大学生と暗闇

「ねえねえつっくん」

「ん? なんだ?」


 風呂からの帰り道、薄暗くなった外を眺めながら歩いていると未来が話しかけてきた。


 せっかく灯篭を眺めていたのに。 意外ときれいなんだぞ。


「つっくんって嫌にモテるよね」

「そうか? そんなことはないと思うが」


 だって未来以外に彼女なんてできたことないんから。 それに俺のスタンスは来る者拒まず去る者追わずだし。


 それに学校では日向以外名前を覚えてない。 我ながらなんと陰キャなんだろう。


「いやそうだよ。 だから私がいるときは絶対にデレデレさせないからねー!」

「誰がデレデレしてんだよ。 俺は未来さん一筋ですー」


 それを言った瞬間、未来さんはゆでダコのように赤くなった。


「急にそんなこと……」


 自分で言わせたようなもんじゃねえか。


「俺が未来以外とくっつくなんて今のところは絶対にないから安心しろ。 それに未来よりいい嫁になりそうなやつを俺は見たことないしな」

「つっくん…… それ以上は恥ずかしぬからやめて……」


 珍しく未来が照れているので追い打ちをかけてみた。 思いのほか効果抜群だったようで未来さんは赤い耳を見せながらうつむいて黙り込んでしまった。


 花火大会のお返しだな、と思いつつ静かな未来の頭を撫でてやる。


「んん…… こんな時ばっかずるい」

「たまには照れるのもいいだろ? いつも好き好き言われる俺の気持ちがわかったか」

「むー」


 未来はむくれてしまった。 でもその姿も可愛いので俺は無視して放っておく。


「もう、つっくんのことなんか大好き」

「そこは大嫌いだろ」


 それに文がおかしいだろうが。


「だってつっくんにそんなこと言えないもんー」

「そりゃどうも。 それより今からちょっと散歩しないか?」

「んー? なんでー?」


 疑問に思ったのか未来が聞いてきた。


 俺自身夜風にあたりたいのもあるのだが旅行の最後と言うことで記念に行ってみたい場所があった。


「この旅館の近くに町が一望できる場所があるらしくてな。 涼みがてら行こうかと」

「いいねー! 行こうよ!」


 良かった。 未来のことだからもう疲れたー、とか言い出すと思っていた。


 俺と未来は部屋を通り過ぎ裏口から旅館を出た。 あたりは真っ暗になっていてスマホのライト機能を使って足元を照らす。


 旅館の裏ってだけでこんなにも暗くなるもんなんだな。


「未来、暗いから離れるなよ。 ってあれ?」


 俺が後ろを向くと未来の姿はなく呼びかけても返事がない。


「おい未来ー。 からかってないで出てこいー」


「おい未来? いるんだろ?」


 何度呼び掛けても返事は返ってこない。


 とりあえず未来のスマホに電話をかけてみるか。


『おかけになった携帯は現在電波の届かないところにあるか電源がオフになっております』


 嘘だろ。 こんな時にいなくなるなんて……


 俺は暗闇の中走り出した。




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