第2話 封印の洞窟と聖剣(オレ)-後編-


 “邪神竜・ヴィルガライズ”と名乗ったドラゴンの化物は、見せつけるように大きな口を開いた。


 生き残った3人の女性たちは、邪神竜ヴィルガライズの威圧と圧倒的な力の差を感じ取り、恐怖に臆して金縛りにされたように動けなかった。

 エルフの女魔導士は涙目となり、獣人の子は腰が抜けて失禁していた。


 一歩でも動けば男冒険者のように瞬殺されるだろうが、彼女たちの命は時間の問題だった。


「喰ウニ邪魔ダナ・・・」


 邪神竜は己の尻尾をあやつり、器用に女剣士の鎧や服だけを切り裂いた。

 女剣士は恐怖で身体が金縛りにされたのか悲鳴すらあげられず、為す術もない。


 邪神竜は生きたまま女剣士を食べようとしていた。

 その理由は得られる魔力が損失しないからだ。あと、生きたまま食べることの方が好みのグルメだった。


 一方、邪神竜が出現して、あっという間に男冒険者が死んでしまうという、怒涛の緊迫な展開についていけず、思考回路がしばらくショートしていたが、やっと意識を取り戻す。


 今まさに人間が踊り食いされる危機的状況。

 元人間の身として、なんとか助け出したい感情はある。


(結構、可愛いしね)


 だが剣の身として手も足も無い状態で、こちらも為す術もない。


 これから起こる惨劇をただ眺めることしか出来ない―――


(ウホォォォォッッッッッーーーーー!!!!)


 邪神竜が女剣士の服を切り裂いたお陰で、形が整った乳房ちぶさが露出していた。


 童貞のままで死んだオレにとって、本物のおっぱいを生で見たのは初めてだった。

 ましてや、長い年月ずっと独りでいて、ご無沙汰というのもあってか、若く可愛い女性の美乳に、人生で初めてエロビデオを見た時よりも感情と興奮がたぎった。


 その時だった――錆びた剣のオレは突如光を放ち、浮き上がった。

 乳をさらけ出している女剣士を助けるべく、邪神竜に向かって飛び翔ける――


「グアッ!?」


 女剣士をつかもうと差し出していた邪神竜の腕を斬りつけた。


「ナッ・・!? 我ガ身体を傷付ケタ、ダト!?」


 オレは飛翔を続けては何度も邪神竜に斬りかかる。

 傷を負わせるも飛翔速度がそれほど出ていない為、致命傷を与えられない。


 だが、邪神竜は傷つけてくる錆びた剣 (オレ)に警戒して、女剣士から距離を取った。


「ソノ剣・・見覚エガアルゾ。我ヲ封ジタ憎キ勇者ノ剣……。マダ、ソンナちからヲ持ッテイタノカ・・・ダガ、持チ主ガ居ナイノナラバ、タダノ剣ト変ワランワ! 叩き折ってやるわ!」


 突き刺そうと飛翔したが、邪神竜は硬い爪で狙いすまして弾き返した。


(うわッ!?)


 偶然か必然か、弾き飛ばされた先は女剣士の前へと突き刺さった (着地した)。

 そして剣士としてか、それとも本能の行動だったのか、女剣士は咄嗟とっさに錆びた剣の柄を握った。


(え!?)


「なにこれ!?」


 女剣士が剣の柄を握ると、剣がまとっていた光が女剣士を包みこんだ。

 剣から活力とも言うべきか不思議な力が注ぎ込まれるのを感じた。


「力が溢れるというか、みなぎってくる!」


=======================

『聖剣の加護』発動中。

効果:装備者の基本能力上昇、勇壮の心構え、光の障壁展開、自動回復付与、各種耐性上昇、光属性付与、性欲上昇

=======================


 突如、オレの頭の中だけに不思議な声が聞こえてきて、なにか気持ち良い快感が身体を駆け巡る。


(どこかで聞いたことがある声だけど……というか、聖剣の加護? なんだそれ?)


 疑問に思う間も無く、邪神竜が大きな口を開き――


破滅ノ閃光ダークケイオス!」


 闇の光線 (レーザー)を吐き出してきた。


「っ!?」


(うわわわわわわわわっっっっっ!!)


