ふわふわと浮かんで。


 先に降りている彼のところへ。


 彼の胸に。


 飛び込んだ。


 慣性で抱き合って、ごろごろと転がる。


 人口芝のグラウンド。


 ゴムチップの、感触。


「なんだよ、これ」


「通販で買った、リュックサック。二個セットだと安かったの。パラシュート付き」


 彼。泣いていた。抱き合って。頬をお互いにくっつけて。喋る。


「あなたは、しにたいわけじゃないのよ。生きたいのよ。わたしも。わたしもそう。あなたと、生きたい」


「でも、俺は。正義の味方だから。そういうやつに、幸せな生活は、できない」


「誰が決めたの」


「そういう、ものだからさ」


「じゃあ、正義の味方じゃなくていい。わるい人でいい。だから。わたしと一緒にいて。しなないで。しなないでよ」


「わるい人間、か」


 彼のなみだ。わたしの頬にぶつかって、流れ落ちる。あたたかい。


「俺は。正義の味方のまま、しにたい」


「うん」


「でも、きみとも、一緒にいたい」


「うん」


「俺は。どうしたらいい。今のまましにたいのに、きみと、一緒にいたい」


「わたしも。正義の味方に。仲間に入れてよ」


「それはだめだ。きみを危険に、さらしたくない」


「勝手に屋上から飛び降りるあなたが、それを言う資格は、ないよ?」


「だしかに。たしかにそうだな。俺には、きみを止める権利がない」


「わたしは。あなたといたい。それだけ」


「俺は。正義の味方でいたい。君とも一緒にいたい。もうなんか、よく、わけがわからない」


「ねえ。聞いて」


 抱き合ったまま。体勢を入れ換えて。私のほうが、上になる。ゴムチップの、感触。彼の顔。下になる。


「あなたは。しにたかったわけじゃない。飛び降りたかった、だけよ」


 感情の栓が、外れてしまっただけ。だから。


「いまのあなたは、しにたいとは、思ってない。すっきりした気分のはず。だから」


 顔を近づけて。


 キス。


 あたたかい。


「だから。わたしと一緒にいて。これからも、ずっと」


 もういちどキスをして。


 何度も。何度も。もういちど。


 話し始めようとした彼の口を、ふさいでいく。


「わかった。わかったよ」


 彼。


「好きだ。これからも、ずっと。一緒にいたい」


「わたしも。好きです」


 立ち上がる前に、最後に。もういちどだけ。キス。


 あたたかくて、やわらかかった。


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