妹の味がする!!!
吉長吉明
妹の味がする!
「キモいッ!!!!!!!!!!!!!!!」
青空に浮かぶ雲を突き破って宇宙の彼方へと抜けるような音とともに、軽快な平手打ちが男の頬を打った。
男の名前は三上勇輝、大学二回生の二十歳である。この男、生まれた時から現在に至るまで女性と付き合った経験がない。彼は決して臆病な性格ではなく、寧ろ積極的な部類の人間である。特別人に嫌われるような性格ではなく、容姿も悪いと言うことはない。ファッションや髪型、体臭なども気をつけているつもりだ。にも関わらず、彼が告白に成功したことは一度もない。
彼にとって初めての告白は中学二年生の時だった。相手は当時結構仲が良かった女子。校舎裏に呼び出す、という漫画みたいなシチュエーションで思いを伝えた彼に帰ってきた言葉は、「ゴメン、きもい…」。あまりに唐突でショッキングなワードにポカンとした表情を浮かべた彼は、空が夕焼け色に染まるまでその場から動けなかった。家に帰った彼は、その日から一ヶ月くらい自分のキモさについて考えたが精神がすり減ってギリギリになるだけだった。ついでに出席日数もギリギリになった。
しかしながら、人間とは過ちを繰り返す生き物であり、例に漏れず彼もその一人だった。時間が心の傷を癒し、中学三年生の時に別の女の子に告白。帰ってきた返事は「きもい」。こんな事を繰り返しているうちに、彼のメンタルは段々と鋼鉄のような硬度を誇るようになって行ったのだった。
そして、大学二回生の夏、現在。
「まただめだったな… 今回も理由はキモい、か」
そう、彼が告白を断られる時の決まり文句は「キモい、きもちわるい」に限定される。
「だあああああああ!!! 俺のどの辺がキモいってんだ! 言ってみやがれチクショー!!!」
大学からの帰り道、一本道の路地の真ん中でヤケになり叫んだが、アドバイスをくれる者などいない。気持ち悪いよりキモいの方がダメージ少ないよな、なんて自虐的な分析を行なっていると、突然、頭上を黒い影が覆った。
「!! 何だ、鳥!?」
彼は上を見上げてそう言ったが、直後に鳥にしてはデカすぎると思った。明らかにデカい。まるで人間のサイズくらいありそうな……。そのデカい影は路地の向こうまで行くといきなり縦にUターンし、彼の目線と水平に位置した。その影までは結構距離があるので、彼は目を凝らして正体を突き止めようとし、そして気づいた。最初、それは止まっているように見えたが実際は移動していた。真っ黒な翼を使って滑空するように、ハイスピードでこちらに向かってきている。咄嗟に横へ避けようとして、その正体が見えた。
「人…間…?」
すぐ近くまで接近したその影の正体は、明らかに人の顔と呼べるものを持っていた。いや、それだけでは無い。背中に伸びる真っ黒でデカい翼を除けば、その影は人間そのものだった。彼は一瞬硬直し、そしてその数秒間の静止が運命を左右した。
「痛っっっっってええええ!!」
鋭い痛みが右腕を襲った。反射的に視線を右腕に向けると、ガブっという擬音が世界一似合うような豪快なかじりつきをかましている先ほどの「影」がいた。咄嗟に腕を振ると、「影」が彼の腕から口を離し後ろへ飛び退いた。「影」の静止した姿をようやく確認した彼は、驚愕した。
「女の子…、に翼……?」
対して、彼の腕にかぶり付いた漆黒の翼系女子は、地球の裏側まで届くような爆音でこう叫んだ。
「妹の味がする!!!」
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