 慌てふためくオレを余所よそに闇の光線の直撃を食らっても、女剣士は無傷だった。

 包み込んだ光が障壁となり一定以下のダメージは無効にしたのだ。


 女剣士は、さっきまでこの場からすぐに逃げ出してしまいたいと思っていたが、邪神竜の威圧や恐怖を感じなくなっており、今は微塵も逃げたいと思わない。

 むしろ、あの化物邪神竜を撃退しようと燃えるように意気込んでいた。


「なんだろう、身体が熱く…軽い……! それに」


 腕力や脚力、視力といった身体能力や反射神経が格段に向上しているのを実感していた。

 先程涙目になっていた瞳は狙いを定めるハンターの如く邪神竜をにらみ――駆け出した。


「ヌオオオオオッッッ!!」


 邪神竜が吼えながら繰り出す尻尾のや爪の引っ掻き攻撃を女剣士は俊敏しゅんびんな速さと身軽な動きでけていく。

 間近まで接近すると、女剣士は高く跳躍ちょうやく――


二段斬りダブルスラッシュ!!」


 瞬時に二回斬りつける技術(剣技スキルの初歩的な技)を繰り出した。

 光の属性が付与された斬撃の威力は高まっており、邪神竜の硬い鱗を切り裂き、深い傷を負わせる。


「ガアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!」


 身体だけではなく魂も傷つける攻撃。

 かつて味わった死傷ししょうの痛みに、邪神竜はみにくい叫び声をあげてしまった。

 痛みで叫換をあげるということは竜族としての誇りを汚す行為だった。


 誇りをもっともうやまう邪神竜にとって屈辱以外の何ものでもない。

 だが――かつて女剣士が手にしていた聖剣を持った勇者と戦い、敗れ、封印された苦い思い出経験が邪神竜を冷静にさせた。


「コノ我が、マタ傷ツケラレルトハ・・・許サヌ・・・。グ・・目覚メタバカリデ、マダ万全デハナイ・・・。覚エテオレ、我ノ怒リヲ。必ズヤ、チカラヲ取リ戻シ、貴様ラヲ、ソノ聖剣ヲ滅シテクレテヤルカラナ・・・」


 邪神竜ヴィルガライズは負け犬の遠吠えのような台詞をこぼしながら、身体を黒い霧に変えていき……やがて霧散していった。


 ひとまず脅威きょういが去り、緊張の糸がブチッと切れる音が聞こえてきそうなほど気が抜けて、女剣士は力無くひざを地に着き、腰を落とす。


「た、助かったの、かな……?」


 女剣士は強く握り締めていた剣を手離すと、先程までみなぎっていた力が抜けていくのが感じ取る。


 間違いなく、この剣の特殊効果によって身体が強化されたと勘付いており、ただの錆びた剣ではないとうかがい知る。


「この剣は、一体……えっ!?」


 突如、剣を中心に光の魔法陣が浮かび、再び空中に浮遊した。


(なになに??)


 現状に理解できないまま、オレは身を委ね、女剣士たちはその光景を眺めるしかなかった。


 剣は心臓を貫かれて絶命した男冒険者の亡骸へと舞い降りると、幾重の複雑の魔法陣が出現し、剣と亡骸は眩しく光りだす。




=======================

-『聖+UmM-の+WUeN4Q-』によって、+MEswboAF-を蘇生させ+MH4wWTBL-?


 はい

 いいえ

=======================



 また謎の声がオレの頭の中で響いてきた。


(なんだ? よく聞き取れなかったんだが。もう一度、言ってくれ)


 しかし、返答は無かった。


(おい!? なんだ、はい/いいえ……って、どちらかを選ばないといけないのか?)


 だが、バグっているが、蘇生とかの言葉を察するに、生き返させるかどうかを訊ねているのではと考えつく。


 あっけなく死んでしまった男冒険者を憐れみ、生き返させられるのであればと、『はい』を選んであげた。


(オレって慈悲深いな~)


=======================

-『聖+UmM-の+WUeN4Q-』を発+UtU-。

-しかし、+MEswboAFMG6bQg-は、既に+bYhZMTBXMGYwRA-るため、完+UWgwaw-は蘇生する+MFMwaDBvMGcwTTB+MFswkw-。


-+TuMwjzCK-に+MKIwyjC/MG6bQg-を、かの者に+YZFPnTBVMFswfg-すか?


 はい

 いいえ

=======================



(また、うまく聞き取れなかったな……。まあ、こういうのは再確認的なやつだろう。『はい』でいいよ。オレの気が変わらない内に蘇させてやってくれ)


=======================

-了解+MFcwfjBXMF8-。

-+MKIwyjC/-の魂を、かの+gAUwa2GRT50-させ、蘇生+MFcwfjBZ-。

=======================



(ん? な、なんだ!?)


 光りの強さが増していき、真っ暗闇の洞窟は閃光に包まれる。

 やがて、オレは意識を途絶えてしまった。



 ◇◆◇



 気を失ってから、どれだけ時間が経ったのだろうか。

 再び意識を取り戻して目を覚ます。


 ぼんやりした視界に広がるは、わずかなあか

 どうやらここは先程、化物 (邪神竜)と一戦闘ひとせんとうがあった洞窟のようだ。


(ただ、意識を失っていただけか……しかし、)


「なんだったんだ……今のは……?」


(あれ? 声が出せる?)


 剣の自分に口がある……と反射的に、手を口にあてて確かめる。


「口がある…っ!」


(いや、その前に……)


「手がある!?」


 自分の眼は両手を捉えては、その流れで胴体、下半身、足が映り込んだ。


 そして――


 女剣士、エルフの魔道士、獣耳の女子が面を食らったような、または未知で不気味なモノをを見るような表情を浮かべて、オレを見ていた。


 女剣士が震えながら言葉を絞り出す。


「な、なんで……あんた、生きているの? あの化物 (邪神竜)に胸を貫かれたのに……」


「へっ?」


 オレが着ていた鎧は左胸の箇所はポッカリと穴が空いており、男の平な胸が露出していた。


(この格好、見覚えがある……たしか、男冒険者の……!?)


 そう、オレは男冒険者に成り代わり蘇ってしまったようだ。


「なんでやねええええええええんんんんんんんんんんっっっッッッ!!!!???」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る