灰色の青春だったのに、いきなり女の子に囲まれました。
サラマンダー
第1話 プロローグ
――その日。
俺はすべてが終わった後で、『あいつ』が待ってる教室のドアを開け放った。
「……」
『あいつ』は、教室の中で1人座っていた。そして俺の方を見るなり、あいつはにこりと笑った……
───────────────────────
「……」
出かけた帰り、久々にゲームセンターに寄った『俺』。灰色のショートヘアに、どこにでもいるような顔立ち。
ここ1年間以上、特に何にもなかった。まぁ、何もなかった理由はいろいろとあるんだけどさ。それはおいおい説明するってことで一つ頼む。
……おっと、俺の名前は灰島 奏多(はいじま かなた)。まぁ、どこにでもいる高校生だ。勉強には自信あるけどな。今は休日を利用して、つかの間の休息を謳歌してるところだ。
「……やっぱコンピュータ相手じゃ、もはや相手にもなんねぇなぁ」
大きく伸びをする。
勉強やってる合間合間にゲームをやってるんだが、まぁこれが思ってた以上に息抜きになるからな。割とハマっている。特にこの格闘ゲーム『ジャスティスブレイバー』とかな。
まぁ軽く遊んでるつもりだが、他の奴らよりもうまい自信はある。と言うか自信しかない。
問題はこのゲームを俺と一緒にやってくれるやつが世界中どこ探してもいないことだけどな!あは!あはははは……
『HERE COMES A NEW CHALLENGER!』
は?
画面には、確かに『挑戦者現る』の意味を表す言葉が出ている。だが、このゲームの乱入者の条件はまだ満たしていない。
だとしたら誰が……と考えているうちに、隣に誰かが座る。
「……ごめん。了承もなく」
隣に座った誰かは、水色のパーカーのフードを目深に被っていた。首元からはコードレスのヘッドホンを下げており、何より背が小さい。子供……か?
「あ、あぁ……別に、構わねぇけど」
「……ありがとう」
隣の機体の画面を見ると、その子供はパワータイプのキャラクター『ギガス』を選んでいた。
おいおい。冗談だろう?俺はスピードタイプのキャラクター、『シラヌイ』を選ぶんだぜ?
あ、わかった。この子、この手のゲームによくいる『攻撃力が高いキャラ=強いキャラ』と思っている初心者だ。
「カラー、変えなくていいの?」
「え?……あぁ」
なら、多少は年上らしく少しは手加減してやらないとな。
「ハンデを」「いらない」
俺の言う事を遮る子供。……上等だ。後悔するなよ。
俺はこのゲーム、もう50時間はやっているんだ。今更こんな子供相手に負けるわけがないだろう。
「まぁ、背伸びする初心者相手も、俺の仕事だよな。てことで……遠慮なくやらせてもらうぞ」
そう、遠慮なく……
遠慮……なく……
遠慮……
『K.O!Player2.WIN! Perfect!!』
このナレーションが表す通り、完・敗。
その子供は、表情は見せなかったが、にこりと笑っているようにも見えた。
いやいやちょっと待て、仮にも俺は主人公だぞ。こういうストーリーって主人公側が勝つんじゃないのか!?
「……遠慮なく……やるんじゃなかったの?」
あぁ、やめて!この結果に塩を塗らないで!
「い、いや、今のはたまたまだ!もっかいやっていいか!もっかい!」
「いいよ。プレイヤー同士の方が楽しいから」
余裕が見える。……クソ、このまま子供にやられっぱなしでいられるか。こうなったら……意地でも勝ってやる!
