第171話 クマキャラの版権は問題になりがち

『ポテトヘッド。異常なし』




『エーデルワイス。異常なし』




『こちら、ルンペル! 見つかった。敵に異常に勘のいいのがいる。気をつけろ』




『こちらポテトヘッド。OK。ルンペル。想定の範囲内だ。各自、交戦に備えろ』




『フジヤマ。了解』




 飛び交う通信。




 バババババババ、とヘリの音が遠くから聞こえる。




 正式に認められた戦争ではないので、さすがに戦車や爆撃機とかまでは出てこないはずだけど、武装ヘリや装甲車程度はガンガン出てくるんだろうなあ。




「アタシは敵の視界を潰すから、火力支援はあんたたちに任せるわぁ」




「はい。隊長」




 サーチライトに暗視ゴーグル。敵が最新鋭の科学装備を備えていることは疑いようもない。




 だが、兵士娘ちゃんたちは軽々とその上をいく。




 アイちゃんは炎と風を存分に生かし、ゾンビに熱を持たせて人のように見せかけたり、人工的な砂嵐や蜃気楼を起こしたりして、敵をかく乱する。




 他の兵士娘ちゃんたちも、一人で一個師団くらいなら余裕で潰せる力があるので、アイちゃんの要求に応えるのは容易い。




 彼女たちがガチれば天候をいじくってヘリを飛ばなくすることさえできるだろうが、そこまではやらない。




 舐めプじゃなくて、力を隠匿するためだ。




 今回の主役は、あくまでサファちゃん。




 目立つのは彼女だけで十分だ。




「ふんふんふんふんふんふんふーん♪」




 月もない新月の夜。




 サファちゃんは目をつむり、鼻歌を歌う。




 ピアノでも弾くかのように繊細に指を動かして、バレエでも踊るかのように跳ねたり回ったりしながら。




 どこか悲しげで妖艶でさえあるその音色が、乾いた空を彩る。




「素敵な曲だね」




「そうでしょ。『夜の鶯』っていうんだよ――もっと他の曲も聞かせてあげるね」




 サファちゃんはにっこり笑って言う。




 その美しい曲名には似つかわしくない、砲声と爆音が戦場に響き渡る。




「『青い月夜の浜辺には、親を探して鳴く鳥が、波の国から生まれ出る。濡れた翼の銀の色』」


 腹に爆弾を詰められた無数の小鳥が、ヘリコプターの死角から、バラバラにプロペラへと殺到する。


「『夜鳴く鳥の悲しさは、親をたずねて海こえて、月夜の国へ消えていく、銀の翼の浜千鳥』」




 鋼鉄の鳥は、やがて砂漠という名の海に没して、見えなくなった。




「――えへへ。どう? ちょっと遅めの花火大会だよ! ほら、お兄ちゃんのお祭り、楽しかったけど、花火大会はなかったから。サファからのサービス! 本当は、爆破って、素体の状態が悪くなるから、あんまりやりたくないんだけどね。やっぱり、夏は花火だから。そうでしょ?」




 サファちゃんがドヤ顔で胸を張って言う。




「あ、ありがとう。やっぱり、夏は花火大会がないと締まらないよね!」




「ねー! あ、でも、サファ、打ち上げ花火も好きだけど、地味なネズミ花火とかも結構好きなの!」




 今度は地上で散発的な爆発が起きる。




 確かに、遠くで聞く分には、その音はネズミ花火に似ていると言えなくもなかった。




 もちろん、実際には、装甲車に、砂の下を潜航したトカゲやらミーアキャットやら虫やらの愉快な仲間たちがスーサイドボムアタック自爆テロをかます殺戮の音色な訳であるが。




 初めは頻繁に聞こえていたそれも、徐々にその回数が減っていき、やがて全く聞こえなくなる。




「あー、もう終わっちゃった。あっ、でも、まだ何人か生きてるみたいだねー。みんなー、追いかけっこの時間だよー。『The other day , I met a bear ,Out in the woods , A-way out there.The other day I met a bear out in the woods a-way out there――』」




 『森のくまさん』を原典バージョンで歌い上げるサファちゃん。サービスに、俺のあげた怨念テディベアとの寸劇までセットだ。




 音もなく、熱もなく、意思はおろか恐怖すらない不死の兵団の前に、今の科学は無力だ。




 人類が苦心惨憺の末に開発する未来のAIロボットと同じかそれ以上のことを、サファちゃんは軽々やってのけるのだから。




 彼女にとっては戦争など、お遊戯の一環に過ぎないのだ。


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