わたしの心に飛び降りて

春嵐

01.

 屋上に、人がいた。


 ようやく全ての高校過程を終えて、あとは出席日数を稼ぐだけになった。高校一年の春。


 その人は、ずっと、屋上で、校庭を眺めている。体育の授業もないらしく、誰もいない校庭を。人工芝の、グラウンドを。


 声をかけようと思ったけど、なんか、雰囲気が、好きになった。だから、少し離れたところで、わたしも校庭を眺めることにした。


 あと2年と10ヶ月ぐらいの高校生活。どこでどうやって過ごそうかと校内を探索しているところだった。単位さえ取ってしまえば、あとは自由。


 もともと、他の人よりちょっとだけ、頭がいい。それだけだった。頭がいいからと言って得をすることは、あんまりない。一応おかねを稼ぐことには役立ったので、家族も親戚もいないけど一人暮らしができている。


 男子生徒。制服では、先輩か後輩か分からない。昨今の差別撤廃意識改革とかいうよく分からない流れで、制服はユニセックスだった。それでも、女子はスカートを好んで履くし男子は詰襟。差別撤廃といってるくせに、使いにくさを押しつけてくる。


 屋上から見える景色。

 何もない校庭だと思ったけど、風が、心地いい。校庭の端のほうにある木々も、揺れているのが見える。


 決めた。


 これからの2年10ヶ月。ここで過ごそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る