『Perfect!』『Perfect!』『Perfect!』
……うん、目標は高く持たない方がいい。こうなったら……意地でも半分減らして
『Perfect!』
「があああぁぁ」
……結果、連コインで2000円ほど溶かした。
「必要以上にジャンプしすぎ。投げ抜けを使わない。暴れが読みやすすぎるから何のための暴れかわからない。コマンド強技を使い過ぎている。敵がジャンプするのを見てから飛び道具を使う。……正直、うまいと思えない」
めちゃくちゃ冷徹に言われるので腹も立たない。でも……なんだこの子供……!?まるで歯が立たない。
「う、うっさい!これでもコンピュータ相手には今日は無敗だ!」
プライドが反論と言う行動に走らせるが、
「それはコンピュータ相手だから」
あきれ返るほどの正論で格ゲー的にも、リアル的にもトドメをさされた。
そしてその子供はスマートフォンを取り出し、待ち受け画面を呼び出すと、突然びくりと肩を怒らせる。
「……まずい、もうこんな時間だ。寄り道しすぎてしまった」
と、立ち上がり、エコバッグのようなバッグを持ったと思うと、
「……ありがとう。楽しかった」
大急ぎでゲームセンターを飛び出していった。
その時、パーカーがめくれ上がり、青色のショートヘアと、その天頂から生えるくせ毛が露わになった。
「なんだったんだ?あいつ?」
我に返ったように、財布を開くと、そこには……
「……」
ノーマネーで、フィニッシュです。
翌日……
「あ、お兄ちゃん、おっはよー!」
灰色の髪をシニヨンにした、妹の灰島 空(はいじま そら)が俺に声をかける。
あぁ、月曜日の朝はいい。また学校に行けるっていう幸運に包まれるのだから。
もっとも空はそうは思ってないようだが……だって……
「あぁ、おはよう」
月曜日はテンションの低さから、トースト1枚になるから。
「お前、ちょっとはやる気出してくれよ。これから俺電車に揺られるんだぞ?」
「う~、ごめんお兄ちゃん。でもいまいちテンションが上がんないあたしの身にもなって」
「しょうがないな……たく」
こいつの勉強嫌いは相当なものだ。でもテストでは平均点以上を取れてるから頭が悪いわけじゃない。
「親父と母さんは?」
「父さんは今日もお仕事、母さんも同じだよ」
「たく……2人して仲いいなおい」
父も母も、まったく同じ時間に仕事をしている。朝早くから夜までの時間は、この家には誰もいない。
……そう、あの時も……
――ボクがやったんじゃない!やったのはあいつです!
――な、何言ってんだよお前!お、おい!みんな!見ただろ!こいつの悪事を!
――嘘、だよね、灰島君……信じらんない……
――お前……こんだけやってただで済むと思うなよ……?
――やだ、近付かないでよ!
「空ちゃん、パーンチ」
「いで!」
突然の猫パンチに俺の意識は戻される。
「早く食べないと置いてっちゃうよお兄ちゃん!」
「わかった、わかったよ!」
市立 昇陽学園高校。
どこにでもある、普通に普通で普通過ぎる高校。
そこに俺は電車通学している。まぁ、電車通学と言ってもモノレールなのだが。
そして登校直後に、難関が待っている。
「おはようございます!」
黒いツインドリルヘア、そして厳しい表情を登校する生徒たちに向ける女……同じクラスの黒嶺 麗華(くろみね れいか)だ。
4月に俺は訳あってこの学校に転校してきたのだが、その時からずっとこいつは俺に目を付けてきている。
しかも毎週月曜日は毎回校門の前で仁王立ちして待ってんだもんなぁ……
「おはよう黒嶺。じゃ」
「……あなた、なんでそんなそっけないんですの?いつもいつも」
にらむ黒嶺。
「……仕方ねぇだろ」
「仕方なくありません!朝の挨拶と言うのはとても大切なのですよ!?もっとハキハキとおはようございますと言えないのですか!?」
「言えない」
そのまま学校の中へ。背後で黒嶺が地団駄を踏む音が聞こえた。
