも艶っぽい声を出されると俺自身も昂ってしまう。


 このままもっと強くーー


「ああっ! はげしぃい!」

「もう…… ちょっとです……!」


 俺はもがこうとする彼女を手で抑え込み一気にーー


「もうだめぇぇぇん!」


 彼女は全身を震わせると力が抜けたようにベットに伏してしまった。


 状況だけ見ると完全に浮気じゃねえか。 俺はただ相談料として佐藤さんの肩をもんでいただけだぞ?


「ん、激しかったわねぇ。 どうもありがとぉ」

「いい加減そのキャラやめてもらえますか? 晒しますよ?」

「すみません師匠。 私が悪かったです」


 佐藤さんは俺のことを時折師匠と呼ぶ。 俺としては佐藤さんの方が師匠なのだが昔からそうなので気にすることはなくなった。


 元の話から脱線してしてしまったな。


「それで佐藤さん、俺はこの後未来の後ろにいればいいわけですか?」


 俺が真面目に聞くと、


「そうね、今は君が出る幕じゃないわ。 それによく言うじゃないヒーローは遅れてやってくるって」


 と、真面目なトーンで返してくれた。 やはり大事なところはちゃんとしている人だな。


「それにヒーローとして未来ちゃんを助けてあげれば一晩や二晩くらいなら余裕でしょ?」

「なんで話をそっちにもっていくんですか……」

「なあに、例えの話よ。 三年一緒にいていまだにチェリーの紗月君?」


 ぷち


 あ、なんか切れちゃいけない線が切れた気がする。 心なしか手が軽いぞ?


「まあ、未来ちゃんなら最終的に君を頼るだろうけどね。 要はでいいのよ」


 急に話が戻ったから俺の大事な線は元に戻った、気がする。


 あとで、お礼として馬糞でも送ってあげようかな。


「保険ですか…… そう思うと未来を見ていて心配と言うか……」

「大丈夫よ、彼女は強い。 それに君と離れることなんて絶対にないと思うしね~」


 最後の方は多少なりともふざけてはいるが佐藤さんは俺の目をまっすぐ見てそう言った。 俺はその言葉を素直に受け止め、再び決心する。


 絶対に未来を守ってみせる。 未来が少しでも俺に助けを求めた瞬間、俺は何でもするとここに誓おう。


「うん! いい目になったな、少年! それなら大丈夫そうだ」

「おかげさまで考えが変わりました。 この度はありがとうございます、豊浜先生」

「ペンネームはよしてよ…… うん、海竜先生こそ編集さんを困らせに程度にね」


 俺は荷物をまとめて佐藤さんの家から出る。 決心も着いたことだし、これからはサポートにでも回ってみよう。


 で、どうやって帰ればいいんだっけ。


 こうして妙に自信に満ちた高級住宅街でうろうろする迷子が生まれました。

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