「おはよー!」「おはようございます」「おはよう」「おーっす」
教室の中に生徒の喧騒が響く。そんな中でも、俺は予習を欠かさない。
どうせ俺を気にしている奴なんて、誰一人いないだろう。……いないでいてほしい。とも思うが。
しかし夏休みが終わって、9月も半ばを過ぎたというのに、まだまだ暑い。こんな中での授業は(エアコンがあるとはいえ)それなりに地獄だ。
「おいおい、聞いたか?……このクラスに、転校生が来るんだと」
「灰島に続いて二人目かぁ。また男か?」
「それが、女の子らしいぜ女の子!」
「こんな短縮授業でもない日に転校してくるとか、どうすんだよその子。かわいそうじゃないか?」
「静かにしろー」
相変わらず音楽室の額縁に入っていそうな、そんな見た目をしている。あだ名は『モーツァルト先生』だしな。
「えー、知っている人は知っているだろうが、今日はこのクラスに転校生がいる。入りたまえ」
ガラガラと、教室の扉が開け放たれる。そして、その少女が入ってくる。
瞬間、俺は驚きのあまり立ち上がりそうになった。
モーツァルト先生は黒板に文字を書いていく。
「転校生の、青柳 凛(あおやぎ りん)さんだ。さぁ、挨拶をしたまえ」
「青柳、凛です。よろしく、おねがいします……」
パチパチと、まばらな拍手。いや、そんなこと考えてる場合じゃない!
間違いない、この青い髪に、あのくせ毛……!
「お前、昨日の……!?」
俺は立ち上がり、そして同時に立ち上がったことを後悔した。
ここ、なんて言えばいい?昨日ゲーセンでボコボコにされた。とか、そんな感じの事か?
「あぁ。シラヌイ使いの人」
「な、なんじゃ?シラヌイ?」
いざそう言われてみると、俺は言葉を紡げなかった。理由?……恥ずかしい。
「では……そうじゃな。灰島の隣が空いておる。そこに座りなさい」
「へ!?」
「はい」
椅子を引き、俺の隣に座る。……てか、女の子だったのか……昨日会った時顔隠してたし何より胸がないから気付かなかった。
「あ、青柳。よろしく」
「……うん。よろしく。灰島君」
――灰島君 灰島君 はいじまくん はいじまくん ハイジマクン ハイジマクン
俺、この学校で初めて、女の子に、名前呼ばれた!
俺は激しく舞い上がりそうになって……なんとかぐっとこらえる。
いやいや待て待て、高々女の子に名前呼ばれただけだぞ。何を舞い上がる必要があるんだ。
……その日の昼休み。
「さてと……」
学食に行こうとする俺、すると青柳が何かを取り出す。……弁当箱だ。
「……あげないよ?」
「あ、いや、悪い。欲しいわけじゃないんだ」
でも、欲しいと言っていたらどうなっていたのだろう?それに女の子のお弁当箱だ。気になりはする。
申し訳なく思いつつ、俺は流し目で見る。青柳はパカッと、弁当箱を開けた。
白いご飯。どこまでも続く雪原のように盛られた、白いご飯。その色どりを飾る赤い梅干し……
「日の丸弁当!?」
俺は思わず大声を出した。
「灰島君、うるさい」
「あ、ご、ごめん……」
いや、なんでこんな女の子に日の丸弁当食わせてるんだよ!青柳の親は人並み外れた面倒くさがり屋ですか!?
それとも何か!?世にいう『炭水化物だけダイエット』ですか!?いや炭水化物だけダイエットってなんだよ!
そう驚いているうちに、青柳はこちらを見ずに……
「……学食に行くんじゃないの?」
と、白いご飯を口に運びながら言った。
「あぁ、そうだった。あはは。悪い。悪いな、青柳!」
俺は学食に向かって走りだした。
そう、何の変哲もない『転校生』との出会いだった。
それが、灰色の俺の青春に……少しずつ色を持たせていくんだ。
俺の色のないキャンバスに、『青色』が加わって……これから色が増えていく。
問1.『世に完璧な人間などいない』と言うたとえを、漢数字の『二』を使ったことわざで答えなさい。
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